麻倉怜士のデジタル時評–2022年注目のオーディオ&ビジュアル5選

CNET Japan

 2021年のオーディオ&ビジュアル分野は、新しい方向性を見せてくれるような力作がそろっていた。8Kの進展、液晶、有機ELテレビの革新などビジュアル面の進化に加え、ワイヤレス化したホームシアターなど、サウンドジャンルでも新たなモデルが登場した。

 ここでは、2021年の新製品、サービスなどを振り返りつつ、新たに登場した製品やサービスが2022年どんな方向性に進んでいくのかについて話していきたい。

8Kが大きく進展、自宅でも楽しめる機器が続々登場

 最初に話したいのは8Kの進展だ。2018年に家庭向け4K、8K放送が本格スタートしたが、いまだにテレビ放送におけるコンテンツが潤沢にそろっているとは言い難い環境だ。しかしYouTubeに代表される動画配信系は4K、8Kコンテンツが盛り上がってきており、地方自治体が地元のPR動画を作ったり、映像機器メーカーのアストロデザインがYouTubeチャンネル「8K Video Album」を開設したりと、かなり面白いコンテンツがラインアップされてきた。

 コンテンツ側の動きを受けてか、ハード面おいても魅力的な対応機器が登場してきている。その1つが12月15日に発表されたばかりのパナソニックのBDレコーダー「4Kディーガ DMR-ZR1」だ。

 BS4K、110度CS4Kチューナーを搭載した4KのBDレコーダーで、8K放送の受信と録画には対応していないが、特筆すべきはサウンド面。新4K衛星放送の22.2ch音声を「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」に変換して出力できる機能を業界で初めて搭載した。

 22.2chは、8Kの音響システムとして採用されているが、聴ける環境がほとんどないというのが現状。クリエイターが22.2chのサウンドを作り込んでも、一部のサウンドバーなどをのぞき、ユーザーはきちんと聴ける機会を持てなかった。

 DMR-ZR1は、新4K衛星放送の22.2ch音声をドルビーアトモス信号に変換して出力する機能をドルビーと共同で開発。ドルビーアトモスに対応したサウンドシステムと組み合わせると、22.2ch音声を活かした立体的な音場が得られるというもの。同様の考え方をもったAVアンプなども発表されているが、なかなか商品化が進まず、今回ディーガが業界の先陣を切った形となった。

 DMR-ZR1自体は、パナソニックのBDプレーヤー史上、最高グレードの高画質、高音質設計と謳われたフラッグシップモデル「DP-UB9000」に、2015年発表のBDレコーダーのプレミアムモデル「DMR-UBZ1」を組み合わせて、さらにブラッシュアップしたモデル。これまでパナソニックが作ってきたレコーダーとプレーヤーの集大成とも言える内容だ。

 プレーヤーとしてもレコーダーとしても素晴らしく、さらに22.2ch音声をドルビーアトモスに変換できる最新機能も備え、非常にパンチのあるモデルに仕上がった。

 実際に聴いてみると、空間の中から音が聞こえてくる感覚が味わえる。2chは前から、5.1chは横、後ろまで音が広がるが、22.2chは空間全体に、万華鏡のように音が広がるという印象だ。映画「スパイの妻」では、階上の人が走ってくるシーンで、上からリアルな足音が聞こえてきた。

 この新しい聴取体験をぜひ多くの人に体感してもらい、同様に8Kレコーダーも作って欲しいと思う。

「ディーガ DMR-ZR1」
「ディーガ DMR-ZR1」

 画質面で8Kの進展を強く感じたのがJVCケンウッドがビクターブランドから発表したD-ILAホームプロジェクター「DLA-V90R」だ。JVCがケンウッドでは2018年に、8K映像表示対応の「DLA-V9R」を発表。この時HDMI 2.1に対応していなかったが、V90RではHDMI 2.1に対応することで8Kのダイレクト入力が可能になった。

