優勝劣敗になる電気自動車のマーケティング

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日本はまだ盛り上がらないのでしょうが、欧米はパラダイムシフトが起きていることもあり、好む好まざるにかかわらず電気自動車を軸にビジネスを再構築せざるを得ない状況にあります。

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私の事業の一つに駐車場運営事業があるのですが、会社として第一弾で今年80台分をEV対応駐車場に変えます。現在設計作業が進み、電力会社とのすり合わせが進んでいます。一方、先日、バンクーバー市と2回目の業界ミーティングが行われ、市側からEV化推進のため、駐車場とガソリンスタンド業界への「アメとムチ」の原案が示されました。それは60台以上の駐車場所有者に対して24年1月までに最低4台分のEVチャージャーを設置しなければ年間90万円という懲罰的営業許可代金を請求するというものでした。通常の営業許可費は年間1万5000円です。

私は自社の駐車場はビジネス判断としてEV対応化を進めるものの、市にこの懲罰的課金案には厳しく意見しました。それは既存の「Conductive Charging」(通常のプラグでの接続方式)がデファクトスタンダードになるかこの分野はまだインキュベーション(孵化)の状態であり、時期尚早としたのです。

私は「Inductive Charging」(間接充電方式)は必ず出てくると思っているし、「Battery Swap」方式であればEVのコストは1台当たり100万円は下がる余地があり、電池交換方式なので5-10分で完了するし、サブスクリプション方式であればSDGsにも対応するだろうと強く意見しました。

つまりEVが普及する過程においてインフラも含め、全てが流動的であり、先駆者が勝者とも言えないのが実情なのです。先駆者が負けたケースとしては日本の高速道路の料金所でほとんど止まらないで通過できるETCシステムは技術としては古い仕組みで世界からは遅れています。ただ、日本はそれがインフラとして普及してしまったため、改変できないのです。つまり初めに先読みしすぎて技術がまだ開発途上の段階でそれを固定化するとあとで痛い目に合うのです。

さて電気自動車のマーケティングですが、車に詳しい方も多いと思いますが、一般人の目線でざっくりした印象を申し上げると「車の差異がつけられるのか?」という気がしているのです。クルマ選びは今や乗用車、SUV、ライトトラックといったジャンル別の選択肢、および車のサイズや質でセグメント分けすると思います。かつてはエンジン性能で各社各様、それぞれに特徴を持たせられたのですが、電気となると区別化の方法は少なくなります。

電気なので信号待ちからの加速はどれでもとてもよくなりますが、最高時速は内燃機関ほどではないとされます。(一般車両で時速300キロでる意味がそもそもないのですが。)それでも例えば、ポルシェ、タイカンのように300kWとか二基のモーター稼働といったハイパフォーマンスを目指すものもありますが、これは例外的です。ちなみに速い車ほどブレーキ性能が重要になり、それは非常に価格が高いし、車体の設計上、作れるところも限られるのです。

とすれば私は用途と乗り心地以外に差別化できないのではないか、と思っているのです。トヨタは30年までに30車種、日産など3社連合は35車種、GMも20年代半ばまでに30車種…と各社足並みをそろえたように続々と投入予定です。それはスマホ黎明期と全く同じですが、私は2040年には半分以下になっているとみています。更に2050年には上位20-30車種程度しか生き残らないとみています。

理由はその頃にはFun to Driveから、Fun to Rideになると予想しているからです。Ride、つまりそれまでの「能動的乗り物」から「受動的乗り物」への変質化です。これは私は断言してよいと思います。

電気自動車とそれを取り巻く周辺産業はこれから10年が戦国時代になります。私も否が応でもその戦争に巻き込まれます。ビジネスプランは一応、作れますが、それは賞味期限2年のとても短いものでその先は世の中のトレンドとの掛け合いになります。その点で世の中のゲームチェンジャーとなる電気自動車は欧米主導の策略なのかもしれませんが、残念ながらその勢いに逆らえる状況にはないのが実情です。

最後に、個人的な予想ですが、車が家電製品化するのか、といえば私はそれはないと思っています。今の車社会がオセロゲームのようにある日突然電気自動車に全部変わるわけではありません。また車の基本性能面で自動車会社が培ったノウハウはやはり意味があるでしょう。よってソニーが電気自動車を販売したとしてもそれが業界の台風の芽にはならないと思っています。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月14日の記事より転載させていただきました。

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