政府の少子化対策の骨組みが徐々に明らかになってきた。読売新聞のまとめによると、最大の歳出は児童手当の増額で、3人目以降を月3万円に倍増する。各省の支出をこども金庫という特別会計に集め、歳出は約3兆円である。
こどものいない被保険者が負担する「独身税」
それに対して財源はまだ調整が難航しているようだが、「社会全体で負担する支援金制度」というよくわからないものができる。この主な財源は健康保険料で、現役世代の負担増が約1兆円である。これは子供のいる家庭に配る財源を子供のいない被保険者が月500円ぐらい負担する独身税のようなものだ。
その他に歳出改革などで1兆円などとなっているが、はっきりしない。おそらく3兆円の半分ぐらいはこども特例公債(赤字国債)になるだろう。これは将来世代の負担だから、結局、子供への補助金を子供が負担するわけだ。
これは権丈善一氏(慶応大学教授)がかねてから提唱している子育て支援連帯基金(権丈プラン)とまったく同じである。経済学者が政府の実施できる政策を提案するのはいいことだが、このプランには根本的な問題がある。
それはこのプランで子供が増える根拠が何もないことだ。権丈氏も「社会保障問題とは結局のところ財源調達問題に尽きる」と書いている。このままでは日本の社会保障は、それを支える現役世代が減って支えきれなくなるので、「支え合い」と称して負担を増やそうという話で、少子化はその方便に使われているだけなのだ。
生まれてくる子供は生涯で8000万円以上も損する
このプランのもう一つの問題は、これが既存の社会保障支出をいろいろな財源から集めるだけで、給付の削減を考えていないことだ。たとえば原則1割負担になっている後期高齢者の窓口負担をすべて3割負担にするだけで3兆円以上負担が減るが、そういう対策は考えていない。政治的に不可能だからである。
財界や労働組合は、高齢者も負担する消費税を財源として排除すべきではないと主張しているが、岸田首相は「消費税の増税は考えていない」と封印したので、現役世代のための支出に現役世代の社会保険料負担を増やす奇妙な案になった。
この点では権丈氏の思想は一貫していて、政治家が受け入れない政策を提案しても意味がないと考えている。将来世代の生涯所得が60歳以上より8000万円以上も少ない世代間格差も「賦課方式の社会保障とはそういうものだ」と意に介さない。
今の現役世代が損するのは、たまたま少子化の時期に当たった運が悪いだけで、制度の欠陥ではない。今から積立方式に変えるのは政治的に不可能だ――こう割り切る権丈プランは、事なかれ主義の岸田政権に適したリアリズムである。
だが、これから生まれる子供が親に比べて一生で8000万円以上も損するとわかっていて、月3万円の児童手当めあてに子供を増やそうと思う親がいるだろうか。むしろそんな財政的な幼児虐待はかわいそうだから、子供をつくるのはやめようと思う親が多いのではないか。