創作を続けてクオリティを上げるためには、作品のアイデアを刺激してくれたり読んだ感想をアドバイスしてくれたりする仲間がいるとはかどりますが、未完成の作品を読んでもらう恥ずかしさや孤独に打ち込んでいる環境などにより、アドバイスをもらうのが難しい場合も多いはず。「少年ジャンプ+」の編集者とコミュニティサービスなどのクリエイターであるけんすう氏がタッグを組んで製作したマンガ支援AIサービス「Comic Copilot(コミコパ)」は、セリフの調整やタイトル・キャラクター名のアイデア出し、ストーリーやあらすじの評価とアドバイスなどを提案してくれるため、マンガ制作に寄り添う相談相手になってくれます。
Comic-Copilot コミコパ 漫画制作サポートAI
https://lp.comic-copilot.ai/
AIで漫画制作を支援する「コミコパ」をリリースしました
https://kensuu.com/n/n1cc0d26c9b5b
クリエイターをサポートするAIは、Adobeがテキストベースで画像やエフェクトを生成できる「Firefly」を発表していたり、ゲームキャラクターの3Dモデル作成などにAIを利用する試みが行われていたり、アニメの中割りを作るサービスや手書き文字を生成できるサービスが発表されたりと、多岐にわたって発展しています。一方でコミコパはイラストや絵の生成・補助をするものではなく、ストーリーや設定面のアイデア出しやアドバイスをチャット形式でサポートしてくれるもの。制作者のけんすう氏は「画像生成系は、学習元のデータのクリエイターが許可を出しているわけではない場合が多く、倫理的な課題も出ています。そのような中でも、AIは人の創造性を高めて、可能性を広げることができるし、そういった使われ方が理想的ではないかと考えています。そこで、対話型AIのChatGPTをマンガ制作について使い心地を整えたコミコパを作りました」と書いています。
GIGAZINEでもマンガを制作しているため、コミコパにいろいろと相談してみます。まずはトップページにアクセスし、「コミコパに相談してみる」をクリック。
コミコパのページは以下の画像のような感じ。左のメニューから相談したい内容を選択して、AIとのやりとりを開始することができます。「なにか作品は作りたい意欲があるけれど、肝心のテーマが固まらない!」という場合には、まず「テーマを一緒に考えたい」を選択。
テーマの軸となるキーワードを入れていくことで、キーワードに関連した作品テーマを提案してくれます。キーワードは500近くの選択肢があるほか、自由に入力することも可能です。キーワードを入れたら「送信」をクリック。
すると、入力したキーワードのそれぞれをテーマにした作品イメージを提案してくれました。この時点ではあまり具体的なアイデアではありませんが、「こんな物語を作ってみたい」という創作意欲を刺激することはできそう。
提案されたテーマを元に、さらに相談することもできます。試しに、「動物との恋愛」「プロ野球」「強いドラゴン」の3つのテーマを組み合わせたあらすじを考えてもらいました。このようにしてテーマを発展させながらアイデアを検討できるほか、さらに「このような場面を追加したい」「こういった要素を生かしたい」と相談することで、曖昧なアイデアを具体的に固めていくことができます。
「マンガのタイトルを提案して」では、ジャンルやあらすじ、キーワードを入力することで、作品タイトルを複数提案してくれます。「このワードは入れて」と要望することもできるため、アイデアを固めていくことに使えそう。試しに「異世界もしくは異世界に関連するワードは入れる」と要求してみたところ、「異世界」のほかに「異界」や「竜界」「ドラゴンワールド」なども含めていたため、かなり応用が利きそうです。
特に強いこだわりがあるわけではない場合、キャラクターの名前を全員分考えるのはなかなかに大変です。コミコパの「キャラクター名を考えて」からは、キャラクターの特徴を入力することで、複数の名前を提案してくれます。最初に「女性、実はドラゴン、人間の姿は15~19歳くらい、色のイメージはブルー」と入力してみたところ、想定していたイメージに合わない日本人風の名前が出力されたため、「カタカナの名前で、英語以外をもとにした名前がよいです」と追加の要望を出しました。すると、要望通りの名前を提案してくれたことに加え、「どこに要望が反映されているか」を説明してくれました。
