もっと星空を眺めたくなる。スマート天体望遠鏡「eQuinox2」レビュー

スマート天体望遠鏡は、天体観測に興味はあるけど望遠鏡は扱いが難しそう…と思っていた人たちにこそ響くガジェットなのかもしれません。

米GizmodoのGeorge Dvorsky記者による、今年の春に発売されたUnistellar(ユニステラ)社のスマート天体望遠鏡「eQuinox2」のレビューをどうぞ。


Unistellar社の「eQuinox2」は、増えつつあるスマート天体望遠鏡の新機種。光害のひどい環境下であっても、アマチュア天文家が簡単に宇宙の鮮明な画像を撮影できることが売りの製品です。

価格と接眼レンズがないことはネックとなるかもしれませんが、熟練の天体写真家だろうと全くの初心者だろうと、あらゆる点から見て十分に楽しめる天体望遠鏡です。

Unistellar「eQuinox 2」スマート天体望遠鏡

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Photo: George Dvorsky/Gizmodo US

素人が宇宙の素晴らしい景色を捉えられるようになるだけでなく、ベテランの天体観測者も豊富な機能群を楽しめる天体望遠鏡。

これは何?: 天体写真を撮るための、使いやすいスマート天体望遠鏡

価格: 2,499ドル(日本価格36万9,800円)

好きなところ: ユーザーフレンドリーで多機能、光害の多い地域でもよく見ることでき、肉眼では見えない遠方の天体がわずかな時間で見え始める

好きじゃないところ: 割高で、画像はよくても鮮明さは向上の余地あり、ユーザーはモバイル端末を介さないと画像を見られない

科学レポーター兼ブロガーとして、私は20年近くも天文学と天文現象を扱ってきました。とはいえ、ようやく実物の天体望遠鏡を初めて使う機会に恵まれたのは昨年のこと。

Vaonis(ヴァオニス)社の「Vespera(ヴェスペラ)」のレビューをしぶしぶ行なったときでした。しぶしぶと言ったのは、レビューするまで天体望遠鏡のことや使い方について何ひとつ知らなかったからです

この点は問題にはなりませんでした。というのも今や各社から出ているスマート望遠鏡やリモート望遠鏡は、私のような初心者でもそれほど苦労せずに天体観測をしやすいようになっているからです。

レビューを書くには自分が適任だったとわかり、その体験からUnistellarの最新スマート天体望遠鏡eQuinox 2をレビューしてみようと思えたのです。今回もまた、とてもポジティブな体験になりました。

今でも天体望遠鏡に関して自分は全くの初心者だと思っていますが、eQuinox 2では非常に短い時間で深宇宙の神々しい画像が手に入りました。

簡単に使い方を覚えられたので銀河や星雲、星団や惑星の息をのむような美しい写真をササっと撮って、SNSで友人や家族にシェアできたんです。

玄関先と裏庭のポーチの両方から観測できたのは、光害の影響を最小限に留める専用ソフトウェアの効果が抜群だったおかげ。

なにより、この天体望遠鏡をレビューしていく中で、特に望遠鏡本体やさまざまな機能に慣れていくにつれ、私はもっと観測したいという気持ちになっていました。

接眼レンズの代わりにスマホを使用

名前が示すように、これは初代Equinox天体望遠鏡の後継機。光学と画像処理が向上したアップグレード版で、解像度は初代から25%アップしています。

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UnistellarのeQuinox 2スマート天体望遠鏡
Photo: George Dvorsky/Gizmodo US

小売価格が2,499ドル(36万9,800円)のeQuinox 2は、フランス企業のUnistellarがアマチュアとベテラン天文家の向け、そして「明るく照らされた都市部」で用いられる「革新的なスマート天体望遠鏡」として売り出しています。

