アーケードゲーム最初期のヒット作品といえば「ポン(Pong)」が知られています。「ポン」を手がけたノーラン・ブッシュネル氏は実は世界初のアーケードゲームである「コンピューター・スペース(Computer Space)」という作品も世に送り出していました。「コンピューター・スペース」が残念ながら「ポン」ほどのヒットとならなかった理由について、ブッシュネル氏は「当時ゲーム機が置かれていたゲームセンターやバーに来る人がプレイするにはルールが難しかった」などと振り返っていますが、当時のゲーム状況を調べた研究者は、ブッシュネル氏とは異なる結論を導いています。
Computer Space launched the video game industry 50 years ago – here’s the real reason you probably haven’t heard of it
https://theconversation.com/computer-space-launched-the-video-game-industry-50-years-ago-heres-the-real-reason-you-probably-havent-heard-of-it-168349
「コンピューター・スペース」はブッシュネル氏が1971年10月15日、シカゴで開催された展示会「Music Operators of America」に出展した世界初のアーケードゲームで、ジュークボックスやピンボールマシンと並べられ、ゲームセンターやバーのオーナー向けに販売されました。
アポロ11号による有人月面着陸成功から2年後という時代背景を受けて、宇宙空間を飛び回りながら空飛ぶ円盤と戦うという内容で、1973年に公開されたリチャード・フライシャー監督の映画「ソイレント・グリーン」の中にゲーム筐体が登場しています。
しかし「コンピューター・スペース」は、1972年に発売され約1年で8000台を販売したという「ポン」と比べてはあまり人気が出ませんでした。ブッシュネル氏は「バーに行く人にとって『コンピューター・スペース』は難しすぎました」「ゲームを遊ぶために説明書を読みたい人はいないでしょう」などと反省していたとのこと。
ところが、カリフォルニア大学サンタクルス校のノア・ウォードリップ=フルーイン教授。フルーイン教授は著作「How Pac-Man Eats」執筆のための研究を行う中で、ブッシュネル氏とは異なる意見を持つに至りました。
根拠となったのは、1962年2月にMITのエンジニアグループが作ったゲーム「スペースウォー!(Spacewar!)」です。当時、まだまだコンピューターは大型で高価な「メインフレーム」が中心でしたが、「スペースウォー!」はミニコンピューター市場を切り開いたPDPシリーズ向けにリリースされた無料ゲームでした。
リリース時は、星空を背景にして、向かい合った2隻の船で打ち合うゲームでしたが、2カ月後にプレイエリアの中心に大きな星が配置され、船が重力の影響を受けるようになりました。
by Joi Ito
フルーイン教授によると、「コンピューター・スペース」登場当時、スタンフォード大学では「スペースウォー!」の派生版である「The Galaxy Game」が学生組合に置かれて1コインで遊べるようになっており、学生が数時間待ちという行列を作っていたそうです。
「The Galaxy Game」に集った大学の学生と、「コンピューター・スペース」に見向きもしなかったバーの客はそれほど重複しないため、ブッシュネル氏の言う「難しすぎた」が当てはまる可能性はあります。
しかし、フルーイン教授は、納税申告書をPCソフトの助けもなく作成したり、紙のインデックスカードを使って図書館の蔵書を見つけたりしていた人々が、「コンピューター・スペース」を難しく感じたのかという点を疑問視し、むしろ、「スペースウォー!」や「The Galaxy Game」にあって「コンピューター・スペース」になかった、「重力の影響」がゲームのヒットに関与したのではないかと考えました。実際、「スペースウォー!」では画面中央の星が重力の井戸となることで、自機を星に向かって移動させ重力を利用する戦略が採れたとのこと。
「コンピューター・スペース」で重力の設定がなかったのは、汎用コンピューターではなくテレビの技術を使って作られていたからだそうです。ただし、「スペースウォー!」は汎用コンピューターベースだったので重力は設定できたものの、アーケードゲームとして発売するには高価すぎたとのこと。このため、後になってカスタムプロセッサを追加して問題を回避したそうです。
なお、当時のアタリ社員であるジェリー・ジェショップ氏は「コンピューター・スペース」について「プレイ経験は最悪だった」と振り返っています。
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