「必殺技名の案をだして」では、同様にキャラクターや技のイメージを入力することで、技名やどのような技なのか提案してくれます。試しに、「キャラクター名を考えて」と同じ内容となる「女性、実はドラゴン、人間の姿は15~19歳くらい、色のイメージはブルー」を入力してみたところ、その要素から必殺技を出力してくれました。
「固有名詞を考えて」では、どのような特徴を持った何の名称を作るかを相談すると、名称に加えてその固有名詞の特徴や設定についてコミコパは提案します。「異世界の野球チーム」の名前を考えさせたところ、「ドラゴンファイターズ」「エルフィン・アーチャーズ」「ゴブリン・スラッガーズ」と、「異世界のキャラクターの種類+特徴」という、かなりそれっぽいチーム名が出力されています。
「異世界の野球チーム」で最初に提案されたよりも少しひねった名称を検討したかったため、追加で「同じ命名ルールで、少しひねったものも提案してほしいです」と要望を出してみました。すると、要望に合わせて異なる名称を出力することができました。繰り返し追加の要望をすることで、アイデアを突き詰めていくことができます。
また、いざマンガを描いてみたものの、「入れたいセリフがフキダシにうまく収まらない」「セリフに少し違和感がある」「この言い回しはあっているか?」など、キャラクターのセリフなどで迷ってしまうことがあります。コミコパでは「セリフを調整したい」というメニューで、セリフを短くしたり言い換えたりすることができます。試しにマンガ「姫とゲーマー」第1話の、「配信者として伸び悩む主人公・ありかが同じ部活に超ハイレベルなプレイヤーを発見し、自分のためにゴーストプレイを要求するシーン」のセリフ「知ってるなら好都合、私、11位とかそういう中途半端なのがイヤなの」をさまざまに言い換えてみます。
まずは「セリフを調整したい」のメニューを選択し、「セリフを短くしたい」という要望をクリック。
短くしてもらいたいセリフを入力してみると、超短くした「11位がイヤな私」、短くした「私は中途半端11位イヤ」、ちょっと短くした「私、11位中途半端がイヤ」というようにパターンが出力されました。元がキャラクターの口語で崩れた文章のため、文章を整えながら再度試してみたり、その他のより長い文章でも試してみたりしましたが、文章の要旨を理解して短くしてくれるわけではないため、思い通りに出力してもらうことは難しそう。
次に「別の文章に言い換えたい」を選択してみたところ、同じ内容でキャラクターの性格や口調が変わった10パターンを提案してくれました。また、元のセリフは高校生の「ありか」が話していますが、「小学生の女の子のセリフのように言い換えてほしい」と要求したところ、「好都合」が「ラッキー」「うれしい」となっていたり、「中途半端なの」が「あんまりなの」「ふつうの位置」となっていたりと、小さい女の子らしいセリフに変換されています。
提案してもらったセリフから4パターンを選んで、ありかのセリフを差し替えてみました。言い換えによってかなりキャラクターの印象が変わってくるため、キャラクターの性格や特徴に合わせてテキストを調整するにはかなりコミコパが役立ちそうと感じました。
「セリフを調整したい」の後に「もし○○が言ったら」を選択することで、他のキャラクターのセリフとして言い換えることもできます。
「ランダムな年齢、職業、性別」を選択して言い換えさせたところ、「知ってるなら好都合、私、11位とかそういう中途半端なのがイヤなの」というセリフは、10歳の男の子が言うと「ぼく、中途半端なのイヤだからね、もっとたくさんの人に応援してもらいたいな!」となり、35歳の主婦だと「私ね、中途半端じゃダメなんです。もっとみんなに支持されたいんですよ」となり、60歳の男性会社員だと「俺、この年になってもまだ中途半端じゃ嫌なんだ。もっと評価されたいんだよ」となりました。
また、「セリフを調整したい」には「セリフを校正してほしい」という機能もあります。入力されたセリフについて、誤字脱字や表記揺れ、慣用句やことわざの誤用、文脈に合わない単語、主語述語の組み合わせが間違っている点、句読点の打ち方をチェックした上で修正後の文章を提案してくれるため、セリフに違和感がある場合や言葉づかいに自信がない場合はかなり役立ちそうです。
