トルー作「ホルンの形に巻けない僕たち」の記事について、編集側の視点で書いてみた。
あの記事には載っていない事情と使われてない写真があった。
ホルンのレンタル代が高い
トルーからホルンの形にケーブルを巻くというアイディアを聞いたのは5月12日だった。
確かにケーブルが管楽器みたいにとぐろを巻いていたらおもしろいだろう。
ただ、ホルンが高い。30万ぐらいする。まさか買うわけにもいかず、レンタルできるところを探しても1万以上だ。安いところが見つかったら、という条件付きでの実施となった。
後日トルーから8000円で借りられるところが見つかったのでやっていいかとの連絡があった。
8000円か…。正直、ちょっとした記事の原稿料ぐらいの価格である。もう1本原稿が増やせる。
いや、僕らはお金ではない価値を作っているんじゃなかったのか。この世をエンジョイする方法を、辛い現実を忘れられるコンテンツを作ること。
そんなことをふだん会社に対しては言っているのに経費のことをぐだぐだ言うのはフェアじゃない。おもしろいものができればいい。
しかも手に針金が刺さって血が出たとかでホルン作りを中断していた。
> そんな僕を見て「頑張りなよ」と声をかけてくれたのが林さん
トルーは原稿でこう書いているが、正しくは「血が出てもいいから作って!」だ。
場を取り繕うとして言ってくれているのかと思って聞いていたが、本気だった。
窪田くんはたまたま高千穂から東京に遊びに来ている。
せっかくだから撮影に立ち会ってみる?(キラーン)なんつって誘ってこの状態。
「あ、撮影って適当でいいんだ」と思ってしまう。
次回の記事からクオリティが下がるだろう。
できませんでした記事は避けたい
血が出たといってしょんぼりしている主催者と、瞳孔開きっぱなしが2名。ホルンのレンタル8000円。
デイリーポータルZ得意の「できませんでした」という記事か。
でもね、そういう記事はもう受けなくなっているんだ。
2010年代後半からインターネットの潮目は変わっている。
それでもデイリーの熱心な読者は「…でも、こういうのいいよね!デイリーっぽいよね」と言ってくれるだろう。
だが、そうやって読者に負荷をかけるのも嫌だ。感情を偽らせることなく、おもしろくありたい。
例えばその人がデイリーを人に勧めて、勧められた人がこの記事を読んだらどう思うだろうか。
「あの人、こういうのを面白いって思うタイプね」
世界でいちばん僕らに優しい人たちに余計なレッテルが貼られるだろう。
グネグネした針金を見ながら暗い未来のシミュレーションは止まらない。だれかおれの富岳を止めてくれ。
外に出よ
外に出るのはどうだろう。
屋内で変わったことをしていても普通だが、屋内だったら「外なのに変わったこと」という違和感が生まれる。これで書けるんじゃないか。
あー、だめかも。
無理に変わったことをさせてライターがしょんぼりしていくパターンだ。ごめん。
その証拠にトルーの目が半開きになっている。無理に変わったことをすると、人間は目が半開きになるのだ。
デイリーポータルZの暗いナレッジである。
受け入れたくない現実を見ないようにしているのかもしれない。
僕も恥ずかしかった撮影の写真を後で見ると半分ぐらい目があいてない。
本当にあいてない。
こういう時は外に出ればいんだよ!と言ってこの体たらく。
常に根拠のない自信に支えられて判断しているが、これに限らず、サイト運営でももっといい選択肢があったんじゃないだろうか。
またおれの富岳が終わりのないシミュレーションをし始める。
そのあとのリカバリは記事の通り
しかしトルーはそのあと、ひとりでホルンを完成させた。その成果は記事の通りだ。素晴らしい出来である。
これこそ2020年代のおもしろ記事だ。誇りをもって出せる。
できませんでした記事にはならなかった。ホルンをもって外に出た1時間の写真は1枚も使ってない。そこも英断だ。
ケーブルじゃなくてストローになってるじゃん、そう思う人もいるかもしれない。
だがそんなことはどうでもいい。
このサイドストーリーを読んだ人には分かってもらえると思う。
この記事をいれてホルン記事は2本になったので、2本で経費8000円にすることができた。
でも記事で「模型とかでよかったのに。」とトルーが書いてるので、次回からこういう企画のときは絶対に模型にする。