「キャンプにおけるランタンの最適解ってなんだろう」
大ヒット商品となった「ほおずき」をはじめ、これまでさまざまなランタンを生み出し、キャンプシーンの次なるスタンダードを照らしてきたアウトドアブランドのSnow Peak(スノーピーク)の照明に着目すると、「ニッポンのテック(技術)」の“すごみ”が見えてきました。
ランタンの概念を変えた社長のひと言
Snow Peakのランタンの象徴的な存在「LEDランタンほおずき(以下、ほおずき)」がデビューしたのは2008年。
それまでのキャンプシーンにおける照明の概念を真っ向から否定し、まったく新しいスタイルの“柔らかい明かり”はたちまちキャンパーたちを虜にし、キャンプシーンで確固たる地位を築きました。
「ほおずき」の開発者である林 良治さんは当時を振り返ります。
当時は家庭にLED電球が普及し始めた時期で、キャンプシーンにおいてもLEDタイプのランタンが開発されていきます。それまではキャンプと言えば「ガスランタン」が定番。
ですが、どういうわけかどのブランドも光源を変えただけで見た目のフォルムを変えようとしないんです。ガスカートリッジの部分に電池を格納するタイプがほとんどで、新鮮味がまったくありません。「発熱が少なくてコンパクトで明るい」というLEDのメリットが活きていませんでした。(林さん)
そこで、当時のランタンにおけるスタンダートを真っ向から否定して生まれたのが「ほおずき」でした。
市場に出回っていたガスランタンを模しただけのLEDランタンの、人工的な明かりで、吊り下げると重さでテントがたわみ、肝心の真下の部分を照らせないという課題を、「丸くて、柔らかくて、白くて、かわいい」型破りなデザインが解決したのです。
既存の型を刷新したのはデザインだけではありませんでした。“明かり”自体の改革はより革新的でした。
ほおずきが目指したのは、実用的な明るさだけではなく、明かりによって安らぎを得られること。同じ電流量で得られる光量は、電球色よりも圧倒的に白色の方が明るく、持続時間も長い。
にもかかわらず、光の温かみや安らぎにこだわったほおずきには電球色が採用されました。
温かみのある暖色系のやさしい灯りにして、シェード部分には柔らかさのあるシリコンを採用。視覚的にも触感的にもやさしいフォルムに生まれ変わり、デザインも明かりも既存のLEDランタンから脱却したほおずきでしたが、最終段階で現社長の山井 太だけがそのままの仕様でOKを出しませんでした。
社長からの注文は「ロウソクの炎みたいに、風が吹いたら揺らぐようにできないか」というとんでもないアイデアでした。(林さん)
このひとことで、開発者たちの妥協なき探究心は、さらに磨きがかかります。
課題となった人工的に見えてしまう“一定の明かり”は、風や音に反応して光源が揺らぐ「ゆらぎモード」の開発(2010年)によって解決されます。その後もほおずきは進化を続け、さまざまなラインナップを展開。キャンプシーンにおけるランタンの確固たる地位を築いたのです。
コラボでたどり着いたガスランタンへの回帰
「ほおずき」を出発点に、新しいランタンのカタチを模索しつづけるSnow Peakは、2024年また新しい概念のプロダクトをキャンプシーンに送り出します。新製品「ギガパワーランタン TL」「ギガパワーランタン HL」のアプローチは、バッテリーの改革でした。
電池の代替として充電式バッテリーが普及してから、現在多くのキャンパーたちがテントサイトに導入しているのがポータブル電源(あるいはモバイルバッテリー)です。
そこには、バッテリー自体の存在がキャンプシーンに馴染まないという課題がありました。ギガパワーランタンTL/HLの開発は、ランタンの刷新というよりむしろバッテリーの改革というアプローチ。ギガパワーランタン TL/HLと合わせて使用する、別売りの「ギガパワーバッテリー」の開発が出発点になります。(山下さん)
そう語るのは、「ギガパワーランタンTL/HL」「ギガパワーバッテリー」の開発を担当した山下 亮さん。
