2023年2月10日公開の映画『バビロン』を見てきた。なんでもありの勢いと、目も眩むほどの豪華絢爛さ、そして光から闇への急転直下。
3時間越えの長編でありながら、息つく暇は一切なし。これほど安心して見られない作品が、未だかつてあっただろうか。
・ハリウッドの過渡期を描く
『バビロン』の舞台は1920年代のハリウッド。サイレント(無声映画)からトーキー(発生映画)に移行する、その過渡期を濃厚に描いている。
主な登場人物は大物俳優に監督やプロデューサー、映画の世界に憧れビッグになることを夢見る若者たち。時代に翻弄(ほんろう)されながらも、それぞれの人生を突き進んでいく。
そんな彼らのキャラクターは、実在の人物がモデルとなっていることもあってか、とても生々しい。故にはじめから終わりまで、スクリーンに映し出される人びとの生き様に目が釘付けになること請け合いだ。
・一筋縄ではいかない作品
本作は “R15+指定” がかかっていることからもお気づきだろうが、色んな意味でとにかく過激。記者がそれを悟ったのは、物語の冒頭だ。
こちらがどのあたりに気持ちを置いて見ればよいか判断し兼ねているところで、お構いなしに頭上から巨大なナニかを投げつけたような衝撃をぶつけてくる。
「ああ……この感じで3時間続くんだな」という諦めと、決まる覚悟。ならば迎え撃つまでと気合を入れるが、展開は予想外の方向にばかり進んでいく。
感情がまるで追いつかないまま、しかしその勢いに押されて世界観に没入。絶え間なく流れるドラマチックな音楽と轟音が、より一層激しさに拍車をかけ、どこで呼吸をすればよいのかわからないほどだ。
1920年から30年に向かうハリウッドの歴史を知っている人であれば予想がつくかもしれないが、天から一瞬で地へと堕ちる、またその逆も然(しか)りな時代の話。
そんな場所に身を置く登場人物たちの姿を、目の当たりにするのだ。視聴後に爽快感が残るばかりではない。言い知れぬモヤモヤや、歴史的背景を含め消化しきれない部分もきっと出て来るだろう。
『バビロン』の魅力のひとつはは、そうした一筋縄ではいかないところだと記者は思う。一度でなく繰り返し見ることで咀嚼(そしゃく)していくべき作品と感じた次第だ。
気になる人は、比較的元気がある時に見に行ってほしい。もしかすると映画史に名を残す作品の誕生と派生の瞬間に立ち会うことが出来るかもしれない、とだけ言っておこう。