「コロナによる死亡数」の本当のところ

アゴラ 言論プラットフォーム

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第8波の流行は、コロナによる死亡数の激増をもたらし、わが国の累計死亡数は1月末には6万7千人を超えている。従来のコロナ肺炎による死亡は激減し、多くは高齢者の基礎疾患の悪化によると考えられている。

コロナ感染が基礎疾患を悪化させる症例がある一方で、交通事故死でも死後のPCR検査が陽性ならばコロナ死にされていると揶揄されるように、コロナ死の定義を疑問視する声は多い。

昨年の8月に愛知県の大村知事は、“愛知県における235人の第7波での死亡者の中で、コロナ肺炎単独での死亡者はいない。多くは、老衰や持病の悪化で亡くなった”ことを明らかにしている。現行ではPCR検査でコロナが陽性ならば、死因に関係なくコロナ死に計上されている。愛知県として、国に対してコロナ死の定義や公表方法の見直しを求めたことが報道された。半年たつが、“コロナ死”の定義が見直されたという話は聞かない。

そもそも、死因に関係なくコロナ死として扱うのは厚労省からの通達に基づいている。令和2年6月18日の都道府県宛ての事務連絡で厳密な死因を問わず、検査陽性者が死亡した場合には、都道府県等における公表と厚労省へ報告するように指導している。この数字は感染症法に基づいた速報値である。そのほか、確定値として、死亡診断書に基づく人口動態調査の結果があるが、連日、報道されているのは速報値である。

WHO(世界保険機関)や米国のCDC(疾病予防管理センター)の手引書には、以下のように、厳密なコロナ死の定義が記載されている。

コロナ死とするのは、コロナの症状があって、コロナが直接の死因あるいは死亡の誘因となった場合のみにすべきとしている。コロナ死とは見做さない例として、心筋梗塞や外傷で死亡した患者のPCR検査が陽性であった場合を挙げている。死後のPCR検査も勧めているが、あくまでも症状があってコロナが疑われるケースである。

図1 WHOの手引書によるコロナ感染症の死因の定義

厚労省は、毎日、感染症発生動向情報をホームページに掲載しているが、この情報は都道府県・政令指定都市・中核都市がホームページで発表するデータやHER-SYSの患者属性情報に基づくもので、速報値にあたる。人口動態統計の調査結果が確定値で、確定値は速報値よりも死亡数の減少が予想される。

米国では、コロナの死亡統計はCDCに属すCovid-19 Data TrackerとNational Center for Health Statics(NCHS)から発表される。Covid-19 Data Trackerは各州の保健局からの報告をリアルタイムに集計した速報値であり、NCHSの集計は死亡診断書に基づいた確定値である。

2022年の3月中旬になると、Covid-19 Data Trackerが発表する18歳未満のコロナ死の速報値は1,700人であるのに、NCHSの発表する確定値は900人と2つの集計間に大きな乖離が見られるようになった。

この乖離に、一人の母親が「Covid-19 Data Tackerが公表する子どものコロナ死の数字には問題がある。自分達の子どもがコロナの脅威に曝されている現在、正確なデータが欲しい」とツイートしたことが大きな反響を呼び、CDCも重い腰をあげてCovid-19 Data Trackerの過失を認めて645人に修正した。

CDCからは、過失の原因は、コンピューターが誤ってコロナが原因の死亡に加えて、死因とは関係ないPCR陽性のケースもコロナ死とカウントしたことによると説明された。一例として頭部外傷で死亡してもPCR検査が陽性ならコロナによる死亡にカウントされたことを挙げている。

そこで、厚労省の発表する速報値と確定値を比較したのが表1である。予想とは異なり、確定値の方が速報値より多かった。わが国におけるコロナによる正確な死亡数を求める声が多い現在、なぜ日本では、速報値より確定値が多いのか理由を明らかにする必要がある。

表1 わが国におけるコロナによる死亡数

ところで、国立感染症研究所(感染研)から9月の第一報に続いて、昨年末に、20歳未満の小児におけるコロナ死についての疫学調査の結果が発表された。筆者は先にアゴラに掲載された「感染研発表子どものコロナ死41人を考察する」という論考で、感染研の発表する子どものコロナ死の定義について疑問を投げかけた。

感染研発表「子どものコロナ死41人」を考察する
これまでは、子どもはコロナでは滅多に死なないとされてきた。実際、わが国における昨年末までの20歳未満の死亡例は3人のみである。ところが、9月14日に、国立感染症研究所(感染研)から、今年に入って8月31日までに、20歳未満でも41人…

今回の調査にあたって、感染研は調査員を現地に派遣し、医療機関での診療録の閲覧、さらに医師への聞き取り調査を行っており、これまで、わが国で公表されたコロナによる死亡数の調査では、最も信頼できる結果と期待できる。

2022年1月1日からの調査期間が前回の8月31日が9月30日までに延長されたことによって、症例数が41人から62人に増加した。62人の内訳は、0歳:9人(15%)、1〜4歳:19人(31%)、5〜11歳:25人(40%)、12〜19歳:9人(15%)である。62人のうち実地疫学調査ができたのは57人で、内因性死亡が50人、外因性死亡が7人であった。

