ゲーミングWi-Fiルーターについて解説する本連載。第4回はASUS製Wi-Fiルーターの3機種をさまざまな面から比較し、最適な製品選びの参考にしていただこうと思う。
ASUSはWi-Fiルーターのラインアップがとても豊富だ。公式サイトの情報によると、Wi-Fi 6対応ルーターだけでも10機種以上、メッシュWi-Fiルーターも加えるとさらに増える。これだけあると、どの製品を選ぶべきかを決めるのが難しいのではないかと思う。
製品が多い理由の1つは、ゲーミングWi-Fiルーターの存在だ。同社のWi-Fiルーターはいずれもゲーミング向け機能が充実しているのだが、その中でも「ROG」や「TUF」というゲーミングブランドを冠した製品がある。
今回は各ブランドを代表する製品として、「ROG Rapture GT-AX6000」、「TUF-AX5400」、「RT-AX3000 V2」の3機種を揃えて、それぞれの製品の特長や違いを見ていきたい。「ゲーミングWi-Fiルーターって普通と何が違うの?」という答えも見つかるはずだ。
まずはスペックを確認、1万5千円~5万円台の3製品
まずは3機種の主なスペックを比較してみる。
GT-AX6000 | TUF-AX5400 | RT-AX3000 V2 | |
価格(10月下旬現在) | 5万7618円(ASUS Store) | 2万3628円(ASUS Store) | 1万4919円(Amazon) |
CPU | Broadcom BCM4912(クアッドコア、2GHz) | Broadcom BCM6750(トリプルコア、1.5GHz) | Broadcom BCM6756(クワッドコア、1.7GHz) |
メモリ | 1GB | 512MB | 512MB |
Wi-Fi規格 | Wi-Fi 6 | Wi-Fi 6 | Wi-Fi 6 |
最大速度(2.4GHz帯) | 1148Mbps | 574Mbps | 574Mbps |
最大速度(5GHz帯) | 4804Mbps | 4804Mbps | 2402Mbps |
Wi-Fiストリーム数(2.4GHz帯) | 4×4 | 2×2 | 2×2 |
Wi-Fiストリーム数(5GHz帯) | 4×4 | 4×4 | 2×2 |
WAN | 2.5GBASE-T×1 | 1000BASE-T×1 | 1000BASE-T×1 |
LAN | 2.5GBASE-T×1、1000BASE-T×4(ゲーミングLANポートあり) | 1000BASE-T×4(ゲーミングLANポートあり) | 1000BASE-T×4 |
USB | USB 3.0×1、USB 2.0×1 | USB 3.0×1 | USB 3.0×1 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 338×196×221mm | 298×175×216mm | 224×154×161mm |
重量 | 1121g | 600g | 538g |
いずれもWi-Fi 6対応ルーターだが、スペックを見ていくと違いがわかる。ASUSの製品はWi-Fiルーターでは珍しく、搭載するCPUやメモリなどの詳細なスペックが公開されているので、比較しやすい。
価格は「ROG」ブランドの「GT-AX6000」が最も高く、「TUF-AX5400」の2倍以上となっている。しかし製品選びの際に最も注目されるであろう最大速度は、「GT-AX6000」と「TUF-AX5400」はどちらも4804Mbps。5GHz帯と2.4GHz帯のデュアルバンドである点も共通している。ここだけを見ても、2倍以上の価格差は納得がいかない。
3機種の中では最高スペックの「GT-AX6000」
その他のスペックを詳しく見ていくと、ほぼ全ての部分で「GT-AX6000」が最高性能になっている。CPUは最も高速で、メインメモリは2倍。CPUはASUS製品はいずれも十分に高速だと思うが、メインメモリはさまざまな機能を使うほど消費されていくので、ゲーミングルーターのような多機能な製品を安定動作させるためには多く積んでいて欲しい。
また「GT-AX6000」の有線LANはWAN側・LAN側の双方に2.5GBASE-Tを1ポートずつ持っている。Wi-Fi 6は1Gbps以上の通信が可能なので、有線側も1Gbps超の規格を採用する意味がある。インターネット回線も1Gbps超のものが利用しやすくなってきているので、総合的な速度向上を図れる。
