チャールズ英国王の戴冠式をBBCでずっと見ていたが、豪華絢爛さが際だったが、映像技術の進歩で数々の宝石の輝きを十分に楽しめた。そこで、今回は英王室、とくにエリザベス女王とジュエリーの話である。
この内容の詳細は、『英国王室と日本人: 華麗なるロイヤルファミリーの物語』(小学館 八幡 和郎・篠塚 隆)にも掲載しているが、八幡衣代が主として調べたものだ。
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君主として70年以上イギリスに君臨したエリザベス女王が2022年9月8日に亡くなられ、イギリス国民が深い悲しみにある中、直ちに皇太子がチャールズ3世として即位された。そして、戴冠式が2023年5月6日に厳かに執り行われた。
戴冠式は王室が持つ華やかなジュエリーをお披露目する大切な機会の一つでもある。最もよく知られているのは、戴冠式に用いられるジュエリー一式「クラウンジュエルズ」(聖エドワード王冠・大英帝国王冠・十字架の王笏(セプター)・鳩の王笏・宝珠(オーブ)・戴冠の指輪など)であろう。
使用しないときはロンドン塔に厳重に保管されている。戴冠式の最後とパレードの間に用いられる大英帝国王冠は最もよく使われる王冠で、現在のものは1937年エリザベス女王の父ジョージ6世の戴冠式で用いるために王室御用達宝石店ガラードが製作した。
エリザベス女王の戴冠式時にはそれを女性用に低めに改修していた。戴冠式に使われる十字架の王笏には「偉大なアフリカの星」と呼ばれるカリナンⅠ(ペアシェイプカット530.2ct)が配置され、「アフリカの第2の星」とも呼ばれるカリナンⅡ(クッションカット317.4ct)は大英帝国王冠へと組み込まれた。
カリナンダイヤモンドは1905年に南アフリカで発掘された、重さ3106カラット(約621グラム)の史上最大のダイヤモンド原石で、イギリス王室に献上され、時間をかけて王室で最も価値のある大粒のダイヤモンド9石と、小粒の約100石となった。
戴冠式でエリザベス女王がまとったのは、イギリスのデザイナー、ノーマン・ハートネルが手がける、金銀の糸で刺しゅうされた白い最高級シルクサテンのドレス。刺繍は女王のリクエストだ。
シードパールとダイヤモンドで縁取られた、3段のスカラップ(ほたて貝)状に配置された、イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズだけでなく、コモンウェルス(イギリス連邦・当時イギリスの支配下にあったすべての国)の花の紋章の刺繍があった。
また、小さくとも華麗で重要なファッションアイテム、シューズはロジェ・ヴィヴィエが製作した。デザインモチーフにフルール・ド・リス(ユリの紋章)を採用したゴールドのレザー製で、ルビーがちりばめられていた。
ドレスやシューズも女王を美しく飾る宝飾品のひとつと言っても過言ではないだろう。
女王のお気に入りで、ティアラの中で最も有名でかつ最もよく身につけていたのは「ウラジミール・ティアラ」と呼ばれるもので、当時のファッションリーダーでもあった祖母メアリー妃がロシア・ロマノフ家の大公妃から買い取った。
ティアドロップ型のパールが装飾宝石のオリジナルで、メアリー王妃はパールを他の宝石と取り替えたり、パールを外してシンプルなティアラとしても使えるように微調整した。その後、「ケンブリッジ・エメラルド」にも付け替え可能にした。着用時には1時間ほどかけて組み立てるという。
「ロシアン・フリンジ・ティアラ」は61個の棒状のプラチナに488個以上のダイヤがちりばめられている。フィリップ殿下との結婚式で着用したもので、これもエリザベス女王のお気に入りティアラのひとつだ。
それから、エリザベス女王はもちろんのこと、英ロイヤルファミリーはいろいろな場面で真珠を好んで身に付けている。
そのルーツはヴィクトリア女王からともいわれる。ルネサンス期には真珠(天然)は希少性、高い価値があり、富や権力の象徴となっていたが、一方でヴィクトリア女王は亡くなった夫君アルバート王配を悼み人生の約40年間を黒の服装で、光り輝く宝石ではなく控えめな真珠を身につけて喪に服してすごしたそうだ。
エリザベス女王の胸元をたびたび飾る真珠の三連ネックレスは祖父ジョージ5世からの贈り物だし、女王がイギリス君主として初めて訪日したおり、伊勢の真珠島を訪問し、その記念として日本政府が最高級の真珠を贈り、それを四連のチョーカーにして愛用していた。女王の葬儀の時にはキャサリン妃が身に付けて話題となった。
ダイアナ元妃はクイーンマザー(エリザベス女王の母)からの贈り物のサファイアとダイヤのブローチを七連の真珠のチョーカーにリフォームしたものが特にお気に入りで、離婚後もしばしば身に付けた。同じように豪華な宝石をセンターにおいた四連や五連の真珠チョーカーをカミラ夫人やアン王女も好んで公務で着用している。
また、色石のコレクションも素晴らしい。『バーミーズルビー』は戴冠のお祝いにビルマ(現ミャンマー)から贈られたルビーで、これを用いてティアラを作成した。「ブラジリアン・アクアマリン」は戴冠の際にブラジルから贈られたダイヤモンドとアクアマリンのイヤリング&ネックレスのセット。「ケント・アメジスト」はぜいたくにアメジストを施したパリュール(さまざまのアイテムが揃ったジュエリーのセット)で、もともとはケント公爵夫人のものだった。
後に娘のヴィクトリア女王に継承され、ヴィクトリア女王は王室の家宝だと宣言した。ファッション誌によると英ロイヤルのコレクションの中で最も古いジュエリーのひとつなのだそうだ。
「ジョージ6世のサファイアジュエリー」はヴィクトリア朝のネックレス&イヤリングで構成されるデミパリュールで、父ジョージ6世から結婚祝いとして贈られたもの。エリザベス女王にとって格別に意味のあるジュエリーのひとつと言われる。アルバート王配がヴィクトリア女王のためにデザインした「クラウン・ルビー・ネックレス」はクイーン・マザー、エリザベス女王へと引き継がれた。
英王室では代々伝わるものや、家族からまたは各国の要人から贈られたものなど多くの宝飾品を所有している。君主に受け継がれていくが、近親者などに遺品として与えられることもある。エリザベス女王は自分が身につけるばかりでなく、かつてのダイアナ妃やキャサリン妃など近親者に宝飾品を貸し出したりもしていた。ジュエリーは英王室にとって何世代も受け継ぐことのできる、誰をも魅了するジュエリーコレクションであり、家族の思い出や絆の物語なのである。
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