北朝鮮は拉致した人に背乗りした工作員を使った
「背乗り」という言葉を聞かれたことがあると思う。「せのり」でなく「はいのり」と発音する。「這い乗り」と表記されることもある。
工作員や犯罪者が正体を隠蔽するために、実在する他人の身分証明書や戸籍を乗っ取って、偽装する行為のことだ。英語では、「legalization(合法化)」と呼ぶようだ。知らないうちに名前を使われているケースもあるが、酷い場合には殺されたりする。
日本で注目されたのは、拉致問題に関連した「辛光洙事件」である。北朝鮮工作員の辛光洙が1980年に宮崎県で拉致した原敕晁名義の旅券で海外と行き来し、韓国でも工作活動をした。拉致された原さんは北朝鮮で田口八重子さんと結婚したが、病死したと北朝鮮側はいっている。
辛光洙は韓国から北朝鮮に引き渡され英雄として扱われたが、韓国で収監中に土井たか子氏や菅直人氏が人権の観点から釈放を要請したことが話題になった(拉致に関与していることを知らずにではあるが)人権問題として釈放することの要求に署名していることでも話題になった。
1987年の大韓航空機爆破事件では、実行犯で自殺した金勝一は「蜂谷眞一」名義の日本国旅券を所有していたが、本物の蜂谷眞一さんは日本国内で健在だった人物で、北朝鮮工作員の宮本明こと李京雨にパスポートを貸して身分が盗用された。
これに先立ち、ほかにも、いくつかの事件があった。久米裕さんの場合は、拉致に先立って戸籍謄本がだまし取られ、能登で拉致され行方不明である。
こうした手法は、ソ連の諜報機関が得意としたもので、北朝鮮にはその影響で導入されたといわれる。
中国人に簡単に背乗りできるのはマイナンバーの厳格運用で防げる
一方、中国人による背乗りとしては、2016年に21年間、不法滞在を行っていた中国人が京都府警察にで逮捕されたが、この中国人男性は、1991年に就学査証で日本に合法的に入国し1996年に滞在期間が終わったにもかかわらず、日本人になりすまして生活していた。
日本の年金手帳が定期的な更新の必要がないことが悪用され、実在する日本人の年金手帳を身分証明書として背乗りすることで、生活していたのである。
つまるところ、マイナンバー制度の運用がいい加減な日本では背乗りはやり放題だ。保険証とか年金手帳など不完全な書類で身分証明などさせず、マイナーバーカードの取得、携帯を義務づけて、それがないと各種の手続きも、生活もできないという世界の常識に合わせたら、便利になるし、日常的な犯罪や詐欺的行為もかなり減るだろう。
背乗りされてマイナンバーカードを取得されても、背乗りされた本人が生活できないから気づくのである。また、健康保険証など写真のない身分証明書は使えなくなるし、人生のどこかで本人確認をしておけば、似ていない人のなりすましは出来なくなる。あとは、定期的に写真が本人のものか確認をどの程度するかだ。
いずれにせよ、不法滞在の外国人には、いかなる意味でもそれを続けさせるべきでないし、その手段としての背乗りはしばしば、本人の殺害などにつながりかねず、徹底的な取締をすべきだ。とくに、合法的な滞在者や日本人も含めて、一斉にいちど徹底した本人確認を行い、それをスタート地点にすべきだろう。
また、背乗りに限らず、外国人がなりすましや二つの名前を使い分けて生活することを許すことは、脱税などの温床だ。
消費税が嫌われるのも、もともと、脱税、ことに外国人によるそれをやりにくくするので、外国籍の人に利用されやすい左翼勢力が執拗に嫌ってきたのも理由だ。
DVなどを避けて隠れて生活していることに合理性がある人をどうするかは、特別措置をきちんとした手続きをしてすればいいのであるし、マイナンバー制度でどこの誰か隠して生活することができなくなれば、DV告発に対する報復などがやりにくくなるメリットもある。それとGPS装着を近接禁止措置との組み合わせなどで導入することでも防げる。
私は国際化という意味でも、労働力不足を補うためにも、移民を止めることはできないのであって、現実的に受け入れが日本にとって有利な人材を重点にコントロールをしっかりした上で入れるべきだという立場を1980年代から一貫して取っている。
そういう意味でも、背乗りの廃絶はたいへん大事な課題なのだ。
足立康史の国会での質問を深田萠絵氏が名誉毀損で提訴する珍事
ところで、背乗りの特殊なケースとして、戦時の残留日本人(残留孤児も含む)とか、日本人の子供と称する中国人の扱いがある。さらに、移民に非常識な数の家族がいて、日本の社会保障や税金控除の対象になる問題もある。
中国の戸籍が戦争とか、革命、さらに文化大革命の混乱、対外的秘密主義などで、当てにならないことが疑わしいケースを生じさせている。
そんななかで、ITビジネスアナリストの深田萌絵さんとその会社の二重国籍元従業員との訴訟に絡んで、衆議院議員の足立康史さんがなぜか国会で深田氏を批判し、深田氏が足立氏を名誉毀損などで提訴する騒ぎになっている。
この方は、中国サイドの情報のみに基づいて国のために戦った日本人とその家族の名誉を傷つけてる自覚を持つべき。日本政府より中国政府を信用するなら、それはそれで分かりやすいですが(笑)
私は、一人の日本人として、国のために戦った中国残留邦人と家族の名誉を守るため、日本政府に質問します。 https://t.co/GoDhHtZEw0— 足立康史 衆議院議員 (@adachiyasushi) June 4, 2021