1対1なら「RT-AX3000 V2」
「RT-AX3000 V2」については、最大速度が他の2機種に比べて半分の2402Mbpsとなっている。比較すると性能が低く感じてしまうが、現時点では端末側の最高速度が2402Mbpsとなっているため、1対1での接続ならば本機で十分という見方もできる。
ゲーミング向け製品には独自の機能が満載
ゲーミングWi-Fiルーターには高性能なハードウェアが求められるのは確かだが、それ以上に重要なのがソフトウェア面。一般的なWi-Fiルーターにはない、ゲーミング向けの特殊機能が用意されている。
まず3機種全てに搭載されているのが、通信の種別に応じて優先度を設定する「Adaptive QoS」。例えばゲームを最優先にすると、ゲーム中にストリーミングビデオや大容量ダウンロードなどで帯域を使い切っても、ゲームの通信を優先してやり取りしてくれる。オンラインゲームをプレイする際に、安定した通信が可能になるわけだ。
「GT-AX6000」「TUF-AX5400」は、ゲーム向け機能が豊富
これに加えて、「GT-AX6000」と「TUF-AX5400」では、有線LANに「ゲーミングLANポート」を搭載する。見た目はただの有線LANポートなのだが、ここに接続された機器の通信は他のポートの通信よりも優先されるようになっている。
またモバイルゲームの通信を優先させる「モバイルゲームブースト」もこの2製品では使用できる。ASUS製Wi-Fiルーター用のアプリ「ASUS Router」で機能をオン/オフできる。最近はスマートフォンでも素早い操作を求められるオンラインゲームが多く、有線接続できないモバイル端末でもゲームの通信を優先できるのはありがたい。
ほかにもゲームタイトルを選んで適切にポート開放ができる「OpenNAT」や、ルーター側でVPN接続を確立し、指定した端末だけVPN経由で通信させる「VPN Fusion」といった機能も、「GT-AX6000」「TUF-AX5400」といったゲーミングWi-Fiルータでは利用できる。ゲーミングWi-Fiルーターはこうした機能を搭載することで、一般向けのWi-Fiルーターと差別化を図っている。
高性能なハードウェアを搭載することは、処理能力の向上によって通信の遅延を減らすという効果が期待できるだけでなく、多彩な機能を動作させるためにも役立つ。ゲーミングWi-Fiルーターの本領は、ハードウェアではなくソフトウェア側にあると言ってもいいだろう。
なお、セキュリティ対策やペアレンタルコントロールを担う機能「AiProtection」は、今回比較した3機種全てに搭載されている。ゲーミング機能が充実しているからといって、一般向けの機能が削られているわけではないので安心して欲しい。
耐久性も重要ポイント、「TUF」は耐久性を特に重視
そしてゲーミングWi-Fiルーターにおいてもう1つ重要なのが、耐久性だ。
ゲームは長時間にわたって通信を使用したり、大容量のダウンロードが発生したりして、Wi-Fiルーターに対する負荷も高い。そんな状況でも安定して動作し続けられる設計になっているかどうか。
「TUF-AX5400」の公式サイトの情報によると、発熱対策のために2つのヒートシンクを内蔵するとともに、取り外し不可の固定アンテナの採用や、有線LANポート周辺の金属プレートにより耐久性を向上。湿度テスト、I/Oテスト、ストレステスト、EMIテストを実施し、安定動作に配慮されている。
「GT-AX6000」についてはこの点の言及が見当たらないのだが、相応の冷却対策が施されているがゆえの大型で重い筐体だろうし、有線LANポート周辺の金属プレートも採用している。「RT-AX3000 V2」は軽量・小型で、有線LANポート周辺はプラスチックだ。この辺りはスペック情報には載らないが、ゲーミングブランドを冠した製品との大きな差と言える。
Wi-Fiの通信速度をテスト、特性やチューニングは機種によりけり
肝心のWi-Fi通信能力についても見ておこう。3機種を比較すると、「TUF-AX5400」は物理アンテナが6本あるのに対し、「GT-AX6000」と「RT-AX3000 V2」は4本。ただし「GT-AX6000」のアンテナは最も巨大だ。となれば通信能力にも差があってもおかしくはない。
