イスラエル北部で発見されたという約1万2000年前に鳥の骨から作られた小さな笛を、先史時代の人類は鳥の鳴き声に似た音を出す楽器として使っていたかもしれないという研究結果が発表されました。
笛と思しき骨が見つかったのは、イスラエルが1967年にシリアから奪ったゴラン高原の西にあるフラ渓谷の遺跡。元々は1955年に発掘されたものですが、近年になって再調査されたのでした。
その調査で、研究者は鳥の骨のうち7本の側面には印のようなものがあることに気付きます。骨はいずれもオオバンとコガモの翼の骨であり、印だと思われたものは実は非常に小さな穴だったと判明します。
これらの骨が猛禽類の鳴き声を真似する笛(科学用語で言うなら気鳴楽器)として使われていたと、研究チームは仮定。
ナトゥーフ期の捕獲者が捕らえやすいよう、猛禽類の鳴き声で渡り鳥を怯えさせて飛び立たせていたと推測したのです。彼らの論文はScientific Reportsに掲載されました。
「もし笛が狩猟のために使われていたなら、狩猟で音を使用した最古の証拠になります」と、イスラエル考古学庁の考古学者で論文の共著者であるHamudi Khalaily氏は、エルサレム・ヘブライ大学のリリースにてコメント。
同氏はさらに、「この発見は狩猟のやり方に関する重要な新情報を与え、南レバント地方における農耕・植物栽培・畜産の過渡期の始まりを示すさまざまな先史時代の道具を補足するものです」と付け加えています
笛の音は猛禽類の鳴き声にそっくり
前述の仮説を検証するため、研究チームは実験考古学をすることに。笛の大きさに合うようマガモの骨を整えて穴を再現して、複製品が作られました(見つかった笛では1本のみが原形を保っていた模様)。
複製した笛を吹いたところ、数種類の高周波音が出ました。それらは新石器時代のレバント地方に生息していた2つの猛禽類、チョウゲンボウ(Falco tinnunculus)とハイタカ(Accipiter nisus)の鳴き声に似ていたのです。
研究チームはこういった鳥の骨が必ずしも笛、まして狩猟用の道具として使われていたとは限らないという認識を持っています。
論文には、「考古学的な観点から見た1つの根源的な問題は、人工遺物の音を出す可能性と、この人工遺物がその特定の目的を果たしたという証拠とを区別することです」と書かれていました。
それに音を出すという意図で骨が彫られていたとしても、狩猟に使われていたとは限りません。骨でできた笛は最も古い楽器の類だったのかもしれませんが、それに関する考古学的な証拠は往々にして乏しいものです。
研究の共著者でエルサレム・ヘブライ大学の考古学者Rivka Rabinovich氏は、「現在の研究は、発掘で見つかった文化的な発見物を保存する重要性を示しています。新たな手法と異なる研究分野の学者たちとの共同研究のおかげで、それらは人類文化への新たな知見と研究の方向性をもたらし続けるのです」と前述のリリースで述べています。
確かに古代の証拠は現代のテクノロジーでもってこそ有益な成果を得られるもの。NASAも同じ理由からアポロ計画で採取した月のサンプルを取って置いていました。(急速に劣化している状態でない限り)科学サンプルは価値が上がるばかりですからね。
もっと多くの人工遺物から手がかりを得ていくとともに、それらを調べる手法の改良も進めば、やがてもっと多くのことが明らかになるかもしれません。
Source: Scientific Reports, YouTube