私はうんざりするほど明るいグレーター・トロント・エリアに住んでいるので、後者は確実に当てはまっていますね。

既に述べたように、天体望遠鏡に関しては今でも全くの初心者ですから、ユーザーフレンドリーと謳うeQuinoxを試すいい機会となりました。

市場に出ている他のスマート天体望遠鏡と同様に、eQuinox 2には接眼レンズが付いていません

その代わり天体写真を見るには、UnistellarアプリをスマホやタブレットなどのAndroidあるいはiOS端末にダウンロードする必要があります。

画面を介してではなく自身の目で天文現象を見たいユーザーにとって、接眼レンズがないのは欠点となるかもしれません。同社の上位機種「eVscope 2」は接眼レンズ付きモデルですが、お値段は2倍します。

eQuinox 2はWi-Fiを搭載していて、接続は簡単。また最大10台のデバイスに接続できるので、グループでの遠出には最適です。

接続が切れる心配なしに、時には望遠鏡から40フィート(約12m)離れても自由に動き回れました。

ひとつイラっとしたのは、アプリ間を切り替えた際に観察セッションが停止したこと。新たな画像を進めている間に前の画像をシェアするにせよ、別の目標天体の場所を特定するために天体観測アプリを使うにせよ、アプリ間を行ったり来たりしたかったんです(幸いにも、発生時に望遠鏡の向きを再設定する必要はありませんでした)。

特に気に入った特長のひとつは望遠鏡のUSBポートで、手持ちのデバイスを充電に役立ちました。

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eQuinox 2で撮影した子持ち銀河
Image: George Dvorsky/Gizmodo US

重量は20ポンド(9kg)近くでミラー口径は4.5インチ(114㎜)と、反射望遠鏡は持ち運べますが、そうするにはリュックや何かしらの携帯用ケースが欲しくなるでしょう。

もちろんUnistellar社から専用のバックパックが出ていますが、お値段は429ドル(4万6,900円)。

ちなみに望遠鏡には伸縮式の頑丈で高品質な三脚も同梱されています(三脚を一番伸ばしたとき、望遠鏡の高さは6フィート=1.8m超に)。

eQuinox 2の配色はブラックとグレイで洗練されていて未来的、電源ボタンのみをあしらった外観はミニマリスティック。

でもシンプルな見た目によらず、このガジェットの中にはたくさんの機能が詰まっています。

まずはセットアップ

三脚に搭載されている水準器を調整した後は、望遠鏡を三脚に取り付けてiPhoneとペアリング。次に、望遠鏡に星空に対する相対位置を把握させるための重要なステップ、フィールド検出を行ないます。

『クイックスタートガイド』のとおりに、スマホの画面上でUnistellarアプリ内のバーチャルなジョイスティックを使って望遠鏡を星群の方向に向けてから「オリエンテーション(eVscopeの向きのボタン)」をタップ。望遠鏡がGPSと内部星図を使用して識別して、このプロセスは1分もかからず完了しました。

位置を特定できたら、鏡筒の基部にある焦点ホイールを手動で回して行なうピント合わせのため、望遠鏡に明るい星への移動を指示しました。最初にホイールの感度が高く反応が少し遅かったことにつまずいてしまい、結果には満足できず。

取説をきちんと読んでいたら、ピント合わせをアシストするバーティノフマスク(ピント調整用補助パーツ)が同梱されていたことに気付けたのに…。

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バーティノフマスク越しに星を見るのは、ピント合わせに必要なステップ。画面下部にあるグレイ色のボールがバーチャルなジョイスティックです
Image: George Dvorsky/Gizmodo US

「バーティノフマスク」という単語に初めは怖じ気付きましたが、意外にも簡単に使えました。

レンズカバーから外したマスクを、鏡筒の先端に直接取り付けます。前述の明るい星を見据えたまま、はっきりとしたX字型の模様になるまで焦点ホイールを回して調整。

これでしっかりとピント合わせができたので、先に進めました。

繰り返しになりますが、このようなセットアップの各工程は使い方を学んでいくプロセスの一部で、ユーザーにとってイラつくポイントになり得ますが、乗り越えられないものには出くわしませんでした。

