Twitter の役割は低下し、パブリッシャーは予算を引き上げている

DIGIDAY

半年前にイーロン・マスク氏がTwitter社を率いるようになって以来、広告主だけでなくパブリッシャーも、そのあとを追うようにTwitterから資金を引きあげようとしている。いくつかのメディア企業がすでに同様の動きをみせており、自社のストーリーやスポンサーコンテンツにオーディエンスを惹きつける方法としては、今後はTwitterへの出稿を推進する投資は行わないという。

「パブリッシャーはTwitterを好ましくない不安定なものとみており、そのようなものを活用することに大きな予算とエネルギーを費やそうなどとは誰も思わない」。オーディエンス開発とマーケティング事業を手掛けるトゥウェンティファースト・デジタル(Twenty-First Digital)の創業者でCEOのメリッサ・チャウニング氏は、eメールのなかでそう語っている。チャウニング氏のクライアントのなかで、過去にTwitterに広告費をかけていた「ひと握りの」クライアントも、すでにTwitterからは手を引いたという。

金色バッジに興味のあるパブリッシャーはいない

ソーシャルメディアであるTwitterは、これまでさまざまなブランド大企業にその魅力をアピールしてきたが、2022年10月にマスク氏がTwitter社の指揮権を手に入れてからは、コカ・コーラ(Coca-Cola)やベストバイ(Best Buy)といった多くの企業が、さまざまな論争や不確実性、および多大な変化を理由にこのプラットフォームでの広告出稿を一時停止している。

2023年4月、Twitter社は、著名な人物や組織(特にニュース・パブリッシャー)に対して、そのアカウントが本当に彼らのものであることを示すために付与されてきた、青いチェックマークによる従来の認証バッジ制度を縮小し始めた。現在、個人の場合は月額8ドル(約1040円)または11ドル(約1430円)を支払って青い認証バッジを取得するか、組織の場合は4月に新たに導入された金色の認証バッジを取得するために1000ドル(約13万円)を支払わねばならない。

社名は明かされていないが、チャウニング氏と協力関係にある米国のパブリッシャー3社のうち、Twitterの金色のバッジにお金を払うことに「少しでも興味がある」と答えた企業は1社もなかったと、同氏は話している。

2023年4月にメディアレーダー(Media Radar)が行った分析では、2022年1月1日から2023年2月28日の間にアクシオス(Axios)、CNNを含む主要メディア企業17社がTwitterに支出した費用は前年比で83%減少していることがわかった。アトランティック(The Atlantic)、ガーディアン(The Guardian)およびザ・ジスト(The Gist)はDIGIDAYに対し、現在Twitterの有料投稿にはお金をかけていないと明かしている。

メディアレーダーのレポートによると、分析対象となったニュース・パブリッシャーが2023年1月から2月にかけて支出した金額は合計でわずか27万9000ドル(約3627万円)で、2022年同期の170万ドル(約2億2100万円)から激減した。アクシオスとCNNはこの点についてコメントを拒否している。

財布のひもは固い

NPRやPBSなどのパブリッシャーは、ユーザーとしても広告主としても、完全にTwitterから撤退した。アトランティックの広報担当者は、現在Twitterでの有料マーケティングは行っていないと述べたが、この件についてのコメントは控えるとした。

ガーディアンの広報担当者によれば、同社は「この数カ月間」、Twitterへの有料投稿を行っていないという。いつ、そしてなぜ有料投稿を止めたのかについては言及を避けたが、同社としては「成り行きを見守っている」ところだと述べた。

ニュースレターパブリッシャーのザ・ジストの共同創設者であるエレン・ヒスロップ氏によれば、同社は2021年ごろにTwitterへの広告支出を止めた。広告主であるクライアントも、その時期以来、Twitter上でのスポンサーコンテンツ推進には「まったく興味がない」と述べているそうだ。またデジタル・パブリッシング業界のある企業幹部2人は、2023年1月のDIGIDAYの取材に対し、クライアントはTwitterでの広告活動に興味をもっていないと語っている。

