折りたたみPCって微妙だな…。「Lenovo ThinkPad X1 Fold 16」レビュー

50万円超えのバリューがあるのかどうか。

初代よりはよくなったけど、過去の型から抜け切れていなくて、未来が見えてこない―。Lenovo(レノボ)より新発売の画面を折りたためる有機ELノート「ThinkPad X1 Fold 16」に触れて、そう感じました。

Lenovo ThinkPad X1 Fold 16

これは何?

折りたためる大画面を搭載したノートPC

好きなところ

・美しいスクリーン。折り目がほぼない

・上質なサウンド。どんなモードを選んでも音がいい

・バッテリー持ち。丸1日持ち歩いても大丈夫

好きじゃないところ

・価格が高すぎる

・前世代CPUなので処理性能もそこまで

・折り畳みノートPCの存在理由を示しきれていない

スマートフォン市場では、なんだかんだ言われながらも「折りたたみ」がニッチな定位置を確立済みですが、折りたたみのPCはまだヨチヨチ歩きの成長段階。Lenovoならもっと進化するかなと期待したのですが、新型ThinkPad X1 Foldでも少しの進化にとどまってしまってるんですね。

ThinkPad X1 Foldがデビューしたのは2020年。初代は驚くほど暗い13インチの有機ELスクリーンでした。

イノベーティブな工夫が詰まった野心作ではあったのですが、使い勝手が追いついていなかった…。この種のデザインを世に出したのはLenovoが初めてですし、万人が買える製品に仕上げただけでも偉大と評価しなきゃ本当はいけないんですけどね。

仕切り直しとなった次世代「Fold 16」は2022年に発表になったきり、なぜか発売が遅れていました。やっと2023年末になって日の目を見たというわけですが、この4年の間に状況は様変わりしています。

ライバルのAsus ZenBook 17 Fold OLED税込64万9800円)も出現しましたし(似たコンセプトで製品を出したが市場にはあまり食い込めていない)、HPも5,000ドル(税込79万8600円)のSpectre FoldでLenovoに対抗中(高価な割にはパワーが非力で苦戦気味。米Gizmodoの「2023年がっかりガジェット」に選ばれてしまった)。

ふつうのノートPCに勝てるかどうか疑問

そんななか発売になったThinkPad X1 Fold 16。

新機能もある程度加わってはいますが、競合のイノベーションを採り入れたりはしていません。やや大ぶりな画面になれる小ぶりなクラムシェル型ノートというだけで、洗練に洗練を重ねて完成形近くまで到達した一般のノートPCに勝てるのか。実機を触った今でも正直疑問です。

16インチのデスクトップもどきで、折りたたむと12インチのノートになる、ちょっと重い本みたいなPC。 ほぼ平らに折りたためることは折りたためるけど、塵が入りこむ隙間はあるので、中のスクリーンが傷むんじゃないかと心配です…。

デスクトップPCとして使うぶんには申し分ないし、コンパクトな省電力タイプのノートPCとしてもOKなんですが、iPadの薄さに慣れてしまうと、どうしてもコロンと太い印象。タブレットという目で見ると物足りなく感じてしまいます。どのみち、この価格なので一般向けのiPadと比べてもしょうがないんですけどね。

価格は一番安いので2,500ドル。円安の折、日本市場では税込54万3235円もします

なのに中身は第12世代Intel Core i7-1260U。2年前ならベーシックな省電型CPUで通りましたけど、2024年の今となってはもはや骨董品です。ブラウジングのタスクはこなせても、 それ以上の期待はできないのではないでしょうか。

画面はものすごくキレイな有機ELディスプレイです。もっとも、美しい画面だけが目的ならThinkPad X1 Carbonで充分事足りるわけですし。あっちを買うほうが無難かもしれません。

変幻自在なところは、Microsoft Surfaceとか、同じLenovoのYogaシリーズを思わせますが、X1 Foldはタッチパッドが小さくてキーボードが狭いので、その面でも、SurfaceやYogaに及びません。「折りたたみPC」のデザインを一から考え直すところからやり直した方がいいのではないかとさえ思ってしまいます。Lenovoって、AndroidとWindowsを合体させたThinkBook Plus Gen 5 Hybridや、ハンドヘルドゲーム機のLegion Goでも思ったけど、あんまりイノベーションが得意じゃないのかな…。

しかしまあ、50万円以上払うからには新材料をひとつふたつ加えたぐらいじゃ全然足りなくて、やっぱり物珍しさ以上のもの求めちゃいますよね。

Lenovo ThinkPad X1 Foldの操作感とデザイン:キーボードとタッチパッドは使いづらい

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Photo: Kyle Barr / Gizmodo

そんなX1 Foldではありますが、スタンドのマグネットは頑丈だし、Precision Penも頑丈。バッグの中であちこちぶつかっても平気です。

折りたたみの画面で気になるのは、そう、折りジワですよね。去年気に入った折りたたみ端末のOnePlus Openですはシワが最小限に抑えられていました。その点、ThinkPad X1 Foldはいわゆる従来の定義の「折りジワ」はありません。そもそもベゼルが目立たないので照り返しが集中の妨げにならないってのもあるとは思いますが。スマートペンで画面をなぞらえても引っかかりなく使えます。

