今年7月に打ち上げられた欧州宇宙機関(ESA)による宇宙望遠鏡「ユークリッド」。そのミッションは、宇宙の95%を占めるといわれながらまだまだ謎の多い「暗黒物質(ダークマター)」や「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」の調査です。
ESAはこのユークリッドの大々的な「デビュー」に際して、印象的かつ科学的価値から5枚の画像を紹介しています。
さて、およそ140億年が経った今でも謎めいたものであるダークエネルギーは、宇宙の膨張を加速させています。ユークリッドがミッションにおいて解明を目指すのはこうした謎です。
また、ユークリッドは遠くの光源から光を屈折させるなど、重力効果によってのみ検出可能な目に見えない物質であるダークマターの解明も目指しています。
大いなるミッションを抱えたこのユークリッドのデビューである今回の画像は、ESAのウェブサイトで見られますよ。現時点のユークリッドは調査に向けた最終調整段階で、2024年の初頭に定期的な観測をスタートする予定だそうです。
ペルセウス座銀河団
まず最初は、約2億4000万光年離れたペルセウス座銀河団の多数の銀河。この画像では、銀河団と周囲も合わせておよそ10万もの銀河を捉えています。
パリにあるCEA(原子力・代替エネルギー庁)サクレー研究所のユークリッド研究者Jean-Charles Cuillandre氏は、今回のユークリッドの画像についてのライブストリーミングにて、ペルセウス座銀河団内の銀河の集団が、「ダークマターと考えられる目に見えないフィラメントに沿って周っている」と説明しました。
ユークリッドがどのようにして目に見えない物質を含めた宇宙の一部をマッピングするのかを説明したとのことです。
ちなみにユークリッドの画像は、ESAのツール「ESASky」を使うことで、高解像度で画像の詳細を調べることができますよ。
渦巻銀河 IC 342
次はきりん座の銀河である渦巻銀河IC 342の画像です。
IC 342は天の川方向にあり、ガスや塵、恒星などに覆われていて観測が難しいとされています。ユークリッドでは、搭載されている近赤外線カメラによってそうした物質を取り除き、銀河自体が発する光に焦点を合わせられるのだそうです。
観測については、ユークリッドは今後6年間で撮影領域を現在の3万倍まで拡大させて画像化することを計画しています。
イタリア国立天体物理学研究所のユークリッド・コンソーシアム科学者のLeslie Hunt氏は、この画像についてESAのリリースにて以下のように述べました。
「この画像は、あたかもすべての宇宙望遠鏡でこのように撮影できるのではないか、と思わせるようなものですが、実際にはそうではないのです。
(ユークリッドでの撮影に関して)特別といえるのは、銀河全体をカバーする広い視野を得られることがあげられます。さらにズームインすることで、単一の星を星団の中からフォーカスすることも可能です。
これによって星の形成の歴史を辿り、銀河の中で星がどのように形成され、進化したかをより深く理解することが可能になるのです」
不規則銀河 NGC 6822
続いてはいて座にある不規則銀河NGC 6822の画像。NGC 6822はウェッブ宇宙望遠鏡が今年になって初めて撮影に成功しました。
ユークリッドはこの銀河と周囲を詳細な画像にするのに1時間ほどしかかからなかったとのこと。これはほかの天体望遠鏡や宇宙望遠鏡にもできない偉業といえます。
球状星団 NGC 6397
ユークリッドは、NGC 6397と呼ばれる地球に2番目に近い球状星団も撮影しました。
銀河の中心を周回する星が球のように密集している球状星団全体を1枚の高解像度画像に捉えられたのは、ユークリッドの広い視野によるものといえます。画像では遠くの銀河まで見渡せます。
馬頭星雲
最後はオリオン座の一部である馬頭星雲の画像です。ESAのリリースによればこちらの画像も撮影にわずか1時間しかかからなかったとのこと。
この馬頭星雲は、近くのオリオン座シグマ星からの紫外線によって照らされ、馬の頭のような影が浮かび上がります。
この画像では、シグマ星は星雲のガスやほかの星々よりも輝いてしまうため写っていませんが、馬頭星雲や周囲の細部まではっきりと捉えた画像となっています。