クモもごはんはしっとりが好き? 獲物に水をかける行動が観察される

GIZMODO

ごはんにお味噌汁かける派なのかな。

バーベキューで焼いた後にほったらかされてた肉とか、パーティで食べ切られなかったお寿司とかみたいに、カサカサに干からびた食べ物ほどわびしいものはありません。新たな研究で、クモが虫を食べるときにも同じように感じるやつらがいるかもしれないことがわかりました。

その研究とは、クモが自分の作った網に、小さな沼から水を運ぶ様子を記録したものです。観察した研究者たちの仮説によれば、クモはその水で食べかけの獲物を湿らせることで、より効率的に栄養を摂ろうとしていたようです。

偶然の発見

2020年12月のある夜、オーストラリアのニューカッスル大学の行動生物学者・John Gould氏は、オーストラリア南東部のクーラガング島で絶滅危惧種のカエルを調査していました。彼はふと、沼の近くでアシナガグモ(Tetragnatha)の一種が近くの植物にかけた巣からぶらさがっているのを見つけました。すると突然そのアシナガグモが沼に「バンジージャンプ」し、口いっぱいに水を含むと、再びスルスルと糸を登ってきたんです。その間、5秒ほどでした。

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顔ぐらいの大きさの水滴をホールド。
Image: Young Swee Ming – Shutterstock

沼から水を取り出したクモが網を登っていくと、Gould氏は「すごく奇妙なものを見てしまった」ことに気づきました。

Gould氏によると、クモはその口に含んだ水を、巣にかかって一部干からびた虫へと持っていきました。クモがその前から食べかけていた獲物です。つまりクモが獲物の虫に水をかけたんですが、こういった行動が観察されるのは初めてだそうで、この記録は学術誌Ethologyに発表されました。

とはいえ、虫が水を移動させる行動がこれまでまったくなかったわけじゃありません。たとえばアリが水浸しになった巣から水を運び出したり、ハチやアブが巣の温度調節のために水滴を動かしたりといった行動があることはわかっています。でもこのアシナガグモは、クモとしては初めて、水を持ち運ぶことが確認されたようです。

水をかけて食べやすく?

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アシナガグモ(Tetragnatha montana)の長い口。
Image: Cornel Constantin – Shutterstock

クモは獲物の虫に消化液をかけ、液状にして捕食するのですが、水も飲みます。でもその飲み方はおとなしく、水たまりやそのへんの露を粛々と吸い込む程度です。水を口いっぱいに入れて運ぶという、前のめりなイメージとは全然違います。

「その行動はあっという間だったので、今までめったに見られず、記録されなかったのも驚きではありません」Gould氏は米Gizmodoに対しメールで語りました。

今のところ他の種類のクモが水を運ぶかどうかはわかっていませんが、アシナガグモはその英語名「long-jawed spider(口の長いクモ)」の通り、口の部分が長いのでそれが役立っているのかもしれません。上の画像でわかると思いますが、トゲの付いた左右対称のバナナみたいなものの先端に、毒を出すカマみたいのが付いた口なんです。

「アシナガグモの口は、ほとんど水を運ぶ皿のようなはたらきをしています」とGould氏。

Gould氏らは、アシナガグモが獲物に水をかけたのは、それを食べやすくするためではないかと考えています。クモは捕えた虫に消化液をかけ、液状にして吸い込むんですが、ジャーキーみたいに干からびたものに水分を与えると、そこに栄養分が入りやすくなるのかもしれません。またはクモの水分補給になっている可能性もあります。

「人間が外に出していた米に水気を与えるために水を足すのとか、食事の最後にコップに水を注ぎ足して水分補給するのと似ています」この論文の共著者で、German Center for Integrative Biodiversity Researchの生物学者、Jose Valdez氏は言いました。

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Gould氏が目撃したアシナガグモに近い、Tetragnatha nigrita。
Image: B. Schoenmakers – Wikimedia

虫を食べやすくするためには、クモ自身が出す消化液を追加してもいいんでしょうけど、それだとクモのカロリーや水分が消費されてしまいます。なので牛乳にオレオをダンクするみたいに、水をかけるほうが理にかなっているのかもしれません。

新たな研究の始まり

この研究には参加していないメキシコのベラクルス大学の行動生態学者、Dinesh Rao氏は「じつにクールだ」と言います。「彼らに賛成です。今までには(クモが水を運ぶ行動は)記録されていないはずです」

Rao氏は、巣を道具として水を集めるクモの報告があることも指摘しました。それでも今回見られたような、自力で水を運ぶ行動は、今まで報告されていなかったようです。

この論文は1回きりの観察に基づいているため、クモの行動に対して違う説明もありうるとRao氏は言います。たとえば、水分を与える目的は獲物を食べやすくするためではなく、他のクモに盗まれないための防衛策だった可能性もあります。または虫の毒素を洗い流すという目的もありえます。あるいは、網にかかった獲物に水をかけることで、ジタバタする動きを抑えていたのかもしれません。他の状況でも、クモの巣についた水滴が獲物の捕獲を助けていたらしい証拠があったんです。

とにかくはっきりしているのは、クーラガング島での観察が、「水を集めるクモ」にフォーカスした今後の研究への出発点になることです。Gould氏やValdez氏の次なるステップは、アシナガグモやそれ以外の、今まで水を運ぶ行動が想定されなかった種において、水運びがどれくらい一般的なのかを調査することです。

Valdez氏はこの発見について、「我々の周りの自然についていかに無知であるか、立ち止まって見てみればわかることでも知らずにいるかを示している」と語りました。

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