画面は完全に180度開き切らなくて、どちらかと言うと177度止まり(タブレットとして持つとよくわかる)ですが、シワにならない折りたたみPCが実現可能なことをLenovoも証明したかたちです。

ただ、横に構えると、1440pのカメラが左にきちゃって、Zoomのときとか変な感じになります。縦のポートレートモードにすればカメラは上にきますが、するとボリュームボタンが隠れるし…。どっち向きにしても、なんかのボタンやポートが隠れてしまうのです

もっと困るのがキーボード。Bluetooth接続なので手持ちのキーボードやスタンドをつなぐこともできますが、いちおう製品の規格に合わせてデザインされたものが用意されています。これ、Lenovoは「フルサイズのキーボード」と呼んでいますが、すごく狭くて、手を傾けないとパームレストに収めるのもひと苦労なほど。とてもじゃないけどガシガシ打てる気がしません。いくらThinkPad大好き人間でも、飛びつくキーボードではないように感じます。

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大画面を真っ二つに折るとラップトップに様変わり♪ 簡単だけどキーボードは自分で乗せなきゃだめ
Gif: Kyle Barr / Gizmodo

充電はメインの画面から…なので、本体とキーボードの両方がバッテリー切れになるとたいへん。別々のケーブルで充電しなきゃいけないんですね。一定時間使わないとキーボードはスリープモードに入るので、どっか押さないと再起動しませんしね。

ライバルはどうかと言うと、たとえばHP Spectreは本体接続時に電磁コイルで充電されるし、見た目がヘンタイなAsus Zenbook Duoだって2画面の間にキーボードは吸着されるようにして携帯性を高めています。それに比べると、ややデザインに無理がある気がします。

タッチパッドは10×5cmくらい。すごく狭いので、なかったことにしてタッチと赤ポチ(トラックポイント)で間に合わせる人もいそうです。ほかの最新の折りたたみPCみたいに折り目を縦にしてキーボード上に展開したりもできません。また、何もかも磁石でカチャッと嵌める式なので、移動中はメイン画面の裏にキーボードをくっつけて持ち運ぶかたちになります。

ヒンジは、去年出た数多くの折りたたみスマホのなかでもヒンジのデザインが最悪だったGoogleの初代Pixel Foldを彷彿とさせるデザイン。旧型よりよくなってはいますが、折りたたみの画面を保護するためにはデザインの面で多少の妥協は必要ということなんでしょうか。

フレームは頑丈

いろいろ針小棒大に厳しいこと書いてきましたが、フレームはカーボンファイバー+マグネシウム合金で、とても丈夫にできています。1週間以上使って出張もしましたが、ヘタることもありませんでした。手から滑り落ちても壊れないと頭ではわかっていても、タブレットみたいにぞんざいに扱える製品ではありませんが。

重さは本体のみで2.78ポンド(1,261g)、キーボードとキックスタンドを含めると4.16ポンド(1,887g)です。ノートとしてはふつう。タブレットとして見ると重いかな。ちなみに15インチ弱のSamsung Galaxy Tab S9 Ultraは1.6ポンド(726g)、13インチのM3 MacBook Air 15 は2.7ポンド(1,225g)、Asus ROG Zephyrus 14はキーボ込みのX1 Foldより1ポンド(454g)近く軽め。要は、もっと軽いノートPCはいくらでも見つかります。

サイズ的にはコンパクトです。畳むと11×7インチ(28×18cm)しかありません。

厚さはキーボード込みでも1インチ(2.54cm)程度。これまで使ったPCのなかでも最小レベルです。

Lenovo ThinkPad X1 Foldの処理性能:物足りなく感じるのは前世代CPUのせいか

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Photo: Kyle Barr / Gizmodo

ただ弱いのは中身ですよね…。

軽量ノートの人気シリーズ「ThinkPad」が製品名に入ってるけど、 ThinkPad X1 Foldはどちらかと言うと、Microsoft Surface Laptop Studio 2みたいな2in1や YogaシリーズみたいなハイブリッドPCと同じカテゴリに入る製品。その括りで考えると、処理性能的にあまり期待できる要素がないんですね。RAMを32GBにして(増設不能)少し高いCPUを選んでも、ぶっ飛び性能とはいきそうもありません。。

一番安い2,500ドルの最小構成にいたっては、Intel Core i5-1230U。3,900ドル出せば第12世代Intel Core i7-1260Uが搭載されますが、一番高いCPUを選んでも米Gizmodoのベンチマークスコアはビリ集団でした。

GeekbenchとCinebenchのベンチではLenovo Slim 7i並みのスコアが出ましたが、同じLenovo製品なのにあちらは最小構成で1,000ドル(税込23万9800円)~。Foldの半額以下で買えますしね…。

Intel Core i7-13800H搭載の最新Microsoft Surfaceと比べるともはや差は歴然で、ますます見た目が新しいだけで中身は旧態然という印象です。

