【真相】渋谷の百軒店が都市計画でなくなる? 実際に話を聞いてみたら予想と違った

ロケットニュース24

再開発が進む東京都心。特にめまぐるしく変わっているのが渋谷だろう。

そんな中、2023年6月7日に飛び込んできたのが、「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」で道玄坂二丁目エリアが指定地区になった……というニュース。

道玄坂二丁目は老舗の名店ぞろいの「しぶや百軒店(ひゃっけんだな)」を抱える歴史あるエリア。「もしかして再開発で百軒店が立ち退きされてしまうのか!?」とめちゃくちゃ反発を招いていたのだ。

古い町並みが好きな私としても気になったので、東京都の関係部署に問い合わせてみた結果、実情はどうも違うようで……。

・どんどん変わっていく渋谷

冒頭でも触れたが、2020東京オリンピックの開催などもあり、原宿〜渋谷エリアは長らく再開発が続いている。渋谷駅は10年前とはまるっきり変わってしまった。

駅前の東急文化会館や東急東横店、東急本店は閉店。渋谷ヒカリエに、渋谷ストリームに、渋谷スクランブルスクエアに……と新しい複合施設が並んでいる。

渋谷パルコも建て替えでリニューアルしたし、宮下公園もMIYASHITA PARKという新しい施設に生まれかわった。

さらに、2019年には大規模な立ち退きをともなった渋谷駅南口の桜丘町の再開発も。昭和の面影が残る立ち飲み屋などがあった一帯が立ち退きで完全にゴーストタウン化し、町が工事用の白い塀で囲まれている姿は衝撃的だった。



・古くて猥雑な街、百軒店

さて、今回、東京のしゃれた街並みづくり推進条例で指定地区となった道玄坂2丁目エリアもまた、昭和の香りが色濃く残る古い町なのである。

なかでも「しぶや百軒店」は古くから続く名店ぞろい

豪華な音響施設を備えた「名曲喫茶ライオン」に……

台湾料理の老舗「麗郷」

大槻ケンヂのエッセイにも出ていたカレー店の「ムルギー」

渋谷を代表する町中華の「喜楽」

老舗ロック喫茶の「B.Y.G」

裏通りに入れば「club asia」や「O-EAST」、「O-WEST」といったライブハウスが軒を連ねる。

ただ、文化の発祥地でもあるいっぽうで、混沌とした場所でもある。「ちょっといかがわしい雰囲気が漂う場所」とでも言えばいいのだろうか。

まあ、昔からある繁華街って、そういうダーティーなところが魅力の一部でもあると思う。

この古くて混沌とした町に「町並み再生」という言葉がかかってきて、数年前の桜丘町の再開発のことなどを思い出せば、この街を愛する多くの人が「もしや、百軒店も立ち退きか!?」、「しゃれた町を作るってどういうつもりやねん」と警戒するのは当然だろう。


・本当に立ち退きなのか?

百軒店やその他の店が本当に立ち退きになるのか……気になったので、しゃれた街並みづくりの担当部署に問い合わせて聞いてみたのだが、実情は微妙に違ったのである。

取材に答えてくれたのは、東京都都市整備局 都市づくり政策部 土地利用計画課 基本計画担当 課長の栗原さん。

──渋谷・道玄坂二丁目が「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」の指定地区になったと聞きました。ニュースを見て、百軒店が立ち退きになるのではないかと不安に思っている人が多いようなのですが……


栗原さん 「まず、しゃれた街づくりといっても、百軒店の立ち退きとかではないんです。道玄坂や文化村通りの賑わいのある空間から、百軒店の界隈生のある町並みといった地域環境をいかして、歩いて楽しい街づくりをするために、道玄坂二丁目の街づくりの将来像としては3つの方針が決められています。

1つめが『低層部を店が連続することで歩いて楽しい街づくり』、2つめが『音楽や文化など地域の個性を活かすエンタメ空間』、3つめが『路地的空間と大通りのにぎわいを生かしたウォーカブルな空間』というものです」


少しむずかしい言葉が使われているが、「低層部を店が連続することで歩いて楽しい街づくり」というのは、道玄坂や文化村通りといった店が集まるエリアを整備することのようだ。「音楽や文化など地域の個性を活かすエンタメ空間」というのは、ライブハウスや美術館が集まっている渋谷の街の雰囲気を指すのだろう。

そして『路地的空間と大通りのにぎわいを生かしたウォーカブルな空間』というのは、路地的空間がまさに百軒店などの小さな店が集まる路地のこと。大通りから百軒店などの路地へと歩いて楽しめる空間にする……ということだと理解した。


──百軒店は渋谷の文化の発信地でもありますもんね。じゃあ桜丘町みたいな大規模な立ち退きによる再開発ではないということですね


栗原さん「そうですね、幹線道路沿いの大きな道では変化があるかもしれませんが。あの桜丘町の再開発のイメージとは違うんです。

たとえば、百軒店のあたりで問題になっているのが建物の老朽化なんですが、今の規制だと大きな建物が建てられないんです。建て替えができないお店のために、そのあたりの規制を緩和したり。

あとは段差や坂が多いのでバリアフリーの整備をすることで、大通りから路地へと歩行者を引き込んだり。環境を整備することで街の再生をはかるイメージなんです」


──たしかに、あの辺りはアップダウンが激しいので、歩きにくいかもしれません。ちなみに、2003年から「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」が施行されていますが、変わった街などがあれば、具体例を教えていただきたいです。


栗原さん「そうですね……渋谷の道玄坂二丁目計画と似たような例を出せたらいいのですが、街づくりってすごく時間がかかるので、実はほとんどの計画がまだ進行中なのです。完成している街といったら武蔵小山の駅前とかになるでしょうか。あそこは道玄坂の都市計画イメージとは少し違うのですが」


──いきなり街がガラリと変わるのではなく、何年も時間をかけて少しずつ街が変わっていく……というイメージなんでしょうか。


栗原さん「おそらく渋谷は都内でも最も再開発が進んでいる街です。道玄坂や百軒店の都市計画は、誤解されている部分も多いようですが、HPで資料を公開しているので、ご覧になっていただけると」



・文化を守りながら暮らしやすく

話を聞いていて何度も出てきたのが「界隈性」や「路地性」といった言葉だった。また、目を通した資料でも繰り返し「百軒店を守る」といった記載が何度も出てきたのが印象的だった。

私の想像とは裏腹に「東京のしゃれた街並みづくり」の中では、ライブハウスや老舗飲食店が並ぶ百軒店は文化の発信地であり、魅力的な街であるという認識らしい。百軒店はなくすべきものではなく、守っていくべきものという認識があることを聞いてちょっと安心した。

とはいえ、もちろん今のままというわけではないだろうし、時間をかけてゆっくりゆっくりと街並みが変化していくのだろう。

再開発にありがちな、どこかで見たような新しい街ではなく、これからも百軒店らしさを残しながら、新しい歴史が続いていくことを願う。


参考リンク:渋谷区 (道玄坂二丁目地区まちづくり)
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.

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