コーチ(Coach)のタビーバッグが、「グローバル・タビーツアー」を展開中。
創業82年を迎える革製品ブランドのコーチは現在、アイコンバッグである「タビー」の人気をさらに高めようと、世界中で大規模なプロモーションを展開している。コーチは2月から、タビーをフィーチャーしたショップを世界各地でオープンさせており、ガチャガチャが評判の日本のポップアップショップのほか各地でテーマカフェ、大学キャンパス内のアイスクリームトラック、デジタルイマーシブルーム、AIを活用したタビーショップなどが人気を呼んでいる。
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親会社であるタペストリー(Tapestry)が5月11日に行った業績発表では、Z世代から見たコーチの印象が「ママのブランドから、私のブランド」へと変化していることをコーチのCEO兼ブランドプレジデントを務めるトッド・カーン氏が明らかにしている。ケイト・スペード(Kate Spade)やスチュワートワイツマン(Stuart Weitzman)も傘下に置くタペストリーは、第1四半期の純売上高が前年同期の14億4000万ドル(約1872億円)から15億1000万ドル(約1963億円)に改善したことを発表した。
オリジナルのタビーの誕生はおよそ50年前。以来、コーチは配色やデザインを変えたり、カスタマイゼーションのオプションを加えたりして、製品のアップデートを行ってきた。2019年の公式リローンチ後はカルト的な人気を誇っており、TikTokで#CoachTabbyのハッシュタグのビュー数は2300万回以上となっている。
これまでにも、ラッパーのリル・ナズ・X氏やアイス・スパイス氏をブランドの顔としてプロモーションを行ってきたコーチの今回の取り組みは、タビーバッグの人気のさらなる向上を狙ったものだ。「タビーツアー」と名打たれた新たなプロモーションを通じてコーチは、デザインをさらにグレードアップしながら、ゲーミフィケーションや五感に訴える体験、ローカライズされたコンテンツなどで顧客へのアピールを目指しているという。コミュニティの意識を育み、実店舗とデジタルを融合した「フィジタル」を実現することもゴールの1つだ。
コーチのグローバルヴィジュアルエクスペリエンス部門でシニアバイスプレジデントを務めるジョヴァンニ・ザッカリエーロ氏は、プロモーション展開の背景を次のように説明している。「特にパンデミック後、消費者はオンラインで買い物をする傾向が高まり、ブランドとして実店舗のあり方を見直すことが急務になった。そこで、ハイパーフィジカルなショッピングを五感で楽しめる、イマーシブな体験の提供への注力を決定した。顧客に忘れられない体験をもたらし、彼らの心と強い絆を結ぶのが狙いだ」。同氏は、すべてのポップアップショップとイマーシブ型のストアについて、同じような理由から今シーズンのもう1つのマーケティングテーマである「アイスクリーム」を絡めていると説明した。今シーズンのタビーバッグは、さまざまなアイスクリーム・カラーで展開されている。
4月には、コーチはバンコクで実験的なポップアップをローンチ。店内には3Dで再現されたニューヨークの地下鉄駅と、昔ながらの色とりどりのアイスクリームショップが並ぶ。同月にはシンガポールにも、イマーシブデジタルルームがあるショップ、特別メニューが売りのコーチカフェ、職人によるオーダーメードのヴィンテージバッグ専門店をオープンした。現在はアジア各国のビーチで、土地ごとのテーマに沿ってデザインされ、アイスクリームをフィーチャーしたポップアップを展開中だ。
各国での展開について、ザッカリエーロ氏は次のように説明する。「より合理的な方法で、より大きな成果を生み、イノベーションを確実に推進しながら、グローバルでの認知度向上を目指している。たとえば、タビー・キャンペーンはこれまでのキャンペーンよりもずっと長期にわたっている。2月にスタートして今も継続中だ」。この戦略はコーチにとって、ホリデーに合わせて各地で展開するチャンスももたらしている。たとえば、北米では母の日の前後に、マレーシアではラマダン前後にポップアップを出店しているという。
