こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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ファッションの包括性についての話題が増えるにつれ、ジェンダーレスまたはジェンダーニュートラルなシューズのコレクションを発売するフットウェアブランドは増え続けている。
今月初め、アディダス(Adidas)とステラマッカートニー(Stella McCartney)は共同で黒色とオレンジ色のジェンダーニュートラルなアスレチックシューズを発売した。ナイキ(Nike)はWNBA(ウィメンズ・ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)のスター選手であるサブリナ・イオネスク氏と提携し、ジェンダーニュートラルなスニーカーのサブリナワン(Sabrina 1)を開発して、今夏後半には発売予定だ。スポーツウェアとラグジュアリーシューズの境界線を行き来するフットウェアブランドであるウルフ&シェパード(Wolf & Shepherd)は、3月初めに最初のジェンダーレスコレクションであるクルーズ(Cruise)を公開した。
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ジェンダーニュートラルなアパレルと同様、ジェンダーニュートラルなフットウェアも、メインストリームやハイエンドのファッションにおいて支持されはじめている。フットウェアは伝統的に男性向けと女性向けに分けられていたが、すべての人々を引き付けると称されるシューズを製造するブランドが増えつつある。ジミーチュウ(Jimmy Choo)などいくつかのブランドは、足の大きな人々に合わせた大サイズのシューズを発売した。一方でプーマ(Puma)などのブランドは、従来は特定のジェンダー向けだったピンク、コーラル、ラベンダーなどの色のシューズを多数販売している。ニックケイシー(NiK Kacy)のように、ひとつの靴型(足の形をした機械的なフォーム)からシューズを作り、1セットの数値でサイズを提供するブランドもある。
市場についていえば、「ユニセックスフットウェア」と呼ばれるものは長年にわたって販売されてきたと、サーカナ(Circana)のフットウェア業界アナリストであるベス・ゴールドスタイン氏は米モダンリテールに語った。クロックス(Crocs)、コンバース(Converse)、ビルケンシュトック(Birkinstock)、そのほか多くのブランドは、同じ色で同じシューズを顧客向けに製造してきた。しかし、これらのシューズは多くの場合に男性向けまたは女性向けのカテゴリーに分けられ、依然としてジェンダーの二分に寄与してきた。今日のファッションにおいて「ジェンダーレス」や「ジェンダーニュートラル」という用語が大きな脚光を浴びるようになってきた。特に、「現代の若い層の消費者はジェンダーについて同じ見方をしていないため」だと、ゴールドスタイン氏は述べている。
これまで見過ごされてきた市場
ニック・ケイシー氏は、自分の名を冠した、ジェンダー平等でジェンダーフリーと定義したシューズ会社を2013年に創業した。「トランスジェンダーかつノンバイナリージェンダーである私は、自分の足に合うだけでなく、自分のジェンダー表現にも一致する靴を探し続けてきた」と、同氏は米モダンリテールに語った。このプロセスの鍵となるのは、「自分がいつもどのようなシューズを履きたいと願ってきたのか、という観点からシューズをデザインすることだ」と同氏は述べている。
フットウェアビジネスでは新参者だったケイシー氏は、これまでの貯金を使って独自のシューズを開発した。ほかの人々から、どこでそのシューズを入手できるのかと聞かれるようになり、独自ブランドの構築に専念するようになった。同氏は数カ月にわたって欧州とのあいだを往復して調査を行い、プロトタイプを作成した。しかし、希望するシューズを製造する工場を探すのは困難だった。同氏は製造業者と面談したとき、多くの抵抗を受けたという。「この業界自体が非常に旧態依然で、シスジェンダー、男性、ヘテロセクシャル、白人中心だ」と、同氏は述べる。「そのため、私が受けた反応は、『それが問題なのは知っているが、投資しても割に合わない』や、『男性向けシューズを女性向けに作ってどうするのか?』といったものだった」。
