インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau、以下IAB)による、デジタルコンテンツマーケットプレイスであるニューフロンツ(NewFronts)が5月1〜4日に開催された。同イベントは今年、デジタルコンテンツプラットフォームやパブリッシャーたちによる、新しい広告プロダクトと動画コンテンツのプレゼンテーションで始まった。
主にYouTube、ヴィジオ(Vizio)、Amazon、およびマイノリティがオーナーのメディア企業複数が、コンテンツや視聴者へのリーチ手法、広告プロダクトを売り込んだ。とくにZ世代や、多様かつ熱狂的なエンターテインメント/スポーツ視聴者に焦点が当てられた。
イベント開始のスピーチでIABのデイビッド・コーエンCEOは、「2022年の米国での広告支出は、動画分野では全体のデジタルメディア市場に比べて2倍の速さで成長しており(21%対11%)、2023年には動画広告が550億ドル(約6兆7972億円)に達すると予測されている」と述べた。これは、IABの動画広告支出に関する最新レポートからの調査結果である。
Advertisement
今回のIABレポートによれば、米国の世帯の85%が毎月少なくともひとつのコネクテッドTVデバイスを使用しており、2020年の80%から上昇している。
主なポイント
- YouTubeは、Z世代の視聴者とクリエイター、短編コンテンツをアピール
- マイノリティがオーナーのメディア企業たちは、多様な視聴者をマーケターに売り込む
- ヴィジオは新しいブランデッドコンテンツスタジオの立ち上げを発表し、同社の「ホームスクリーンヒーロー枠」をアピール
- Amazonは、無料の広告付きストリーミングチャンネル(FAST)サービスのフリーヴィー(Freevee)に焦点を当て、今年広告主に利用可能なコンテンツを拡大
- Googleの生成AIチャットボットBardは、ニューフロントの概要について正確な情報を与えてくれない
短編ビデオに関する大きな野心
TikTokやメタ(Meta)といった短編動画プラットフォームと競合し続けるYouTubeだが、ニューフロンツにおける同社のプレゼンテーションでも短編動画が中心的な存在となった。YouTubeはショーツ(Shorts)を、同社の「ビデオリーチ・キャンペーン」対象に拡大すると発表。
ショーツにおいても、GoogleのAIを活用したスキップ可能な広告やスキップ不可能な広告など、さまざまなフォーマットでメディアを購入できることになるという。また、YouTubeは、トレンドとなっているショーツコンテンツの隣に広告を表示させたり、ショーツの新しい「ファーストポジション」広告枠で視聴セッションの開始時にユーザーにリーチできるようにしたりする。
プレゼンテーションにおいて、YouTubeはアドビ(Adobe)、パラマウント+(Paramount+)、ユニリーバ(Unilever)などを、新しい広告ツールをすでに活用している広告主として挙げた。
YouTubeは、ショーツにおける広告がすべてのマーケターに利用可能になると発表したが、その機能がいつ実装されるかは明らかにしなかった。また、Googleのエージェンシーブランドソリューション部門バイス・プレジデントであるクリステン・オハラ氏は、「動画アクションキャンペーンを従来の枠組みから拡大し、動画リーチキャンペーンも組み込んでいく」と述べた。これはつまり、ショーツがパフォーマンス広告とブランド認知キャンペーンの両方に使用できることを意味している。
なお、同氏によれば、ショーツは毎月15億人の視聴者に視聴され、1日あたり500億回の再生数を記録しているという。
このほか、クリエーターのアラン・チキン・チャウ氏は、魅力的なショーツビデオを作成するためのヒントをマーケターに提供した。主なポイントは次のとおり。
- フック:最初の3秒~5秒間で視聴者は次のビデオへとスキップするかどうかを決めるため、そこで注意を引かなければならない
- 視聴時間:視聴時間はショーツにおいて最も重要。60秒間のビデオが視聴者の注意を長く保持できるほど、ビデオのパフォーマンスがよくなる
- 再視聴価値:ショーツのビデオは、視聴者がスクロールするまでループ再生される。つまり、笑いを起こすエンディングや、あっと驚くようなエンディングなど、視聴者にループ再生させる理由を動画内に生み出す必要がある
多様な視聴者にスポットライトを当てる
ミラー・デジタル(Mirror Digital)の創設者でCEOのシーラ・マーモン氏、電通(Dentsu)のエグゼクティブ・バイスプレジデントでグローバルブランド責任者のデヴァ・ブロンソン氏、ソルブ・イノベーション・グループ(Solve Innovation Group)の創設者で社長のメルビン・ウィルソン氏は、業界のDEI取り組みについて年次評価を行った。平均点は「C」程度となっている(最高がAプラス、落第がF)。
ブロンソン氏は「4年前はDの状態から始めたかもしれないが、ここ4年間でわずかに上昇した。残念ながら、今はCやCマイナスに戻っているかもしれない。取り組みが失敗しているわけではないが、運動に対するエネルギーが衰えつつあるため、非常に懸念される」と述べた。
ニューフロンツの初日では、ブラヴィティ(Blavity Inc.)、コシーナ(Cocina)、iワン・デジタル(iOne Digital)を含むいくつかのマイノリティがオーナーのメディア企業が紹介された。これらの企業はすべて、「無償でIABでのプレゼンテーションの機会を得た」と、コーエン氏は開会の挨拶で話している。
黒人オーナーのメディア企業ブラヴィティの創設者でCEOのモーガン・デバーン氏は、同社の動画コンテンツが前年比で総視聴時間が125%増加したと述べた。また、今年は25社以上のパブリッシャーをサービス対象とし、多様なパブリッシャーおよび広告管理のためのプラットフォームを拡大するという。
