国内外のフードイノベーションに関するカンファレンス「SKS JAPAN 2022 – Beyond Community -」(主催・シグマクシス)が9月1日~3日に開催された。
「Foodtech Venture Day – NEXT PIONEERS PITCH SESSION」と題したセッションでは、食に関する課題を解決するスタートアップ起業家が登壇し、自社の製品やサービスをアピールした。その中から特に注目したい企業をピックアップして紹介したい。
お米などを粉砕し、でん粉を一瞬でα化する「アモルファスト」
アルファテック CTOの福井勝氏は、穀物を一瞬で粉砕するだけでなく、α化(糊化)して食べられるようにできる「Amorfast(アモルファスト)」技術を紹介した。
アルファテック CTOの福井勝氏
アモルファストは山形大学の西岡昭博教授が開発した技術で、アルファテックは山形大学発ベンチャーとして山形県米沢市と神奈川県川崎市の2拠点で開発を進めている。
「従来の穀物は煮る、炊く、蒸すなど、加水・加熱して結構なエネルギーを使わないと食べられなかったが、これは一瞬の粉砕で食べられるようにできる。米だけでなく、トウモロコシやイモ類、豆類など、でんぷんが入ってるものなら何でも適用できる。加える水の量によって粘弾性を調整できるため、粘弾性を調節をうまくやれば増粘剤とかを一切使わずに100%の米粉パンなども作れる。麺や、グルテンフリーにも活用できると思う」(福井氏)
アモルファストの概要
加える水の量によって粘弾性を調整できる
アモルファストで粉砕した穀物粉は水を加えるだけで食べられるだけでなく、長期間α化を維持したまま保管できるという。現在注力しているのは飼料用穀物のα化とのことだ。
α化することで飼料効率を向上できる
「世界の穀物使用量の約3分の1から40%ぐらいまでは家畜が食べている。アモルファストで粉砕した米は炊飯したお米と同じぐらいの消化性を実現するため、飼料効率を上げて飼料の消費を抑えることができる。穀物を余すところなく使っていくのがわれわれのミッションだ」(福井氏)
当初の機械は毎時10kg程度しか粉砕できなかったが、現在は毎時1tを超える生産機の製造の目処が立っており、2023年度の実用化を目指していると福井氏は語った。
2023年には大型量産機を実用化する予定とのことだ
植物から抽出した「酢」で植物の耐候性を向上させる「Skeepon」
続いてアクプランタ 代表取締役社長で東京大学大学院農学生命科学研究科特任准教授の金鍾明氏が登壇し、自社で開発したアグリテック製品「Skeepon(スキーポン)」を紹介した。
アクプランタ 代表取締役社長で東京大学大学院農学生命科学研究科特任准教授の金鍾明氏
Skeeponは「植物が乾燥を感じると、自分の体の中に酢を作り出す」という、金氏が理化学研究所の研究者時代に発見した植物のメカニズムを活用している。
植物が乾燥を感じると、自分の体の中に酢を作り出すメカニズムを活用している
「この酢を外からかけると、どんな植物でも高温と乾燥に強くなる。どのような植物にも使用でき、生体内に存在する物質で作っているので安心・安全で、環境汚染も起こさない。人にも植物にも安心なものになっている」(金氏)
薄めたSkeeponを1回だけトマトの苗に与えることで、「室温50度、湿度10%という高温乾燥状態でもトマトは維持でき、さらに通常の半分ぐらいの水があれば十分に植物が育つ」と金氏は語った。
トマトの苗に用いた事例
「北海道の農家で2021年に実験をした。Skeeponを苗の段階で1回だけジョウロで上からかけて24時間吸わせた後に機械で定植すると、雨の降っていない状態でも大きさがそろい、ほぼ100%活着することが分かった。1本のSkeeponを使うだけで、1ヘクタール当たり80万円ぐらいの経済損失を抑えることができた。作物にばらつきがあると商品価値がなくなるため、フードロスも防ぐことができた」(金氏)
北海道の農家で実験したところ
鮮度保持の面でも、「収穫する前に一度だけ根元にSkeeponを与えておくと、その後冷蔵庫の中で水分保持ができるようになる」と金氏は語る。
「冷蔵庫の中に入れて24時間放置したところ、Skeeponを与えた方は水だけで処理したものに比べて20%ほど水分を保持できることが分かった。店頭での鮮度が長持ちするし、自宅に持って帰っても消費期限が長くなる。輸送時の冷蔵温度を上げてコストを下げるだけでなく、CO2削減にも役立つ」(金氏)
収穫後の鮮度保持にも活用できるという