そこでiperf3を使ってWi-Fi接続の通信速度をテストする。子機となるPCは160MHz幅の2402Mbpsに対応したもの。通信相手は2.5Gbpsで有線接続されたPC。同室内での近距離通信のほか、筆者宅である3LDKのマンションで、通路側の部屋に本機、ベランダ側の部屋の端にPCを置き、間にある3枚の木製扉を閉じた状態で通信した。
なるべく条件を統一するため、5GHz帯の制御チャンネルは116に設定(筆者宅の近辺ではこの辺りの周波数帯が空いているため)。アンテナは全て直立で使用した。
GT-AX6000 | TUF-AX5400 | RT-AX3000 V2 | |
近距離/上り | 842.9 | 935.5 | 917.4 |
近距離/下り | 1464 | 946.7 | 940.0 |
遠距離/上り | 52.5 | 19.7 | 17.0 |
遠距離/下り | 138.9 | 70.1 | 187.3 |
※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載
結果で目立つのは「GT-AX6000」の近距離。LAN側に2.5GBASE-Tのポートを持っているので、1Gbpsを大きく超える通信速度が計測された。その他の機種は1000BASE-Tだが、上り下りとも近距離では900Mbpsを超えており、有線接続とほぼ同等の通信速度になっている。
では遠距離はというと、最も高速だったのは「RT-AX3000 V2」という意外な結果に。ただ「GT-AX6000」は上りが最も早く、試行中の通信速度のブレが最も小さかった。最も遅かった「TUF-AX5400」は、たびたび接続が切れるなど安定感に欠ける動作だった。
Wi-Fi接続は遠距離での通信速度がブレやすく、全機種を同時にテストするわけにもいかないので、試行時にたまたま状況が悪かっただけということもありえる。そこで念のため何度も製品を変更して試してみたが、傾向は変わらなかった。
製品ごとの個体差やファームウェアの成熟度の違いはあると思うが、少なくとも今回の検証においては、遠距離では「GT-AX6000」が最も安定しており、「RT-AX3000 V2」も同等程度。「TUF-AX5400」は近距離を安定させるチューニングなのか、遠距離が比較的苦手なように見えた。
スペックだけでなく「スペック以外」も検討して選択しよう
3つの製品をいくつかの視点から見比べてみると、それぞれがどんな人に向いた製品なのかが見えてくる。
まず、「GT-AX6000」は、最高のゲーミングネットワーク環境を求める人なら迷わず選ぶべき。ゲーミング以外でも、2.5GBASE-Tの必要性や、大容量メモリで多機能を使いたい人にも向いている。ただし高価で筐体サイズも大きいため、必要性は十分に吟味するべきだろう。
「ゲーミングWi-Fiルーターは欲しいけど、そこまでの性能は求めない」ということなら、「TUF-AX5400」が適している。一般向けの製品よりワンランク上の耐久性で安心感があるし、ゲーミング向けの機能は「GT-AX6000」とほぼ同等だ。
「RT-AX3000 V2」はWi-Fi 6を手軽に導入したい人向け。特にゲーミング向けをうたう製品ではないものの、「Adaptive QoS」によるゲームの通信優先は可能だ。インターネット回線が1Gbpsまでの環境であれば、本機でまず不満が出ることはないだろう。
性能や機能の違いも重要だが、価格やデザインも違うので、それらも加味して総合的に検討していただきたい。Wi-Fiルーター選びはどうしても通信速度だけに目がいって、あとは安いものを選びたくなってしまうが、高価なゲーミングWi-Fiルーターにはちゃんとそれなりの理由がある。スペックに書かれない設計や機能にまで目を向ければ、真の価値が見えてくるはずだ。
最後に1つ。一般家庭向けに必要とされるだけの性能は、3機種とも十分に満たしている。ASUSがWi-Fiルーターの詳細なスペックを明かしているのは、性能で他社に負けない自信があるからだろう。検証で使用していても動作に問題を感じたことは全くないので、その点はご安心いただきたい。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)