コシーナは、コンテンツのラインアップおよび彼らがリーチできるヒスパニック系の視聴者に焦点。月間で3500万台のデバイスに到達していると話した。
iワン・デジタルは、毎月数百万人のリスナーがラジオやテレビでアクセスしていると述べ、毎月、黒人のアメリカ人の80%にリーチしていると語った。また、プレゼンテーション中に同社の幹部たちは、「黒人のアメリカ人に(広告を通して商品を)販売するためには、今まで以上にこの視聴者層の理解を高める必要がある」とも話した。
エンターテイメント視聴者とスポーツ視聴者の獲得
スマートテレビ会社のヴィジオは、新しいブランデッドコンテンツ制作スタジオである「VCBS」の立ち上げを発表し、ベットMGM(BetMGM)といったブランドと共同でカスタムビデオシリーズを制作していると述べた。また、ヴィジオは無料の広告付きストリーミングサービスであるウォッチフリー+(WatchFree+)についても宣伝。同サービスは現在260以上のリニアテレビのチャンネルと、オンデマンドのライブラリを持っている。
ヴィジオは、同社が「ホームスクリーンヒーロー枠」と呼ぶものも売り込んだ。メディアやエンターテイメントの広告主は、同社のテレビのホームスクリーンに広告を掲載できる。これによって、「販売促進のための自動再生の動画、リンク、ストアフロント、QRコードを経由して視聴者がエンゲージメントを持つことができる」と、メディアとエンターテイメント部門シニアディレクターであるショーン・ブッカー氏は述べている。同社のプレゼンテーションによれば、過去6カ月間でヴィジオのホームスクリーンの滞在時間は、53%増加したという。
Amazonのプレゼンテーションでは、無料ストリーミングプラットフォームのAmazonフリーヴィーで利用できるエンターテイメントとスポーツコンテンツに焦点が当てられた。2023年末までに、Amazonで最も視聴されているオリジナルシリーズの100以上が、このプラットフォームで視聴者がストリーミングできるようになり、広告主はゴライアス(Goliath)やモーツァルト・イン・ザ・ジャングル(Mozart in the Jungle)のような番組の横に広告を掲載することができる。
また、今シーズンのNFLの最初のブラックフライデーの試合をプライム(Prime)のストリーミングサービスを利用している人だけではなく、全員に無料で配信すると発表した。「広告主たちは、試合の視聴者をカスタムグループに分類し、同じCM帯に異なるクリエイティブアセットを異なる視聴者に表示することができる」と、Amazon広告(Amazon Ads)のグローバル広告販売担当のバイスプレジデントであるアラン・モス氏は、DIGIDAYに述べた。
たとえば、自動車会社であれば若年層の大人にはスポーツカーの広告を、スポーツファンにはSUVの広告を、そしてほかの視聴者には一般的な広告を同時に表示することができる、とモス氏は説明した。今年、Amazonフリーヴィーでは、ブランドストーリーテリング型広告もベータ版で導入される予定であり、広告主は複数の連続したCMを通じて、物語を伝えることができる。
AmazonのデータクリーンルームであるAmazonマーケティング・クラウド(Amazon Marketing Cloud)は、同氏によると、これから世界中で利用可能になるという。以前は、これはベータ版の顧客に限定されていた。ブランドは、AMC内でAmazon DSPのオーディエンスを作成・更新し、Amazon DSPでそれらをアクティブにすることができるようだ。
Z世代にアピール
YouTubeのプレゼンテーションでは、同社のZ世代へのリーチにフォーカスし、多くのYouTubeクリエイターを登場した。
プレゼンテーションの司会を務めたYouTubeクリエイターのジョン・ユーシャエイ氏によると、YouTubeは過去3年間でクリエイター、アーティスト、メディア企業に500億ドル(約6兆7993億円)を報酬として支払ったという。また、100万人以上の登録者を持つクリエイターは3万人以上いる、とも話した。
アジア・ジャクソンやラレイ、ダーシーといったZ世代のクリエイターたちは、彼らと同じ年代の人々にアピールする方法について広告主にアドバイスした。たとえば、どのようにZ世代に向けてアピールするかを決定するため、Z世代の人々を会議に含めることなどが提案された。
Bardを使っては、ニューフロンツについて正確な情報は得られず
米DIGIDAYがYouTubeのプレゼンテーションで発表されたことについて、Googleの新しいAIチャットbotであるBardに尋ねたところ、少し違った内容が返ってきた。Bardによれば、YouTubeはコカ・コーラ(Coca-Cola)との短編映画シリーズをYouTubeで展開するという内容の新しいパートナーシップ、ナイキ(Nike)とのワークアウト動画シリーズを含む新しいパートナーシップ、そしてP&Gとの健康やウェルネスに関する教育動画を含むパートナーシップを発表したことになっていた。
米DIGIDAYがそのニュースの情報源をBardに尋ねたところ、YouTubeの最高製品責任者であり現在のCEOであるニール・モハン氏の発言が引用されたプレスリリースから、情報を得たと答えた。
しかし、それらの3つはすべて完全にでっち上げである。これは、BardだけでなくChatGPTを含むほかの生成型AIボットでも見られるAIが起こす「幻覚効果」の産物である。
Sara Guaglione and Marty Swant(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)