国が2歳児にマスク推奨するワケ – PRESIDENT Online

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新型コロナの感染拡大のため、政府は2歳以上の保育園児にマスク着用を推奨する通知を出した。大阪教育大学教育学部の小崎恭弘教授は「2歳児にマスクを着けさせるのは現実的ではない。しかし、通知されれば現場の保育士に判断が委ねられる。なぜ現場の負担と不安を増やすのか」という――。

幼稚園児の息子にマスクと帽子をかぶせる母親の手元※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Edwin Tan

「2歳児マスク」になぜ異論が相次いだのか

2月8日、厚生労働省は保育所などへ感染症対策として、「可能な範囲で、一時的に、マスク着用を推奨する」という通知を出しました。この通知には「満2歳未満児には推奨しない。子どもや保護者の意図に反して無理強いしないなど、留意点を整理して現場に周知」と書かれています。

当初、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は「2歳児以上のマスク着用の推奨」を提案する予定でした。これに異論が相次いだことから、通知に「無理強いしない」という文言が盛り込まれたようです。しかし「満2歳未満児には推奨しない」という書き方になっているため、2歳以上にマスク着用を推奨しているとも読めます。

そもそも2歳児とはどのような年齢なのでしょうか? 保育所で2歳児というのは2つの考え方があります。「満2歳児」と「2歳児クラス」です。

満2歳児とは、誕生日がきて2歳児になる子どものことです。つまりこの子どもたちは、1歳児クラスに在籍している子どもです。一方、2歳児クラスとは、4月の初めは全員2歳ですが、それぞれの誕生日が来ると3歳児になる子どもたちです。

まだまだ不器用で「イヤイヤ期」が始まる2歳児

ちなみに当初案では、より幼い「満2歳児」へのマスク着用を求める考えだったようです。保育関係者や保育施設にお子さんを預けておられる方はイメージしやすいと思いますが、1歳児クラスの子どもたちにマスクをすることはとても困難なことです。

もう少し具体的にイメージができるように2歳児について説明をしましょう。体重や身長は以下のようになってきます。ようやく歩いたり走ったりすることはできますが、まだまだ不安定さがあり、当然ですが周りの大人の見守りや保護が必要です。

2歳6カ搈の子どもの平均身長と体重
※厚生労働省「21世紀出生児縦断調査」より

また手先の巧緻性は少しずついろいろなことができるようになってきますが、こちらもまだまだ不器用です。お箸を使うこともできませんし、スプーンを使いながら食事はしますが、こぼすことも多くあります。言葉のやりとりもある程度できるようにはなりますが、自分の思いや意志の言語化や適切なタイミングでの会話は難しいところです。

また「恐怖の2歳児」「魔の2歳児」と言われるように、自我の芽生えから、自分の思いを無理に押し通そうとしたり、過度なわがままや感情の爆発がある「イヤイヤ期」といわれる対応の困難な時期に入っていくタイミングでもあります。

子どもの周りの人が「マスクだらけ」のリスク

現在保育所においては多くの場合、保育士や他のスタッフはマスクをして保育の業務を行っています。保育士自身がコロナの感染源にならないこと、同時に子どもからの感染を予防するためにマスクを着用しています。この保育施設のマスク着用は、コロナの流行当初からいくつかの懸念がなされていました。

その最も大きなものは、子どもたちが保育者の表情を読み取れないのではないか? ということです。特に1、2歳児に関して心配をされていました。この1、2歳児の頃は、周りの人や環境と関わりそれらを自己の中に取り入れて成長をしていくという、大きな特徴があります。

当たり前と思われるかもしれませんが、日本人は日本語を、イタリア人はイタリア語を習得していき、当然のごとく話すことはとてもすごいと思いませんか。それができるのは幼少の時から、周りの豊かな言葉環境の中で外界の刺激を受け、それらを取り込んで成長するからです。

相手の顔から言葉やコミュニケーションを学んでいる

これら外界のものを取り入れる行為を「模倣」と言います。簡単にいうと「まねっこ」です。しかしマスクがあると、口の動きを見ることができず、微妙な口を動かす模倣をしにくいのではないかと考えられます。言葉に関する成長に不安を感じます。

またマスクで覆い隠されるのは言葉だけでなく、口も含めた顔の表情全体もそうです。そのことにより情による豊かなコミュニケーションが取りにくいことも、子どもたちの成長の阻害要因ではないかと心配する声もあります。マスク自体をつけることは、安全のために仕方がないことなのですが、それが子どもたちにどのような影響を及ぼすのかは、まだはっきりとはしてはいないのです。

乳児を抱く母親は不織布マスクを着用している※写真はイメージです – 写真=iStock.com/SanyaSM

マスク着用の必須条件は「自分でつけ外しできる」

ここでは具体的に、2歳児の子どもがマスクをするのが難しい3つの理由を考えていきましょう。

(1)マスクがリスクに

先ほども述べましたが満2歳児は1歳児クラスの子どもたちです。もちろん個人差も大きいですが、全般的に本当に幼いのです。マスクを着用する最低限必要な資質・条件は「自分でつけ外しが可能である」ことだと思います。明確な原因は不明ではありますが、コロナ禍においてマスクの着用に対する健康被害の報告もあります。

2歳児は残念ながら、確実な自分でのつけ外しができないでしょう。また同時に自分自身の思いを正確な言葉で他者に伝えることも苦手です。「息苦しい」「しんどい」などを明確に言葉にすること、また感情を伝えることはできないのです。その上呼吸器や肺活量なども大人とは違い大変弱いものです。マスクをつけること自体が、窒息などの被害につながる可能性もあります。

また2歳児の中にはまだまだ「よだれ」が出でいる子どもたちもいます。スタイ(よだれ掛け)をつけて生活をしている子どももいます。その子どもたちがマスクをつけた場合、マスク自体がよだれで汚れてしまいますし、感染予防のマスクが感染源になる可能性も否定できないでしょう。マスク自体がリスクを高めるものになってしまい、本末転倒になるのではないでしょうか。

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