シンガポールをはじめとして、イマーシブな体験を提供するコーチのポップアップは、今やその都市の人気の観光スポットだ。
北米では、「タビーツアー」のアイスクリームトラックは大学のキャンパスに登場し、より若い消費者への訴求を図っている。最新の業績発表によれば、タペストリーは北米で第1四半期中に120万人を超える新規顧客を獲得したそうだ。そのうち約半数はZ世代とミレニアル世代だという。
「世界中のショップで、イマーシブな体験がより若い消費者にウケている。エンゲージメントタイムもずっと長くなり、ショップに長く滞在してブランドと触れ合い、質問をし、価値ある時間を過ごすようになった」とザッカリエーロ氏はこれまでの成果を語る。事実、北米のタビーツアーはもっぱらZ世代に人気で、来店者の95%を占めるという。入店待ち時間は60~75分で、平均滞在時間は9分だ。
ザッカリエーロ氏によれば、今回のキャンペーンでは「グローバルなアイデアに、ローカル風味をしっかり効かせることに注力している」という。たとえば東京では、原宿にイマーシブなポップアップをオープン。原宿らしいアイスクリームが食べられるほか、地元のクリエーターによる提灯や壁画も楽しめる。
プラダ(Prada)やラルフローレン(Ralph Lauren)をはじめとするライバルブランドもカフェを開いているが、コーチの場合、そこからさらに大きな成果を生むことを目指している。「タビーバッグを通して、五感に訴えることが目標だ」とザッカリエーロ氏。具体的には、さまざまな味のアイスクリームで味覚と臭覚に、特注のサウンドトラックで聴覚に、大胆なカラーで視覚に、巨大なタビーバッグで触覚に訴えるといった具合だ。しかもこうしたアイデアが、SNSを念頭に置いてデザインされている。
これらのイマーシブな体験はすべて、タビーバッグを中心に展開される「マーケティングオーケストレーションの一部」だとザッカリエーロ氏は説明する。
コーチはこれまで、実店舗と並行してデジタルスペースでの成功にも尽力してきた。たとえば、タビーバッグのプロモーションでは、「フレーバー」をテーマにしたゲームを開発。アイスクリームショップが舞台のゲームで、今シーズンのブランドテーマであるアイスクリームのようなカラーが随所に見られる。ゲームはポップアップ、ウェブサイト、SNSからアクセスできる。さらにコーチは、ディセントラランド(Decentraland)による3月のメタバースファッションウィーク(Metaverse Fashion Week)にもタビーをフィーチャーして参加。また、ARファッションプラットフォームのゼロ10(ZERO10)と協働し、5月8日にニューヨーク・ソーホーの店舗正面をARを用いたバーチャルミラーへと生まれ変わらせている。
ゼロ10の創業者であるジョージ・ヤシン氏によると、「1週間にわたってARを用いた店舗正面を展開し、大盛況だった」という。同氏によると、ARショーウィンドウに注目する歩行者は、一般的なショーウィンドウの93.5%増となったそうだ。来店者数も49.4%増に達したという。
Web3分野のスタートアップ企業であるコバルト(Cobalt)の創業者でイノベーションアドバイザーを務めるガブリエル・タイス氏は、コーチによる規模を抑えたタビー・ポップアップの成功を例に引き、「実店舗への投資を検討する場合、ブランドは規模よりもイノベーションを優先するべきだ」と指摘している。
タビー・ポップアップの成果はいまのところ上々だ。ザッカリエーロ氏は次のように締めくくった。「タビーをキーワードにしたインターネット検索は前年比で3桁増、前週比で2桁増を記録中だ。『タビーツアー』や『コーチ・タビーツアー』など、実験的プロモーションに関連した新しいキーワードも、検索結果に出てくるようになっている。コーチのプロモーションについて、消費者が関心を寄せていることが明白に分かる」。
[原文:How Coach used global retail activations to popularize a hero product]
(翻訳:SI Japan、編集:山岸祐加子)