包括的で必要なものを備えた天体写真用アプリ

天体望遠鏡のセットアップと方向の調整が全部済んで、楽しむ準備がやっと整いました。

Unistellarアプリには、ユーザーの視野内で現在見られる天体やもうすぐ消える天体といった、その晩に観測できる天体の一覧が掲載されています。

このアプリのカタログは細かく分類されていて、太陽系の(小惑星と彗星を含む)天体、星々や銀河の探索、あるいは探している特定の天体に焦点を合わせられるようになっています。カタログに含まれていない天体を検索して望遠鏡を座標に向けることも可能ですが、後者はもっと上級ユーザーを対象にした機能です。

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Unistellarアプリのスクリーンショット
Screenshot: George Dvorsky/Gizmodo US

非常に重宝するアプリで、天体観察をしながら宇宙天体について学べます。

天体の種類や地球からの距離、年齢、大体の星数、その座標及び見える時間帯など、各目標天体の詳細情報を掲載。

カタログには5000個以上の天体と3700万の星が収録されているので、しばらくの間夢中になるには十分かと。

天文学ビギナーにはもってこい

観測したい天体を選んだら、「移動する」のボタンを押せばいいだけ。あとはeQuinox 2天体望遠鏡が自動的に動いて、夜空の正確な位置へと向きを合わせてくれます

そうするとユーザーのデバイスには、クイックズーム(0.8倍か3.0倍か選べる)と共に天体の画像が投射されます。

アプリは「ピンチしてズーム」機能もサポート。特に最大の8倍まで拡大すると目標天体に親近感がわき、探検者であるかようにも思えたので、この機能が大好きでした。

望遠鏡で集めた画像は6.2メガピクセルの解像度と、かなり広い視野(34×47アーク分)で表示されます。

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eQuinox 2で撮影した散開星団「M67」
Image: George Dvorsky/Gizmodo US

銀河や惑星状星雲といった深宇宙の天体の多くはぼんやりと光っているので、すぐには表示されませんが、こういった場面でスマート兼リモート望遠鏡は真価を発揮しました。

エンハンスト・ビジョン」をタップすると、望遠鏡は取得した画像をスタッキングし始め、目標天体の表示がどんどん鮮明になっていきます。

遠方の天体がこの技術で見え始めるスピードは、1分もかからないときもあったので驚愕しました。

望遠鏡は空中の天体を辛抱強く追いながら、このような長時間露光をスムーズ且つとても静かに作成。当然ながら、このモードでは天体観測に時間をかけるほど、画像は改善されていきます。

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eQuinox 2で撮影した環状星雲
Image: George Dvorsky/Gizmodo US

画像は天体観察のどの段階でも手動で保存でき(ウォーターマークの有無にかかわらず)、簡単にアクセスできるよう自動的にユーザーのデバイスの画像ギャラリーに追加されます

それぞれの天体の名前は簡単に忘れてしまうので、ウォーターマークと一緒に保存しておくのが賢明。

私は保存を忘れたまま次の目標に移りがちなので、セッション終了時の最後の光景がオートセーブされるデフォルトの設定は、気の利いた有用な機能だと思いました。

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eQuinox 2で撮影した金星(左)と火星(右)
Image: George Dvorsky/Gizmodo US

天体によりますが、eQuinox 2で取得した画像は色彩豊かでクリア、時には驚くほどで、気付けばよく家の中に駆け込んでは気に入った画像を妻に見せびらかし、SNSにシェアしていましたね。

遠く離れた天体は不鮮明に見えることもありましたが、ほとんどの場合はきれいに表示されました。

惑星や月など近い天体についてはぼやけてつまらない画像になりがちだったので同じことが言えず…(とはいえ金星を三日月型の天体として観測できたのは、確かに素晴らしい体験でした)。

