取材
日本最北端の地・宗谷岬で年を越して初日の出を見る「年越し宗谷岬」は一つのイベントと化していて、稚内市では1988年から「初日の出inてっぺん」と題して花火の打ち上げなどを行っています。メイン参加者は二輪(バイク・自転車)で、年越しを宗谷岬で迎えるために、道北を縦断していきます。このイベントに、「すずめの戸締まり」や「天気の子」「君の名は。」の制作で知られるコミックス・ウェーブ・フィルムのスタッフが「はたらくバイク」の代表格・郵政カブで挑戦したという体験談が、マチ★アソビ vol.26の中で語られました。
マチ★アソビ
https://www.machiasobi.com/
命に関わることなので結論を先に明記しておくと「年越し宗谷岬に郵政カブで挑むのはやめたほうがいい」とのことです。
挑戦したのはコミックス・ウェーブ・フィルムでシステム管理を担当している都川眞栄さん。なお、コミックス・ウェーブ・フィルムといえば、1000万人以上を動員する大ヒット作で2023年5月27日に劇場公開の終映を迎える「すずめの戸締まり」などの制作会社ですが、このトークイベントはアニメとは特に関係なく、都川さんがこの体験をマチ★アソビ関係者にしたところ、「面白そう」という反応があり、ステージイベントに発展していたそうです。
徳島在住時から「年越し宗谷岬」に憧れていた都川さんは、2018年に東京に引っ越し。「モトツーリング」で年越し宗谷岬の記事を見かけたり、NHK「ドキュメント72時間」の「最北のバス停で」の回を目にしたりして熱が高まり、2021年末、とうとう挑戦に踏み切りました。
小樽到着時の様子。年越し宗谷岬に挑むにあたり、レッグシールドを延長。風防と合わせて、風が直接体にあたらないように工夫しています。
タイヤは自作のスパイクタイヤ。雪国の郵便配達はチェーン装着で行われていますが、都川さんによれば「スパイクタイヤがなかったら行ってはいけない」というレベルの必須装備。実際、現地でピンが役立たずになったタイヤの人はカーブのたびに転倒するほどに苦労していたそうです。
また、燃費の問題から10ℓのガソリン携行缶を装着して航続距離を延長しています。
郵政カブの燃費は通常なら30km/ℓほどですが、年越し宗谷岬に向けた装備の重量により22km/ℓほどに低下。また、ガソリンスタンドが休みになるケースもあり、都川さんはこの年越し宗谷岬の行程で旭川から豊富までの移動途中に音威子府で、宗谷岬から留萌までの移動途中に遠別で、それぞれ携行缶からの給油を行っています。重量ゆえに速度が上がらずスケジュールは予定よりタイトになり、留萌到着時はガソリンスタンド閉店のギリギリ、燃料の残量も本当にわずかというところで、「あと少し予定が狂っていたら遭難だった」とのこと。
また、氷点下の走行になるため、たとえば、ガラナを購入して半分ぐらい飲んでボックスに入れておくと、次に飲もうと出したときには凍ってしまっていて飲めなくなる、という事態にも遭遇。
雪道の走行を悩ませる敵、ホワイトアウト。自分がどこを走っているかがまったくわからなくなり、そのまま止まると後続車に追突されるのではないかという危険もあって、とにかく恐ろしかったとのこと。ホワイトアウトをどうにかすることはできないので、テールランプや反射板の増設で後方に警戒してもらうといった対策をするしかありません。安全を確認して、そっと路側で収まるのを待ちます。
以下は、ぱっと見だと空が晴れていて明るそうなのですが、実際に走ると「空は見えるが路面は見えない」という状態になるとのこと。これも自力ではどうにもなりません。
苦難を乗り越えて日本最北端の地・宗谷岬に立つ郵政カブ。
「到達」が目標ではなく「年越し」をするのでテントを張ります。ほかにも多くのテントが張られています。
そして無事、謹賀新年。年越しを迎えることができた、というわけです。なお、ここからオロロンラインを通って留萌、旭川経由で小樽まで戻るという行程が残されています。
今回のイベント会場には、年越し宗谷岬に用いられた実車が展示されました。風防などは外されているため、年越し宗谷岬挑戦時の姿とは異なります。
挑戦してみて、都川さんは「年越し宗谷岬は郵政カブで行くものではない」と結論づけていました。
なお、装備のさらに詳細な部分や、多くの写真は書籍「郵政カブで行く年越し宗谷岬体験記」に掲載されています。
郵政カブで行く年越し宗谷岬体験記 – miya0327 – BOOTH
https://booth.pm/ja/items/4089339
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