 ビクターのプロジェクターは、画素をずらすことで解像度を倍増化する「e-shift」テクノロジーを採用しているが、V90Rでは、シフト方向を従来の斜め2方向から、上下左右の4方向にすることで、8K(8192×4320画素)の高解像度表示の再現能力を向上した。

 加えて、4K映像を8Kへとアップコンバートする能力も素晴らしく、8Kの世界を存分に味わえるモデルになっている。こうしたモデルの登場により、8Kが本格化していくことを強く感じる。

ビクター「DLA-V90R」(右)、「DLA-V80R」(左)
ビクター「DLA-V90R」(右)、「DLA-V80R」(左)

液晶を大きく進化させた「AQUOS XLED」

 2021年はディスプレイデバイスに大きな変革があったことも印象的だ。ブラウン管テレビだった時代は、すべてのテレビがブラウン管だったが、2000年以降、薄型テレビと呼ばれるようになるとプラズマ、液晶と新たなデバイスが登場してきた。

 当初はプラズマが優勢だったが、徐々にプラズマテレビメーカーは撤退し、2011年頃には液晶の勝利が決定した。しかし2015年頃に有機ELが現れ、今度は、有機EL対液晶といった図式が生まれた。その図式に新たな動きが加わったのが2021年と言えるだろう。

 新たな動きの1つは、シャープが10月に発表した「AQUOS XLED」(アクオス エックスレッド)だ。これは、光源であるバックライトに小型のLED(mini LED)を採用することで、エリアごとの明暗をきめ細かく制御。コントラストなどの表示性能が飛躍的に向上するという液晶テレビの新技術だ。

 液晶テレビは、明るい部分の伸びはあるが黒は沈み込まないというのが一般的で、色のビビッドさに欠ける印象があった。しかし、AQUOS XLEDは黒がしっかりと沈み、階調もきれい。第2次世界大戦下を描いた映画「マリアンヌ」を見ても、これまでの液晶テレビでは表現しきれなかった部分まで、細かやに再現できていた。

 この黒の表現力は、今までの液晶テレビとは段違いでmini LEDの威力がとてつもないことがよくわかる。この黒の再現性を持ちつつ、液晶の良さである白の伸びもある。ダイナミックレンジが広がったことがAQUOS XLEDのポイントの1つだ。

 もう1つは色。今までの液晶テレビは青色のLEDに色フィルターをかぶせ、擬似的に白色にし、さらに色フィルターを使って赤、青、緑の3色に分割していた。しかし、AQUOS XLEDでは青色のLEDをそのまま使用し、それ以外の赤と緑は量子ドットフィルターで青色を色変換することで再現。正確な色再現を実現している。

 黒の表現力と色の正確性、2つの武器をもったAQUOS XLEDは液晶テレビの新しいカタチといえるだろう。

シャープ「AQUOS XLED」
シャープ「AQUOS XLED」

「LG OLED evo」が見せた有機ELの底力

 一方、有機ELも大きな進化を遂げている。LGが5月に発売を開始した有機ELテレビ「OLED G1」シリーズには、次世代有機ELパネル「LG OLED evo」を搭載した。

 LG OLED evoは、発光効率の高い新規素材を採用し、同時に内部のレイヤー構造を、これまでの赤、黄緑、青に緑を加えた形に変更。これにより、純粋な色再現と発光効率が向上した。加えて、パネルに放熱板を組み込み、電流量が増えるにつれ出る熱を低下。多くの電流量を流して輝度を上げられるようにした。さらに、極小のマイクロレンズを有機EL素子の上に置き、光を強め、視野角を60%向上させている。

 液晶パネルの大幅な進化にあわせ、有機EL陣営も機敏に反応することで、さらに明るく、色数を多くという方向を示してきた有機ELの今後に大いに期待したい。サムスン電子は青の有機ELバネルに、シャープと同じ発想の量子ドットフィルターを被せ、赤と緑を取り出す「QD-OLED」を今後、大々的に展開する。日本からもこのパネルの採用が出そうだ。

LGエレクトロニクス・ジャパン「OLED G1」
LGエレクトロニクス・ジャパン「OLED G1」

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