万能タイプの天体望遠鏡

バーチャルなジョイスティックを使ってeQuinox 2の手動コマンドも行なえました。便利なスローモードのおかげで、とても正確に動かせました。

バッテリーの持ちが11時間というだけあって、屋外での天体観測をせかされているように感じたことはなく(アプリがバッテリー残量を教えてくれます)、64GBのストレージですから、次から次へと写真を撮り続けるのみでした。

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eQuinox 2が撮影した葉巻銀河
Image: George Dvorsky/Gizmodo US

自律型のスマート光害低減テクノロジーは近くの街灯や私の住む町から照らされる環境光を軽減し、効果を発揮しました。この記事の画像はすべて、我が家の前庭か裏庭で撮影されたもの。

ただし防水仕様ではないため濡れてしまわないように気を付ける必要があります。

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eQuinox 2で撮影した、ウォーターマーク有りの球状星団「M10」
Image: George Dvorsky/Gizmodo US

この望遠鏡は明るさとコントラストを自動的に調整しますが、こういった設定を手動でコントロールするオプションもあります。

自動モードはうまく機能していると思ったものの、背景をもっと暗くしたかったときには手動コマンドで対応できました。

太陽を撮影しよう

天体望遠鏡は星を眺めることを可能にしますが、出荷間近のスマートソーラーフィルターは太陽の観察を可能にします。

この新しいフィルターはUnistellar社天体望遠鏡の全モデル共通で、太陽光を10万分の1に低減してリアルタイムでの画像処理を可能にするのです。

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Unistellar社が提供した、スマートソーラーフィルター越しの太陽と黒点の画像
Image: George Dvorsky/Gizmodo US

画像はスマホやタブレットに送られるので、太陽の有害な光線を目で見ようという気にはならないでしょう(フィルターは同社の接眼レンズ込みの望遠鏡にも適合します)。

フィルターを使えば黒点のスキャンに加え、日食の類まれな光景を撮影できます

スマートソーラーフィルターの販売価格は249ドル(3万6,800円)で、9月に発送開始予定です。

科学に貢献し、地球を防衛

eQuinonx 2を所有することの素晴らしい側面のひとつは、市民科学に従事できるチャンスがあること。

アプリには市民科学のセクションがあって、ユーザーは探索コミュニティと協力して、NASAとSETI協会が指揮する実際の観察キャンペーンに参加できます。

具体的には小惑星による掩蔽(えんぺい、天体が移動時に他の天体を隠すこと)、系外惑星のトランジット、彗星トラッキング、さらには出現した超新星にフォーカスするなどの観察です。

ユーザーは地球に危険をもたらす可能性のある小惑星も追跡することも可能。

これまでに、小惑星の軌道を逸らしたNASAのDARTミッションや、現在進行中の太陽系外惑星を探索するTESSミッションの市民科学キャンペーンがありました。

値は張るものの、高感度なスマート天体望遠鏡

eQuinox 2の値段は、数百~1600ドルほどで小売りされている昔ながらの天体望遠鏡よりも高くつきます。eQuinox 2の価格帯にある同等の天体望遠鏡はCelestron(セレストロン)社の「NexStar 8SE」と前述のVaonis社の「Vespera」など。

上の方を見ると、Unistellar社にはハイエンド機種「eVscope 2」があってお値段は4,899ドル(61万9800円)

eVscope 2はもっと経験豊かなユーザー向けで、ニコンが開発した接眼レンズ(高コントラスト、黒画像、レンズ群を備えた)を搭載し、解像度は7.7メガピクセルとなっています。

結局のところ、私はeQuinox 2のファンです。 テクノロジーが、天体望遠鏡を欲しいと思う最たる理由(天文学に従事する、美しい画像を収集する、宇宙の中のちっぽけな存在だという畏怖の念を抱く)の妨げとなることはないとわかっていたので、毎回の天体観測セッションは楽しめました。

Source: Adorama(1, 2), Unistellar, Unistellar Citizen Science, Space.com,

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