宇宙ビジネスの成長とともに、近年急増している人工衛星の数。地球の周辺を何百何千という人工衛星が飛んでおり、宇宙観測への影響や宇宙ごみ問題が懸念されています。が、もうひとつ心配なことがありました。それは、人工衛星によるオゾン層の破壊です。
運用終了後は大気圏に突入
地球の周り、低軌道上を飛ぶ人工衛星。私たちの日常に必要なさまざまな情報を地球に届けてくれますが、形あるモノはいつか壊れます。月日を経て運用終了または故障した人工衛星は、地球の大気圏へと突入し燃え尽きる運命。そのときに人工衛星が残す化学物質がオゾン層に影響すると警鐘を鳴らす新たな研究が公開。いわく、人工衛星の影響で、地球大気圏における有害酸化物が過去6年間で8倍になっているというのです。
人工衛星急増の主役、SpaceX
人工衛星と一言で言っても、その種類や運用期間はさまざま。中でもインターネット衛星は比較的運用期間が短く、だいたい5年ほど。たった5年で宇宙ゴミとなり大気圏に落ち燃え尽きる運命となっています。
インターネット提供のため、人工衛星を打ち上げまくっているといえばイーロン・マスク氏のSpaceXです。SpaceXは宇宙インターネットStarlinkをネットサービスとして広く提供しています。地球の周りを飛ぶ約1万機の人工衛星のうち約3分の2はSpaceXに属しています。
SpaceXはすでに地球起動上に6,000機強の衛星を打ち上げていますが、マスク氏の計画は4万6000機の衛星で超巨大な衛生群を築くこと。まだ予定の8分の1ほどしか打ち上げていないということになりますね…。
増え続ける人工衛星
人工衛星ビジネスは、SpaceXだけではありません。Amazonのジェフ・ベゾス氏が設立した民間宇宙企業のBlue OriginもProject Kuiperという衛星計画を進めており、人工衛星3,000機を打ち上げ予定。ソフトバンクが主要株主に名を連ねるイギリスの衛星通信業者OneWebも、648機からなる人工衛星群計画があります。
人工衛星の数は増えるばかり。
残される化学物質
前述した通り、インターネット通信用の人工衛星は短命です。代わりをどんどん打ち上げないといけないし、寿命がくればどんどん大気圏に突入します。打ち上げる数と比例して、大気圏突入の数も増えます。
人工衛星が大気圏突入する際、酸化アルミニウムの小さなちいさな粒子を放出します。研究論文では、この粒子が成層圏オゾンを破壊する化学反応のきっかけとなると説明。
酸化物が直接オゾン層の分子と化学反応を起こすわけではなく、オゾンと塩素の間で破壊的反応を引き起こし、これが地球の大気を守るオゾン層の破壊に作用します。
オゾン層にどれほど影響が?
研究チームは、人工衛星に使用されている素材の化学成分のモデルから、一般的な250kgの人工衛星(質量の3割はアルミニウム)が、大気圏突入時におよそ30kgの酸化アルミニウム粒子を生成することを発見。
このモデリングから算出すると、2016年から2022年までの間、人工衛星の大気圏突入によって、大気圏中のアルミニウム量は自然な状態より約29.5%増加したことになります。
また研究によれば、オゾンの9割が存在する地球の成層圏と同じ高度まで酸化アルミニウムの粒子が到達するまでにかかる時間は30年。たったの30年! 現在計画されている衛星がすべて地球の軌道上を飛ぶころには、 1,005トンものアルミニウムが地球の成層圏に降り注ぐことになります。これは年間397トンもの酸化アルミニウムと大気に放出する計算となり、自然な状態よりも646%も多くなります。
オゾン層を守る取り組み
国連は、2066年までにオゾン層は回復すると発表。これは、オゾン層の保護のためのウィーン条約にのっとった国際的取り組みの成果です。人工衛星急増は、この取り組みの足をひっぱる存在となりますが…。
論文の主執筆者であり、研究を率いた南カリフォルニア大学のJoseph Wang氏は、プレスリリースにてこう語っています。
これは問題になるかもしれないと人々が考え始めたのは、ごく最近のことです。我々は、この事実が意味することは何かを研究を初期に始めたチームのひとつです。
増え続ける人工衛星による影響は幅広く、今後、国際的により厳しいルールが求められることになります。
研究論文は、Geophysical Research Lettersにて公開されています。