アゴラの森田洋之氏と小島勢二氏の記事が話題を呼んでいるが、「反ワクチンだ」という誤解もあるので、整理しておく。
感染の正しい指標は「コロナ死者数」ではなく「超過死亡数」
新型コロナの被害の指標として、厚労省の発表する「コロナ感染者数」や「コロナ死者数」を使うのは誤りである。これはマスコミ向けの速報値であり、特に死者数はPCR陽性だったすべての死者を集計しているので、過大評価のバイアスがある。
そういうバイアスがないのは、死亡数である。これは人口動態統計で発表される死者の数で、過大評価はありえない。最近3年間を月別に表示すると、次のようになる。
死亡数(前年同月比)の推移(人口動態速報)
日本は高齢化で毎年、死亡数が増えているが、2020年は前年より死者が8338人少なかった。これは高齢化で毎年約2万人増える死亡数のトレンドに対して、3万人近い過少死亡だった。コロナ大流行で世界で数百万人の超過死亡が出た中で過少死亡になったのは珍しいが、その原因について厚労省も専門家もコメントしなかった。
それに対して2021年の死者は、前年を6万7000人上回った。この最大の原因は2020年に高齢者や基礎疾患をもつ患者を隔離した結果、延命した人が死亡した積み残し効果と思われ、2年通算すると年平均の死亡数の増加は3万7700人。
これでも死亡数が毎年約2万人増えるベースラインからみると多いが、今年7月までの死亡数は、昨年に比べて7万6000人も増えた。これをベースラインからの超過死亡数でみると、次の図のように、今年2月から3月にかけて異常な増加がみられる。
週ごとの超過死亡数の推移(国立感染症研究所)
今年初めの超過死亡数はコロナの3倍以上
この増加は一見、コロナ第6波(オミクロン株)による死者の増加だと思うが、小島氏が指摘するように、この時期のコロナ死者よりはるかに多い。今年6月までの超過死亡(累計)とコロナ死者を比べると、次の図のように超過死亡数は約4万2000人で、コロナ死者数より2万9000人も多いのだ。
コロナによる死亡数と超過死亡数の累積(小島勢二氏)
この原因を説明するのはむずかしい。超過死亡はベースラインに対する死者の増加だから、感染症や災害など突発的な原因によるもので、2019年まではインフルエンザが最大の原因だった。2011年には東日本大震災で約5万6000人の超過死亡が出たが、今年はそれを上回るペースである。
昨年は2020年の積み残し効果による平均への回帰があったが、今年はそれも考えられない。第6波のコロナ死者の集計が過少評価だったのかもしれないが、7月からの第7波ではそれより多くのコロナ死者が出たのに、死亡数はそれほど大きく増えていない。
ワクチン接種のリスクを考え直そう
相関があるのは、森田氏も小島氏も指摘するように第3回ワクチン接種の回数である。今年3月にピークがあり、夏の第4回接種はそれほど多くない。追加接種率と累積超過死亡率の相関は統計的に有意である(相関係数0.99)。
ワクチン接種回数の推移(森田洋之氏)
コロナ死者の大部分はコロナ肺炎ではなく、愛知県の大村知事も指摘したように、風邪(上気道の炎症)がきっかけになって基礎疾患の悪化した患者である。それは次の図のように人工呼吸の実施件数がほとんど増えていいないこともでわかる。
人工呼吸の実施件数(ECMOネット)
これと同じようにワクチン接種がきっかけになって基礎疾患の悪化した患者がいたのかもしれないが、その機序は不明である。もちろんワクチンで命が救われた人もいるが、命を失った人のほうが多い可能性もある。
この相関だけでワクチン接種の是非を論じることはできないが、接種のリスクとベネフィットの関係を考える材料にはなる。高齢者は接種したほうがいいが、そのリスクも小さくない。若者や子供には必要ないだろう。
世界的にみると日本の今年の超過死亡は先進国の平均程度で、それほど恐れるべきものではないが、謎はいまだに解けない。厚労省はこの問題を避けているが、原因を解明して国民に説明すべきだ。