内因性死亡50人の年齢分布は、3ヶ月未満:3人(6%)、3ヶ月〜1歳:5人(10%)、1〜4歳:19人(31%)、5〜11歳:25人(40%)、12〜19歳:9人(15%)であった。21人(42%)に基礎疾患がみられた。

ワクチン接種の対象年齢である5歳以上の26人のうち、接種済みは3人(12%)であった。22人(44%)が来院時すでに心停止しており、20人(40%)が外来で死亡が確認された。

発症から死亡までの日数の中央値は3日で、内訳は0〜2日が22人(46%)、3〜6日が14人(29%)、7日以上が12人(25%)であった。

最も知りたい死因についてであるが、不思議なことに前回の発表と同様に、明言は避けて、”医療機関において疑われた死亡に至る主な経緯”という表現を用いている。

中枢神経系の異常が19人(38%:急性脳症等)、循環器系の異常が9人(18%:急性心筋炎、不整脈等)、呼吸器系の異常が4人(8%:細菌性肺炎を含む肺炎等)、その他が9人(18%:多臓器不全等)、原因不明が9人(18%)であった。中枢神経系の異常19人のうち、14人(74%)が急性脳症、循環器系の異常9人のうち、8人(89%)が心筋炎と考えられた。

7人の外因死があったが、多くは不慮の事故で、交通事故、火災、中毒、自然災害によるものは含まれていないと記載されている。人口動態統計によると不慮の事故には、交通事故、火災、中毒の他、転倒、溺水、窒息等が含まれている。交通事故、火災、中毒、自然災害でないとすれば、残るは転倒、溺水、窒息である。死後のPCR検査が陽性であったことから速報値に加えられたと思うが、WHOの手引き書に従えば、この7例は確定値には加えられるべきではない。

さらに20人は、外来で死亡が確認されており、死後のPCR検査が陽性であったことからコロナ死とされたようである。WHOの手引書にあるように、コロナ死とするにはあくまで生前にコロナを疑う症状がなければならないが、その点については記載がない。

基礎疾患がみられた21人の内訳は中枢神経系疾患が7人、先天性心疾患が5人、染色体異常が5人であったが、これらの基礎疾患が死亡にどの程度関与していたかは不明である。

この調査では触れられていないが、これまでに、メディアで報道されたコロナによる小児の死亡例には、基礎疾患の悪化やコロナ以外の原因で死亡したと記載されているケースも少なくない。血液病に罹患した2人が含まれているが、この2人は入院後血液病に罹患していることが判明し、当日及び3日後に血液病が原因で死亡したと報道されている。

今回の調査では、現地に赴き医療機関での診療録の閲覧、さらに医師への聞き取り調査を行っていることから、基礎疾患がある患児の死亡に、コロナ感染がどの程度関与したかを明らかにすることが可能であったと思われるが、残念ながら調査報告には最も重要な基礎疾患の死亡への関与の記載が欠けている。

今回の感染研からの発表では、62人のうちWHOの定義に従い、何人がコロナによる死亡と確定できるのかが明らかでない。速報値である厚労省の感染症発生動向情報においては、2022年1月1日から9月30日までの20歳未満のコロナによる死亡者数は34人で、今回の調査とは乖離がみられる。残念ながら、人口動態調査では、年齢別のコロナ死亡数は入手できなかったので、この期間における20歳以下小児のコロナによる死亡数の確定値は不明である。

調査員が現地に赴き、診療録の閲覧や医師への聞き取り調査を行っても死亡数を確定できない原因はどこにあるのだろうか。

昨年、5月19日に開催された第84回アドバイザリーボードに提出された資料には、コロナによる死亡とされた404人の死因が記載されている。221人(55%)は、コロナウイルスの感染が死因であったが、残り45%の死因はコロナ感染症以外とされている。45%には、悪性腫瘍、誤嚥性肺炎、心不全、老衰、敗血症、虚血性心疾患、脳梗塞、自殺、致死性不整脈、溺死、頭部外傷などが含まれる。

このデータは、BA.5の流行前であり、BA.5が流行の大半を占める第7波、第8波においては、直接的な死因としてコロナ感染が占める割合はさらに少数であろう。WHOの手引き書に従えば、前述したような直接的な死因があれば、コロナ死の確定値には含まれない。それゆえ、確定値は速報値を下回ることが予想される。

ところが、先に述べたように、わが国では人口動態統計に基づく確定値が、速報値を上回るという不可解な現象がみられる。現在、メデイアが報道するコロナによる死亡数は速報値であり、交通事故死も含め他の原因で死亡した場合も含まれている。

正確な死亡数として人口動態調査に基づく確定値を重視すべきであるが、わが国では、ほとんど、報道されることはない。つまり、わが国には、正確なコロナによる死亡数は存在しないのである。

ワクチン接種を含め、コロナ対応策を講じるには正確なコロナによる死亡数を知ることが第一である。現在、大きな問題となっている超過死亡の原因についても、正確なコロナによる死者数が分からなければ、判断を誤るであろう。

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