自然のなかで過ごすにあたり、テントサイトにバッテリーが置かれている状態に疑問を持ち、キャンプシーンに馴染むデザインを追究したときに原点回帰したのが「ガスカートリッジ」でした。
「ギガパワーバッテリー」は、バッテリーメーカー「Anker」さんとの共同開発で生まれた、ガス缶を模したバッテリーです。Snow Peakでは、ファーストランタンとしてリリースしたガスランタン「ギガパワーランタン 天 オート」を現在も販売しておりますが、新しいアプローチで生まれたのが「ほおずき」でした。
その誕生から、図らずも回帰することとなったのが、ガスランタンのフォルムを踏襲した「ギガパワーランタンTL」 「ギガパワーランタン HL」「ギガパワーバッテリー」です。(山下さん)
ただし、単なる「ガス缶も模したバッテリーで稼働するランタン」ではないことは、言わずもがなSnow Peakの探究心が計り知れないところ。
「ギガパワーバッテリー」と合わせて使用する「ギガパワーランタンTL」は、カラーLEDを搭載したカラーパターンでテーブルを彩る演出用のライトです。
つまみを回すことで、朝焼けから濃紺に染まるブルーアワー、そして真っ赤に染まる茜空をグラデーションで表現することができます。製品に「自然の要素」を取り入れるために、何度も製品テストを繰り返して、新潟の空を表現しました。(山下さん)
キャンプ照明の新たなスタンダード「セレス」
Snow Peakから2024年シーズンに新たにデビューしたLEDランタンがもうひとつあります。
いや、ランタンというべきか、もはやランタンと呼ぶには似つかわしくないフォルムは、キャンプシーンにおいて新たなスタンダードになるのかもしれません。
昨今のキャンプスタイルで多様化している流れのひとつに、テントやシェルターの大型化・住空間の拡張が挙げられます。
これまでSnow Peakでは、 自然の情景を壊さないように光量を抑えたライトが多かったところ、キャンプシーンではこのシーンの変化を受けて、広くなった空間をくまなく照らすために、光量の強いランタンも必要になってきていると感じました 。(山口さん)
そう語るのは、新製品「セレス」を開発したのは山口幸宏さん。
さて、このトレンドに対してSnow Peakのアプローチやいかに。
LEDなので光量を上げることはいくらでもできます。しかし、その光源が視界に入ることはストレスになります。また、単に明るくすることはSnow Peakらしいアプローチではありませんし、この課題をデザインでどう解決するかのが、開発の出発点となりました。(山口さん)
そこでSnow Peakが着目したのが、「間接照明」をキャンプシーンに最適化できないかということでした。
自然の情景を壊さずに、空間を明るくし柔らかい明かりで光の環境を整えていくかが今回の課題でした。セレスは上部と下部にライトを設置した吊り下げタイプのライトです。 光量の強い上部のライトでテントやシェルターに明かりを反射させることで、柔らかい光が空間内全体を照らします。
そして、反射させることで光がまわり、影も光源から直接落ちるよりも薄いので、空間内でもストレスなく過ごすことができます。(山口さん)
セレスには、吊り下げる位置を調整できる別売りのスライダーパーツが付属しています。吊り下げ高さを反射させる天井に近づけることで光が強くなり、下げることでより柔らかい光で照らすことができるのです。
キャンプサイトをどれだけ快適にするかは、すなわち「いかに光をうまく使えるか」と言っても過言ではありません。セレスが販売まもなく売り切れているのは、舌の肥えたキャンパーたちの琴線に触れた、なによりもの証拠といえるでしょう。
キャンプをするにあたって、テントや焚き火台、キャンプ飯に注目がいきがちですが「明かり」に着目してみると、より快適な住環境が手に入れられそうです。
そのときは、Snow Peakの明かりがテントサイトを“柔らかい明かり”で照らしてくれることでしょう。
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