SIer領域で急増するデザイン業務:NTTデータとIDL が導き出すのは「手触り感あるアウトプット」

DIGIDAY

※この記事は、ミレニアル世代のビジネスパーソンを主要ターゲットに、政治、経済、金融、テクノロジー、企業戦略、スポーツなど幅広い分野のニュースを日々配信している「Business Insider Japan」からの転載です。

システムのコンサルティングから開発・運用・保守までを担うSIer(システムインテグレーター)。現在この領域ではデザイナーの需要が非常に高まっており、世界各地で大小さまざまなデザインファームが飛躍のための手段を探っている。

NTTデータのデザイナー集団「Tangity(タンジティ)」もその一つ。Tangityは伴走者にインフォバーンのデザイン部門「IDL[Infobahn Design Lab.]」(以下、IDL)を迎え、デザインの力でともに未来を切り拓こうとしている。

Tangityは、なぜIDLというパートナーを必要としたのだろうか。SIerならではの課題と可能性について、Tangityのデジタルテクノロジー推進室でエグゼクティブ・サービス・デザイナーを務める村岸史隆氏と同じくシニア・エキスパートの石澤知紀氏、IDLのデザインストラテジストの野坂洋氏に話を聞いた。

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急増するデザインニーズに応えるための「良き相談相手」

Tangityは2020年、世界各地16カ所にあるNTTデータのデザインスタジオの連携を深め、サービスデザインの強化を図るために設立された。

「実は今、SIerの領域でデザイナーの仕事が急激に増え、人手不足で採用も難しくなってきているんです。高度なデザイン人材のマーケットが枯渇状態になっているため、デザイナーが入りたいと思ってくれるブランディングを、採用マーケットに向けて発信していくというのが設立の大きなポイントになります」(村岸氏)。

現在は特にヨーロッパでのニーズが非常に高まっており、案件は増え続けているという。

Tangityでは、NTTデータに新卒として入社し、コンサルタントやPM(プロジェクトマネージャー)、エンジニアのキャリアを持つプロパー社員が、デザイナーに転身し活躍している。そこに、多様なキャリアを経験してきた中途採用のデザイナーも加わったハイブリッドチームがTangityだ。

発足当初はハイブリッドならではの課題にも直面したという。

「それぞれに力があったとしても、多様なバックグラウンドを持つ集団だけに、コミュニケーションがスムーズに行かずシナジーを発揮しにくいこともあります。

そこで、SIerの仕事をよく理解していてデザイン経営にも造詣の深いIDLに入ってもらい、いい意味で組織をかき回してもらうことにしました」(村岸氏)。

Tangityからのアプローチを、IDLはどう受け止めたのだろうか。

IDLデザインストラテジストの野坂洋氏。NECグループのSI子会社でBtoB向けキャンペーンやCMS導入、CRM企画・試行など、Webマーケティングに従事。その後、NEC CRM本部宣伝部でソーシャルメディアガイドライン整備などマーケティングコミュニケーションの基盤作りを担当。外資系エージェンシーを経て、2015年にインフォバーンに移籍。デジタルマーケティング支援や、UXリサーチ、新規事業開発支援などイノベーションやデザインコンサルティング領域を中心に企業支援を行う。

「Tangityが進んでいる方向には、あらゆる組織や人が抱える『相談しづらいもやもや』が広がっていて、ビジネスチャンスがいくつも転がっているように感じました。だから組織をサポートするだけでなく、僕自身も一緒にチャレンジしたい、デザインの力でできることをもっと主体的に取り組んでいきたいと思ったんです」(野坂氏)。

案件の増加に伴って、Tangityがカバーする領域は広がり、抱える仕事のボリュームも増え続けている。「相談が殺到して正直いっぱいいっぱいの状況」(村岸氏)というTangityのデザイナーにとって、IDLは突破口を開くための良き相談相手にもなっているようだ。

「とにかく、行き詰まったら野坂さんに相談する。ブレストの壁打ちのように話を聞いてもらうこともあります。若手デザイナー向けには、オンラインの『相談室』も開設しているんです」(村岸氏)。

IDLが入ることで獲得した新たな「スコープ」

TangityがIDLとタッグを組んだ効果は、コミュニケーションの円滑化だけではない。

IDLの大きな特徴として、村岸氏は「方向性は僕たちと似ているけれど、IDLのほうがより広いスコープを持っている」と語る。

Tangityのエグゼクティブ・サービス・デザイナー、村岸史隆氏。アメリカでデザイナーとして勤務後、日本に帰国。外資の事業会社、広告会社、出版社、デザインファームでプロダクト、サービス企画、デザイン組織立ち上げなどを実施。2020年NTTデータに入社し、デザイナー集団「Tangity」のデザイン責任者としてさまざまなプロジェクトの推進からデザインディレクションまで幅広く取り組んでいる。

その理由は、IDLがデザイナーだけでなく、編集者、マーケターなどさまざまなバックグラウンドを持つ者が集まるハイブリッドチームでもあるという点が挙げられる。事実、野坂氏のファーストキャリアはSIerだ。

「IDLの広いスコープのおかげで、知識やアイデアが増えていく。それが、コンセプトの面でもリサーチやファシリテーションの面でも、スキルセットの面においても新たな可能性を生んでいます」(村岸氏)。

さらにIDLがユニークなのは、コンセプトメイキングに終始しないことだという。

「Tangityという名称の由来はtangible、つまり手触り感があるという意味です。デジタルというと触れられない幻想のようなイメージを持たれることが多いのですが、僕たちはもっと手触り感のあるアウトプットをしていきたい。