両方とも私の友人だが、どういう話なのか、簡単に紹介しておこう。
深田さんは、就職後入り直した早稲田大学を卒業後、IT企業経営をしつつITビジネスアナリストとして活躍しているが、いち早くHUAWEIの危険性を指摘し、遠藤誉氏などと激しい論戦を繰り広げたが、深田氏の当初からの指摘が正しかったことが明らかになってHUAWEI追究の先駆者として評価されている。また、蓮舫の二重国籍問題でも私とは別の視点で論陣を張っていた。
最近は、日本独自の半導体産業の支援を呼びかけ、台湾の政財界人が中国と二股をかけていると指摘し、TSMCも創業者が浙江省生まれで、いまも中国政府と深い関係にあることを指摘し、日本政府の巨額支援に疑問を呈している。
TSMCへの支援の是非は別として、日本の保守派の台湾びいきは、少し脳天気なのは事実で、深田氏のいうように台湾では、現政権に近い人も含めて中国とのつながりが深いという視点は少なくとも念頭に置くべきことだと経済産業省で担当課長だった経験からもいえる。
深田氏とA氏は学生時からの知り合いで、2011年に深田氏が台湾系米国人J氏とR社を設立したときに、Y社を経営していたA氏と協力することになり、A氏はR社の副社長ともなった。
このときに、A氏は1000万円の保証金を預けたR社の企業秘密であるソースコードを提供した。ところが、J氏によれば、A氏は中国企業ともっと有利なビジネスができるのでそちららに乗るのを持ちかけ、J氏が拒否したことから、絶縁したのだが、その過程でA氏がBという名を持つ中国人でもあることが判明した。
A社の事業では、米国との関係で、中国国籍を持っている関係者の参加は制限されるので、それを隠して契約を結んだことは不適切であるとし、保証金の返還を拒み、また、A氏の日本国籍取得過程は不明朗で工作員の疑いもあると深田氏が批判した。
一方、A氏は保証金返還を民事的に要求し、また、深田氏を名誉毀損で警察に告発した。一方、J氏はA氏が中国国籍を隠して契約を結んだことについて不法行為による損害賠償の民事訴訟をした。
現在のところ、A氏によってなされた深田氏に対する告発は不起訴。保証金返還要求は第一審で認められ、A氏に対する不法行為については第一審が続いている。
ところが、問題は、この過程で、足立代議士が、衆議院内閣委員会における銃刀法改正案の質疑という本件と無関係な法案の審議の場で、深田氏によるA氏に対する批判は不当であるという質疑とは無関係な国会質問をし、さらに、文化人放送局「報道特注」に出演し、「深田萌絵ちゃんを一回ここに呼んでシバキ倒そうか」などと攻撃したことから、深田氏が名誉毀損と侮辱行為で足立氏を訴えたという話である。
このA氏が日本と中国の二重国籍なのは、日本の国籍法にも合致しないが、中国が厳格な二重国籍禁止を敷いているのにどうして可能になのかなど、A氏の主張によれば経緯は以下のようなことらしい。
1952年に、A氏の祖父であるCXは、中国人女性Dと同国の方式で結婚し、1953年にBX(Aの父Bの中国名)が湖南省で生まれる。1984年AX(Aの中国名)が父BX、母Eの子として湖南省衛阻市で生まれた。
1993年1月28日に中国人女性が亡き日本人C(CXは日本人Cが帰化したものだと称する)の妻として中国の方式で婚姻した旨の証書を在中国日本大使に提出し、防府市役所で受理され、既に故人であるCの戸籍が編成された。1993年1月28日にBが故人であるCと中国人女性Dの子としてDにより在中国日本大使に届出、亡の前記戸籍に入籍。
1994年Bは東京都中野区長にBと中国人妻Eの子としてAを届出、同人の戸籍に記載。
深田氏やJ氏によれば、中国のネットなどでもAXは漢族の中国人で名門の出身と名乗っているとか、BXも漢族と称しているし、中国人CXが日本人Cであるという証拠は何もないという。また、なぜ、Cが生前に帰国などしながら自身の日本国籍回復やBの日本国籍取得のために動かなかったかも不自然という。
訴訟案件についての判断は差し控えるが、戦後、多くの日本人が中国にさまざまな事情で残留したのは事実で、彼らの救済を図るべきなのは間違いないし、それが可能になることも必要だ。ただ、そのときに、証拠が十分でないのに認めれば、日本人へのなりすましや犯罪の温床ともなる。
ここは、深田氏も足立氏も二重国籍問題の危険性などについて熱心に取り組んできたはずなのだから、問題を整理し、そのうえで、事実究明や制度議論につなげてほしいものだ。
また、足立氏は原英史氏に対して森裕子氏が国会質疑における免責特権を利用して安全地帯から国民を攻撃した事件で、森氏を批判していた立場であるにもかかわらず、免責特権がある国会の質疑の場で民間人である深田氏を攻撃したのかよく理解出来ないと誰しもが思うし、分かり安い説明を足立ファンも望むところだ。
そもそも、在留孤児に限らず在留邦人やその家族と称する人たちの認定については、甘い運用がされている印象がある。その場での雰囲気で親子や親戚だと日本人が確証がないのに認めてないかといった問題が取り上げられるきっかけになれば好ましいことだ。
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