Raspberry Pi創始者Eben Upton氏インタビュー。気になる供給状況や教育市場について尋ねてみた

PC Watch

Eben Upton氏

 このコロナの中、Raspberry Pi は順調に製品を発表しているが、Raspberry Piの創始者であるEben Upton氏と奥方のLiz Upton氏の日本好きは本物で、ここ数年頻繁に公にもプライベートでも来日していたが、来年(2022年)こそコロナ明けで来日できることを願って、日本のユーザーへのメッセージも含めて、インタビューに応じてくれた。記事の都合上短いものであるが、是非皆さんにお伝えしたいと思う。

日本とのコミュニティについて

--イギリスと日本で行き来できなくなって1年半もたってしまったけど、日本のRaspberry Piコミュニティが恋しいことってある?

Eben: Lizと僕は、日本のRaspberry Piコミュニティに会えなくてとてもさみしく思っているよ。これまでTokyo JamやHackspaceの訪問とか、一緒に過ごして、素晴らしい時間を過ごしてきたからね。規制が緩和されたら、ぜひまた行きたいと思っている。

 特に、英国のコロナロックダウン中に生まれた息子のKitと、前回日本を訪れたときにはまだ1歳だったAphraは、今ではとても明るく活発な4歳の女の子になったので、ぜひみんなに紹介したいと思っている。

 また、Raspberry Pi Picoを作っている稲沢のソニーの工場にも行ってみたいし、“big(ここでのbigは「Pico(かなり小さい単位、一兆分の一)」にかけて既存の製品群を「大きな単位」としている)”な方のRaspberry Piの製品に関する仕事もしたいと思っている。

--日本語版公式Raspberry Piビギナーズガイド(日本語版Raspberry Pi 400キットに同梱)がついに発売され、前から日本で本を出版したいと考えていたと思うけど、初めての日本語版を手にした感想は?

Eben: この本の仕上がりにはとても満足しているし、日本のRaspberry Piコミュニティが翻訳の質を確保するためにサポートしてくれたことにも感謝しているよ。英語版だけを押し付けるのではなく、ユーザーが母国語でコンテンツにアクセスできるようにサポートすることは、僕らにとってとても大事なこと。また、ほかの書籍と同様に、日本語版の公式Raspberry PiビギナーズガイドのPDF版は無料でダウンロードできるので、誰もが手にすることができるよ。

Raspberry Pi 400

今のRaspberry Piのビジネス状況について

--半導体の問題でRaspberry Piの供給に困っていると思うんだけど、この問題を改善するプランってある?

Eben: 世界的な半導体不足はあるけど、僕らはユーザーにRaspberry Pi製品をいち早く入手できるように日々努力をしている。この後1年から1年半の間には供給がもどって、「Raspberry Pi 4」は「Raspberry Pi 3」以前の製品よりも購入しやすくなると思ってる。

 今年(2021年)も昨年(2020年)と同じ数のRaspberry Pi製品を製造/販売するつもりでいるし、需要はものすごくあるんだけど、ただ半導体不足のために需要に応じた生産の規模を拡大するには限りがあって、困っているところだよ。

--Raspberry Piの市場で企業のビジネス利用が急速に増えているけど、さらに増やしてインパクトを与えるようなアイデアはある?

Eben: 今や産業用および商業用のユーザーがビジネスの半分以上を占めている。特にCompute Module 4は、販売開始から12カ月で多くの産業用機器に採用されたんだ。

 また、コマーシャルチームの人員を増員したことで、ユーザーと協力して製品プラットフォームに何が必要かをよくわかるようになった。例えば、多くのユーザからの要望で、2022年にはCM4の広い温度範囲(-40℃~95℃)に対応したバージョンを提供できると思う。

Raspberry Pi 4

プログラミング教育について

--日本の学校のプログラミング教育コミュニティの1つであるcoetecoの人たちと話す機会があって、子供のプログラミング教育のビジネスについて議論したことがあるんだけど、日本の子供の教育は欧米に比べて本当に“遅れて”いて、彼らはYouTubeのストリームを見たり、遠隔地の会議に参加したりするだけで、小学校ではプログラミングを学ばず、中学では選択科目として「技術・家庭科」、高校では選択科目として「情報学」を学び始めるらしい。これって実にEbenさんがなぜRaspberry Piをつくったか? という状況に似ているんだけど、日本の教育事情に対してどう思う?

Eben: イギリスでも同じ苦労があることを意識することが大切だと思う。カリキュラムが充実してきたとは言え、それを教える教師をもっと育成する必要がある。そのために、Raspberry Pi財団では、教師のトレーニングを行なうNational Centre for Computing Educationの運営を支援しているんだ。で、僕らにとって効果的だったのは、2つのアプローチを同時に追求することだった。

1. 政府にカリキュラムの変更(適切な人材が新しいカリキュラムを作成すること)と教師の再教育への資金提供を働きかけること。
2. ClubやJamを運営したり、無料のオンライン教材を制作したりすることで、(1)のことをしている合間に、子どもたちが学習を始めたり、サポートしてもらえる誰かを見つけること。

新しいコンセプトのRaspberry Pi Picoについて

--RaspberryPi Picoはフィジカルコンピューティングを学ぶにはとても良いし、DIY(ホビー)Makerにも良いと思うけど、DIYビジネス市場への影響はどうだろう? BtoCのDIY趣味のユーザーは、Raspberry Piのユーザーの中ではまだ多いと思うけど、継続的にこの市場を拡大するのは本当に難しいと思う。

Raspberry Pi Pico

Eben: “big”なほうのRaspberry PiがハードウェアDIYビジネス市場に与えた影響と同じように、Picoを使ってMakerや中小企業が成功できる革新的なソリューションを簡単に作れるようになれればと思っている。もちろんPicoの素晴らしいところは、RP2040チップ自体も購入できることで、大規模なビジネスでも製品のカスタマイズがより簡単にできるようになっているんだ。

 もう少し深くツッコミたい部分や聞きたいことがやまほどあるが、コロナ明けにEbenが来日したときでもイベントを開催して、彼にいろいろ聞けるような形も開きたいと思っている。

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