なんせ前世代CPUの省電バージョン。そもそも多くは望めないのです。

グラフィック性能はどうかと言えば、こちらもIntel Iris Xe graphicsなのであまり多くは期待していなかったんですが、それでも全体のGPU性能にはガックリしました。 Blenderのベンチマークでお願いしたのはBMWの画像のレンダリング。結果的には画像1枚のレンダリングにCPUオンリーで6分以上もかかってしまいました。GPUオンリーの設定ではもっと処理に時間がかかって、2枚の処理が終わる頃にはすっかりお茶が冷めてしまったんです。

普通に使うぶんには発熱はないんですが、高負荷のときには若干スロットリング(処理に制限がかかること)も感じました。普通のタスクで37.8℃前後ですが、高負荷時は背面を外から測った温度が57℃くらいまで上がることも。ヒンジを伝わって熱がもう片方のパネルに分散されるとLenovoは言っていますが、片側のパネルに熱が集中しているように見えました

せっかくこんなに美しい大画面なのに、Foldはグラフィック系の作業には向いてないかもです。特に、ThinkBook X1 Foldを買うお金があったら、もっと処理性能に優れたM3 ProやM3 Max搭載のMacBook Proなどが買えちゃいますし、使うとしても文字ベースの作業や簡単なフォトショップ仕事のようなものになるのではないでしょうか。

Lenovo ThinkPad X1 Foldの画面とサウンド:畳んでも広げても音は最高

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Photo: Kyle Barr / Gizmodo

タブレットとして使う人が一番重視するのは画面ですよね。

Foldのディスプレイは2560×2024の有機ELでピーク輝度600ニト。鮮明で、黒の出方も良好ですVESAの「HDR True Black 600」規格認証済み。サイズは16.3インチあるので、16インチノートより面積は大きくなっています。折り曲げてノートにすると12インチサイズですけどね。

有機ELはなにしろカラーが鮮明です。暗いところで眺めても、質の高いストリーミング視聴が楽しめます。やや照り返しを意識する人もいそうですが(輝度を下げると特に)、日差しを遮って使えばそれほど悪くはありません。日が差しこんでも、折り目に光が反射することはありませんでした。

X1 Foldのサウンドは◎。このサイズでこの音はなかなかのもの。ノートとして使うときには、横に構えても縦に構えても2台のスピーカーから音が出るようになっています。MacBookやDell XPSシリーズと伍するレベルではないし、ほかのノートの上位機種の疑似サラウンドサウンドほどではないにしても、Dolby Atmosのサウンドでデスクスペースは充分満たされます。

残念なのは、せっかくのサウンドなのに、タッチペン(Precision Pen)の着脱部が片側のスピーカーの上なので、ペンを外し忘れると少し音が塞がれちゃうこと。これもデザインに難ありなポイントです。

Lenovo ThinkPad X1 Foldのバッテリー:こんなに小さいのに長もち

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Photo: Kyle Barr / Gizmodo

X1 Fold一番の強みはバッテリー持ちです。折り畳んで使うほうが当然、電池持ちはよくなります。

最小構成のX1 Foldは45Whrのバッテリーが搭載されています。高いバージョンでは64Whr(レビュー機はこちらのモデル)、ベンチマークテスト中も1回の充電で4~5時間使えました。ベンチマークをやらないで、コンテンツ視聴やこの原稿の執筆だけだと8時間近く連続使用できます。これだけのサイズで、平らな電池という制約があることを考えると、長いほうかと。以上の数値は画面を広げて使ったときのものなので、畳んでノートPCとして使うともっともっといけます。

X1 Foldではあまり余計なアプリは使わないだろうし、それやこれやで「終日持つ」バッテリーというわけです。

充電はスピーディーで、バッテリーが2個入っている64Whrのレビュー機でも、1時間で空っぽ近くから80%充電できました。使ったのは、同梱のこぶし大の65W充電器です。

Lenovo ThinkPad X1 Foldに期待したのはもっと別の方向性

2022年発売なら納得なんですが、やっぱりIntel最新のCPUが搭載されていないのは痛いし、この2年の間に生まれた競合の新しい技術を見習っていないのも痛いです。折りたたみ画面のPCはLenovoが一番乗りの業域なのに、いつの間にか追う立場になってしまいました。

ベーシックな仕事用PCとして1台あってもいいかなとは思うんですが、なんせ価格がハードル高すぎます。一番安いので2,500ドル。3,900 ドルの高いモデルを買っても、中身は同じLenovoが出してる1,000ドルしないノートPCと変わりりばえしません。50ウン万円払うからには目先のギミックより、やっぱり中身がしっかりしたもの買いたいですよね。

折りたたみPCはどうしてもプロトタイプ(試作機)っぽくて、イメージ脱却にはまだ時間がかかりそう。X1 Foldは万人が飛びつく製品ではないだろうし、ましてやThinkBookファンは見向きもしないでしょう

同じ価格帯のノートPCに比べ、あらゆる面で劣っていて、唯一の取り柄はコンパクトに畳めることぐらい。畳むことに全力使い果たして肝心の有用性で妥協してしまったのが残念でなりません。ブレイクスルーは起こった。それは確かなのだけど、正直、次に期待がつなげない気分です。

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