酒で人生順調に? 実験描いた映画 – 羽柴観子

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血中アルコール濃度を一定に保つと人生が順調に?

お酒が大好きだ。晩酌なしでは一日を終えた気がしないので、毎晩飲む。休肝日を設けることは一年を通してほとんどない。テキーラが好きでメキシコへ行ってみたり、国内旅行の際には旅程に酒蔵見学を組み込んだりと、とにかく隙あらば何らかの理由をつけて飲んでいる。

そんな私だが、昨年から続くコロナ禍で、職場にリモートワークが導入されたことを友人に話すと「仕事中、お酒飲んでない?」と半分冗談、半分本気で確認された。
「神に誓います。飲んでいません」

©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

映画『アナザーラウンド』はノルウェー人哲学者のフィン・スコルドゥールが主張する「人間は血中アルコール濃度が0.05%足りない状態で生まれてきている」という理論からヒントを得て生まれた作品。「血中アルコール濃度を0.05%に保つことで仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」ということを証明するためにマッツ・ミケルセン演じる冴えない高校教師マーティンと同僚3人が自ら実験するというストーリーだ。

血中アルコール濃度0.05~0.10%は「ほろ酔い期」

そもそも血中アルコール濃度0.05%を保つにはどれぐらいの量のお酒を飲めば良いのか。
彼女募集中、酔うと脱ぎがちな音楽教師のピーター(ラース・ランゼ)曰く「ワインならグラス1~2杯」。アルコール検知器「ソシアック」のホームページによると、0.05~0.10%は「ほろ酔い期」にあたるそうで、酒量としては日本酒なら1~2合、ビールの中びん1~2本、ウイスキー・シングルで3杯分だという。
まあまあな量だ。人によってはほろ酔いを通り越してしまい、仕事どころではなくなるのではないだろうか。

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早速、朝から飲酒して学校へ出勤するマーティン。結果は「大成功!」である。
明るく爽やかに挨拶ができるようになり、惰性でやり過ごしていた授業も活気に満ち溢れていて、生徒たちとの関係も良好になっていく。「数々の名作を残したヘミングウェイも酒を飲みながら執筆していた!」とニコライ(マグナス・ミラン)は意気揚々と語る。

お酒の力を借りたかりそめの力、果たしてその行方は…

こうしたマーティンの変化をみて、少々苦笑いになる。この酔い方には身に覚えがあるからだ。
私は人見知りのため、何回か会ったことのある相手でさえ緊張してしまい、うまく会話することができない。しかし、お酒が入った状態だと愛想よく挨拶ができるし、世間話もすらすらと出てくる。そんな状態で出会った人とシラフの状態で再会するのは非常に気まずい。普段の私は、冴えない、暗い、退屈な会話しかできないマーティン状態だからだ。

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マーティンたちの陽気で明るいコミュニケーションや仕事ぶりもお酒の力を借りたかりそめのもの。酔っぱらった状態で仕事をしていることがバレたら大変なことになるのは目に見えている。その一方で、人生がうまい具合に転がり始めた彼らをみていると「コントロールできる程度の少量の飲酒なら良いのではないか?」という思いも湧き上がってくる。
しかしこの素晴らしい実験結果に味をしめた彼らは次第に実験を加速させ、血中アルコール濃度の設定は0.05%を超えていく…。

数々の賞を受賞した名作『偽りなき者』監督との再タッグ

数多くあるお酒をテーマとした映画作品。有名なのは『ハングオーバー』シリーズだろう。お酒の飲みすぎがきっかけで巻き起こる騒動はあまりに非現実的…と100%言い切れないなら(私は言い切れない)あなたも立派な酔っぱらい。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』で知られる、エドガー・ライト監督の『ワールズ・エンド』は当時、試写会場でビールが振る舞われるという粋な計らいに感動した覚えがある。
ルトガー・ハウワー主演、エルマンノ・オルミ監督による『聖なる酔っぱらいの伝説』では酒ばかり飲んで約束を何度も反故にしてしまうだらしのない酔っぱらいの様子が描かれるが、酒飲みなら彼を真っ向から批判することなどできないはずだ。

本作のメガホンをとったのはデンマーク出身のトマス・ヴィンダーベア監督。マッツとは2012年の映画『偽りなき者』以来の再タッグとなっている。また、同作で共演したトマス・ボー・ラーセンとラース・ランゼも再登板。脚本も『偽りなき者』と同様にトビアス・リンホルムがヴィンターベア監督と共同脚本を務めるなど、もはや期待しかない最強の布陣だ。

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『偽りなき者』は第65回カンヌ国際映画祭で主演のマッツ・ミケルセンを最優秀男優賞に導き、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど世界中で絶賛された社会派ドラマ映画。
そんなヴィンダーベア監督が手掛けたからこそ、『アナザーラウンド』はお酒をテーマとした突飛な設定ながら、ただ笑える娯楽映画に終始することなく、お酒の持つ負の側面――“闇”の部分についても真摯に向き合う、上質な人間ドラマに仕上がっている。

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