最終的に同氏は、シューズには疑問を持ちながらも製造に同意してくれる製造業者を見つけた。「私は、その製造業者が成長して、視点を変えなければならないことを学んだと思う。私は最終的に、彼が間違っていると証明したからだ」と、同氏は述べている。
そのあとでパンデミックが起き、事態の進展は減速しはじめた。人々が自宅で過ごし、買い物客のパターンが変化したことで、同社のビジネスは「まったく成長しなくなった」と、ケイシー氏は語る。しかし、ここ数年間に成長は回復した。「需要は間違いなくある」と、同氏は述べる。「常に人々が自分のサイズのシューズを求めてやってくる」。現在の課題は、この需要に見合う十分な資金を調達することだと、同氏は述べている。「私は現在どうやったら自社のビジネスをスケーリングさせ、成長させられるかを考えている」。
「あらゆるものがジェンダーレスになり得る」
2015年に創設されたウルフ&シェパードは当初、男性向けフットウェアブランドだった。しかし、多くの女性が同社のブランドを履くようになったため、共同創業者であるジャスティン・シュナイダー氏とホープ・シュナイダー氏はジェンダーレスのシューズを作り上げることにした。その結果として3月初めに、レースアップ(Lace-Up)、ミュール(Mule)、トレ(Tre)という3種類のスタイルからなる「クルーズ」が発売された。同社のほかのシューズと同様に、クルーズコレクションは中敷が3サイズあり、顧客は自分の足にぴったりフィットするような中敷を交換することができる。これら3モデルの小売価格は色によって189ドル(約2万5100円)から229ドル(約3万500円)だ。
同社がクルーズでめざしたのは、デザイン性が高く高品質で、ジェンダーレスなフットウェアの分野で目立つ商品を市場に送り出すことだった。「ジェンダーレスなカジュアルスニーカーはいくらでもあるが、我々はプレミアムやラグジュアリーの分野に、そのように作られた商品が存在しないと感じていた」と、ホープ・シュナイダー氏は米モダンリテールに語った。
クルーズの開発には2年間を要し、「ほとんどの大手ブランドは、当社と同じ時間をかけ、同じペースでやり取りを重ねて取り組む余裕はない」と、ジャスティン・シュナイダー氏は認める。同社はラピッドプロトタイピングプロセスを使用してシューズを開発し、ストレステストを行って、内部と外部の部品を調整する作業を「市場に送り出すまでに、おそらく数十回は行った」と語る。最初の2週間だけで、約2000人の顧客がこのシューズを注文した。ノードストローム(Nordstrom)もこの夏、全国のいくつかの百貨店でクルーズを取り扱う。
ウルフ&シェパードは、よりドレッシーなスタイルも含めて、さらに多くの商品を開発中だ。「当社は現在、あらゆるものがジェンダーレスであり得ると考えている。すべての人々に向けた商品をデザインするのは非常に楽しい探求で、ある意味未来的なことだ。そして、これは当社が今後開発するあらゆる商品について必須条件だと感じる」と、ホープ・シュナイダー氏は述べている。
サーカナのゴールドスタイン氏は、需要に対応して、より多くのジェンダーニュートラルなフットウェアが市場に表れることを期待していると、米モダンリテールに語った。それに伴い、小売業者は商品の分類方法を見直す機会も出てくると、同氏は説明する。ほとんどの小売業者は依然として、店舗を男性向けと女性向けの売り場に分けている。「しかし、今後、このようなジェンダーレスな買い物をするために、将来売り場はどのように進化するだろうか?」と、同氏は問いかけている。
男性向けと女性向けのどちらか、あるいは、両方に特化したフットウェアブラランドは、常に存在し続けるだろう。しかし、小売業者にとって「より魅力的な方法で商品のマーチャンダイジングを行うにはどうすればいいか」を考えるのは興味深いことかもしれないと、ゴールドスタイン氏は指摘する。たとえば、「2つの売り場に分ける代わりに、ひとつの大きなプレゼンテーションとして合体し、消費者に判断してもらうのだ」と、同氏は述べている。
[原文:Gender-neutral shoes continue to gain traction in the footwear industry]
Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Wolf & Shepherd