「Twitterという場所やコミュニティが、ポジティブよりもややネガティブな存在になり始めているように感じた」とヒスロップ氏。「残念ながらTwitter上のフェイクニュースを目にする機会が増えたために、われわれのオーディエンスのなかに、ややまとまった形でのTwitter離れの傾向がみえ始めた」のだという。インスタグラムやTikTokなどの他のソーシャルプラットフォームで共有されるニュースコンテンツが増えたことで、このTwitter離れの動きがいちだんと加速したと、ヒスロップ氏は考えている。

それでもなおTwitterに前向きな人も

だが今もTwitterにお金をつぎ込んでいるパブリッシャーもある。3年以上にわたってTwitterでの広告を出していなかったニュースレターパブリッシャーの1440だが、2022年12月、ふたたびお金をかけ始めた。

「私たちは今、月におおむね6桁の金額をTwitterに費やしている。これはここ数カ月間の(サブスクリプションの)増加分のおよそ10%に相当する」と、同社の共同創業者兼CEOであるヒュールスカンプ氏は話している。1440が抱える購読者は現在240万人だが、同社がTwitterに費やしている1カ月あたりの正確な金額については公表されなかった。

「過去にTwitterを試したことはあるが、うちのような企業が利用するには適していなかった。……ダイレクトレスポンス広告をやっている者にとってはいいチャネルとはいえなかった、ということだ」と同氏は話している。「私たちのサイトを訪れたクリック数のおよそ9割は、まずコンバージョンには至らない」のだという。

だがヒュールスカンプ氏によれば、Twitter上の有料投稿が「バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)からTシャツの広告へ」と変化していることに気づいたことから、1440はTwitter上での自社の独自投稿を推進することにしたのだそうだ。ウォールストリート・ジャーナルは2023年3月、Twitter上の有料投稿にお金をかけるダイレクトレスポンス広告の広告主が増えていることをレポートしている。

DIGIDAYの取材に匿名で応じたあるパブリッシャー幹部は、Twitterの有料投稿は「FacebookやGoogleと同じくらい」ニュースレター購読者のコンバージョンに成功していると語る。1440では獲得1件あたり2~6ドル(約260~780円)を費やしているという。

また、ハフポスト(HuffPost)ではTwitter広告への支出は「非常に少なく、クライアントの要望に基づいて、もしくはブランドコンテンツのキャンペーンで必要な場合に行われる」と、同社の広報担当者は話している。同社がTwitter上の広告に支出している金額や、自社コンテンツの宣伝にいくらかけているのかについては、直接的な回答は避けた。

流入者を増やすという面では役割は低下

パブリッシャーからTwitterへの広告支出が減少しているもうひとつの理由は、パブリッシャーサイトへの流入経路としてのTwitterの役割が低下していることだろう。

パブリッシャーアナリティクス企業チャートビート(Chartbeat)のデータによると、2022年のTwitterからニュースメディアサイトへの流入数は前年比で20%低下した。チャートビートでは、2023年に入ってから300を超える米国のニュースメディアサイトを対象にTwitterからの流入について分析したが、1月以降もほとんど変動はみられなかった。

シミラーウェブ(Similarweb)によるデータをみても、Twitterから主だったニュースウェブサイト数社への2023年3月の流入数が前年比で減少していることがわかる。BBC、CNN、ガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、ワシントンポスト、USAトゥデイなどのパブリッシャーでは、Twitterからの流入数が36~49%減少していた。

「マーケティング活動においては、常に最高のリターンを追求している。あるときはFacebookで、あるときはGoogleで。またあるときは……(何か新しいプラットフォームで)」と前述のパブリッシャー幹部はいう。「私たちはいつも完璧な波をつかまえようと努力しているのだ」。

[原文:Publishers pull marketing budgets away from Twitter under Musk’s ownership, changes to verification

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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