ポーター・ロビンソン 、5年ぶりの来日公演と、バーチャルワールドについて今思うこと

GIZMODO

日本をこよなく愛する音楽プロデューサー、ポーター・ロビンソンが、3月中旬、東名阪を巡る来日公演を行ないました。

コロナ禍においては、オンラインフェス「Second Sky Music Festival」を2度にわたり開催。2021年の同フェスではVR用のバーチャルプラットフォームも導入するなど、イノベーティブな手法を使ってオンラインでファンとの交流を続けてきたポーター・ロビンソン。そんな彼にとって、今回の来日公演は約5年ぶりに行なわれたもの。

今回、来日公演後のポーターに会うことができたので、来日公演の話から、ひさしぶりに訪れて感じた日本のこと、コロナ禍で普及したバーチャル空間を活用したエンタメ体験に対する今の考えなどを聞きました。

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Photos:@yaka_music
来日公演より

──来日公演では、とても楽しそうでしたね。あなた自身も日本や日本のファンのことを愛していて、日本のファンもあなたが日本を大好きなんだと理解している、そんな愛の応酬が見えるようで感動しました。

ポーター・ロビンソン:子供の頃から日本のメディアを見て育ってきたことが、自分の人生の土台を形成してきたと思っています。やっぱり子供の頃の記憶は、人生に多大な影響を与えると思うんです。

僕は日本のことを心から愛しているので、自分を変えて日本のファンに気に入られようとする必要はなくて、真摯にありのままの僕の愛を、日本のファンに伝えたいとおもっています。日本は、僕にとって本当に大切な場所だから。

──来日は5年ぶりになるそうですが、今回は何か日本で新しい発見はありましたか? 特にこの5年間は、コロナ禍も相まっていろいろな変化があったと思います。

ポーター・ロビンソン:ありきたりな回答かもしれませんが、日本では古いものがちゃんと保全されていると思うんですよね。「古き良き日本と最先端の日本、両方を楽しんでください」という観光客向けのスローガンがあるけど、僕はどちらかというと、日本に対してはノスタルジックを感じるし、そういった目線で日本の物事を見ることが多いかな。

今回のツアー中もしっかりと日本のことを見てきたけど、5年間でいろいろアップグレードされた印象を持ちました。例えばUberが使えるようになっていたり、IC決済がすごく普及していたり、海外から来る観光客からしてもすごく助かるサービスが増えたように思います。あと街並みにしても、渋谷の再開発が進み、スクランブルスクエアやMIYASHITA PARKができたことで街の雰囲気もすごく変わったなと思いました。

ただ、それでも日本の精神はまだあるというか、まだありのままの日本の姿もちゃんと存在してると感じてます。

Photos:@yaka_music
来日公演より

──今回のアジアツアーも含めて既に世界中を周りはじめていますが、あなたはコロナ禍でも、オンラインやVRの世界に対して、親和性を持ってスムースに取り入れていたように感じます。いま、実際にリアルで世界を飛び回るのとそれらの体験は別物だと思いますか?

ポーター・ロビンソン:うーん、やっぱりリアルはいいな…とは思いますよね(笑)。何故なら、地球上には無限の発見があるから。例えば、このテーブルにしても”ただのテーブル”というだけで片付けるんじゃなくて、よく観察してみると「ここにこんなふうに年輪が刻まれてるな」とか「ここはちょっとサイズが違うし、ここだけ微妙にいびつだな」とか、そういったディティールの違いを発見することがありますよね。

そうすると何時間でも観察できるし、観察すればするほど発見があると思うんです。でもオンラインでは、どうしても細かいディティールがちょっと欠けているように感じてしまうところがあって、そういうところがない。そうなるとやっぱり、リアルの世界の方がいいなと感じますね。

とはいえ、今までもMMORPG(オンラインRPG)やVRChatなどにかなりの時間を費やしてきたし、そこで築き上げた友人がいたりして、デジタルの世界でも自分を作り上げてきたので、その世界でも僕は生きていると思います。例えば、ゲームの世界で刀を手に入れて売るには鍛冶職人から刀を買い取らないといけないし、その鍛冶職人も鉄を手に入れるために勇者を送り込まないといけないし、その勇者もまた鍛冶職人に会わなければいけない。ゲームの世界でも、そんなふうに人の関係性は生まれるので、その世界にはその世界の楽しみがあります。

まぁだから結局僕は、リアルもデジタルの世界も両方好きってことですね(笑)。

ポーターが思う、バーチャルワールドの“いま”

Photo: Victor Nomoto(METACRAFT)

──“コロナ禍で制限された世界”という文脈がなくなっても、VRやメタバースなどオンラインの世界はテクノロジーとして注目を集めています。アーティストとしては今後、これらのテクノロジーとどのように対峙していきたいですか?

ポーター・ロビンソン:新しいカルチャーやメディア、例えばMMORPGで遊んでいるときは、その世界を作りあげる最初の5〜10%の段階がいろいろと開発できる楽しい時間で、そのときが真骨頂だと思うんですよ。バーチャルワールドも、最初の3〜4年はいろいろと興味津々で発見があったので、一番楽しい時期だったと思っています。

音楽に例えるなら、今のローファイヒップホップよりも、僕的にはオリジネーターのNujabesの方が良いと感じます。やっぱり量産されて数が増えていくにつれて、創造性はどんどん統一化されていってしまう

VRChatもそうで、以前はユーザーの創造性にまつわるようなことが一番の関心ごとだった。何もルールがない中で、そこに興味を持った人同士が集って、自分たちのスキルをいろいろと出していくことが楽しかったんですけど、商業化され収益が絡んでくると、たとえばキャラクターのデザインがもの足りない感じになってしまった、とかね。

そういった「真骨頂だったもの」に、商業的な目線が絡みだした瞬間、何かが失われていくことはあると思いますね。VRやメタバースも、数年前はすごく興味があってのめり込んでいましたが、最近はそんなわけで、ちょっと情熱が冷めてきてしまいました。

──そこはどうしてもバランスが難しいところですね。

ポーター・ロビンソン:すいません。ちょっと厳しめに言ってしまったんですけど、これに関してはやっぱり自分も大切にしているものなので、真摯に答えたかったんです。もちろん、商業化されていくことによって生み出される可能性も注目に値すると思いますが、やっぱりさっき言ったように、最初みんなの創造性によって築き上げていったからこそ、そこには魂が宿っていたと思うんですよ。

そういった「人間の創造性」がきちんと保たれたものを守っていきたいですね。もちろん次々に出てくる新しいものにも興味関心はありますが、デジタルの世界の将来を考えたときに、大切な部分は失ってほしくないと強く思っています。

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Interview: Sachiko Toda