コミコパは作品を作る際のアイデア出しに強力してくれるだけではなく、仕上がった作品へもアドバイスしてくれます。「評価や感想を聞きたい」を選択し、設定やあらすじを入力することで、客観的な感想や気づいた点を指摘してくれるとのこと。試しに、2023年4月26日に連載開始したマンガ「ガス屋で~す!!」のあらすじを入力してみました。「ガス屋で~す!!」は新卒でガス会社に入社したキユが、仕事でさまざまな課題や悩み、失敗と成功に出会いながら成長し、何かを見つけていくストーリーとなっています。
メニューから「評価や感想を聞きたい」を選択し、第1話のあらすじを入力してみたところ、「マンガの切り口の斬新さ」「主人公は読者にとって魅力的か」「世界観設定は論理的か」という項目ごとに星で評価した上で、総合評価とアドバイスを送ってくれます。「どこが魅力的なので、どこをさらに描くべき」というアドバイスによって作品をさらに面白くできたり、「ここをより突き詰めて描写すべき」という内容で足りなかった部分を補えたりと、かなりしっかりしたアドバイスになっています。また、あらすじに対する分析のため、意外と難しい「作品のあらすじはどう書けば良いか」という勉強にもなると感じました。
「評価や感想を聞きたい」はプロの編集者のようにアドバイスしてくれますが、「仮想読者のフィードバック」からは、さまざまな性格の読者に読んでもらって感想を受け取ることができます。同じ「ガス屋で~す!!」のあらすじを入力してみたところ、「ギャル」「高校生の女の子」「マリー・アントワネット」が読んだ感想を教えてくれました。作品のターゲットが決まっている場合、「中高生の男子」「大学生から社会人の男女」のように設定することで、仮想読者を選ぶこともできるため、「どのターゲットなら作品のどこに注目するか」といったポイントを知ることができるはず。
さらに、「とにかく励ましてほしい」「とにかく話をしたい」というメニューでは、具体的なアドバイスや提案をもらう形ではなく、コミコパを制作中の話し相手として使用することができます。「とにかく励ましてほしい」では、悩みを相談してみるとまず「わぁ、すごい!」「いいね!」といったように明るい言葉をかけながら、「こんなところを考えてみては?」と励ましてくれます。また、「どうせ私のマンガなんて……」と弱音を吐いてみたところ、「めちゃくちゃ面白そうじゃないですか!どんどん知りたくなってきました!」と熱心な聞き手になってくれるため、会話することでやる気が湧いてくるはず。
また、特に相談したいことがない時にも「とにかく話をしたい」ではマンガについておおまかに質問してくれるため、作品制作のパートナーにしたり、一休みしたい時に話しかけて固まった頭をほぐしたりできます。また、制作中のマンガや興味のあるジャンルについて質問してくるため、それに答えていくことで、気づいていなかった作品のポイントや必要な要素について発見することもできそうです。
コミコパは無料で使用することができます。けんすう氏は「やっぱり『漫画を作る』というのは、相当大変なことです。話を聞いているだけで、素人からしてみると、『そんなことまで気を使っているの!?』とか『ここまでやっているのか!』ということが多くあります。その作業の手助けをしたり、よりおもしろいアイデアや作品が作れるサポートができること自体が、AIによる価値なのではないかと思っています。まだまだ出したばっかりで、改善の余地がたくさんあると思いますが、ぜひともチェックしてみてくださいー!」とコメントしています。
Comic-Copilot コミコパ 漫画制作サポートAI
https://lp.comic-copilot.ai/
なお、コミコパに入力して送信したデータは、OpenAIのポリシーに「ChatGPT API(GPT-4)を使って送られたデータは、悪い使い方や誤った使い方を監視するために最大30日間保管され、その後消去されます」と規定されていますが、コミコパを提供するアルと集英社がユーザーの送信したデータを収集・保管することはなく、送信したデータがAIの学習に使われることもないとのこと。また、コミコパが提案したアドバイスやアイデアは、既存のマンガ作品の内容が含まれる可能性があるため、内容を自身で確かめた上で使用する必要があるそうです。詳しくは、「コミコパについて」の「よくある質問」からチェックすることができます。
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