クラフト感のある開発・実装を重視しているIDLとは、価値観を共有できています」(村岸氏)。

そうした手応えがIDLの行動半径を広げ、Tangityがほかのデザインファームと合同でプロジェクトを進める際にIDLも加わってディレクションやレビューを行うこともあるという。

大局観で物事を捉え、バックキャスティングして考える

Tangityに寄せられる依頼の中には、「チャットボットの開発をしてほしい」「アプリを作ってほしい」といったシステム開発に関するものも少なくない。

しかし、Tangityのパーパス(存在意義)は、何のためのシステム開発なのかを問い直して根本的な課題を掘り起こし、本当に最適なソリューションへと導くことだという。

Tangityのシニア・エキスパート、石澤知紀氏。2019年にNTTデータに中途入社。それまで、主に金融SIerにてアプリケーション設計、開発に従事した後、2015年よりデザインコンサル領域で新規事業開発や伴走支援、サービスデザイン業務を担当。近年は従来のキャリアに加え未来シナリオデザインに取り組んでいる。

「目の前にある課題だけではなく、現時点ではまだ見えていない未来を見通すような提案をしたいと考えています」(石澤氏)。

たとえば、30年後に街はどんな姿になっているのか、あらゆる街がビルの形状をしていたらどんなことが起こりうるのか、そのときの課題を解決するためには10年後にどうなっているべきなのか……。

「そうした遠い先の未来を構想し、そこからバックキャスティング(逆算)して考え、そのために必要なソリューションを提供していく。未知のテクノロジーが用いられた世界をより良いものにするにはどうしたらいいかといったことにも挑戦していきたいですね」(石澤氏)。

「今、ここにないもの」を想像してバックキャスティングすることは、IDLの得意分野でもある。

「未来を想像することは簡単なようで実は難しいんです。インプットする内容を上手に選ばないと、バイアスだらけになったり、ただの妄想になったりしてしまう。

何をどうイマージョン(浸透)していくべきなのか。クライアントも巻き込んで、思考のヒントにつながる素材や情報を提供しながら考えを深めていけるようにしています」(野坂氏)。

思考のプロセスには、「トライブリサーチ」というメソッドを使った独自のプログラム「Future SEEKing Program」も取り入れている。

「さまざまなテーマで極端なライフスタイルを持つ生活者を定点調査したレポートから、過去の延長線上では見出しにくい『きざし』を捉えて強い仮説を設定する。そこから今はまだいない未来の生活者の体験を設計して、ときにSFストーリーとしてプロトタイピングするプログラムです」(野坂氏)。

「失敗は許されない」SIer文化が変わり始めた

課題やニーズの根本を見極め、より大きな課題を掘り起こして考える。デザイン経営の根幹とも言えるプロセスだが、実はSIerにとっては未知の世界でもある。

「仕様書通りに正確にシステムをつくり、誤作動を起こさないことが求められる世界なので、『失敗は許されない』という意識が強いんです」(村岸氏)。

そうしたSIerの文化とも言える発想を解きほぐすため、IDLと連携して、日常的なコミュニケーションの中やワークショップなどで「問い直して考える」ことを実践してきたという。

たとえば、金融機関のクライアントから「チャットボットを開発したい」という依頼があったとする。それが技術的に可能だったとしても、「その根底にあるニーズはそもそも何なのかを問う必要がある」と野坂氏は言う。

「理由を深掘りしていくと、実は『若年層を顧客にしたい』という根本的な提供側のニーズに行き当たることが往々にしてあるんです。すると、利用者にとって必要なのは本当に口座を便利にすることなのか、ほかにもあるのではないかという新しい問いが生まれてきます。

たとえば、今の若年層は『何者かになりたい』という願いを少なからず抱えていると仮説を立てるとします。すると、その道を歩めるようなサービス、支援を考えていくほうが、より利用者側のニーズに合った展開ができる。そんなふうに隠されたニーズを探っていくことで、より実現したい未来をイメージできるようになるわけです」(野坂氏)。

問い直しを重ね、真のニーズを探っていく。その繰り返しのおかげか、これまで仕様書通りに問題なくつくることに精力を注いできた現場の人々も、少しずつ思考の回路が変わってきたという。

「依頼されたものをただ作るだけではなく、事業計画書を読み解いて戦略方針を知り、相手が本当に実現したいものは何かを考える。そうした方向に変わりつつあります」(村岸氏)。

「変な存在」の刺激があるから先に進める

「クライアントにとって、プロジェクトのカウンターパートはTangityですが、そのバックにはシステムエンジニアをはじめたくさんのプロフェッショナルが控えています。コンセプトを作って終わるのではなく、大局観を描きながら正しいものをアウトプットできるベースがすでに備わっているわけです」(野坂氏)。

その力を最大限に引き出すため、IDLはそれぞれが内発的に「やりたい!」という思いが湧き上がるような「スイッチ」を意識的に仕掛けているという。

「IDLは、私たちのことを理解してくれる『変な存在』です(笑)。もちろん、いい意味で。予想もしていなかった発想やアイデアを出してくれるから刺激になりますし、先に進める。唯一無二の存在だと思っています」(石澤氏)。

問い直しによって思索を深め、SIerの可能性を最大限に引き出すサポートをしているIDL。コンセプトを開発・実装につなげていく強力なパートナーとしての存在感は、今後も増していきそうだ。

IDLが提供するポッドキャスト『IDL/R』では、本記事のアフタートーク「手触り感のあるコンセプトメイキング」を公開しています。

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