メディア企業で、 オフィス復帰 が厳しく実施されない理由:「人材を失いたくないため、極めて協調的だ」

DIGIDAY

この秋、米国企業でオフィスへの復帰を要請する声が強まっている。だが、メディア企業では、こうした要求を無視しても影響は出ていないと、多くの従業員が述べている。

メディア企業のオフィス復帰計画は、奨励にとどまるものから直接的な命令までさまざまだ。しかし、米DIGIDAYがドットダッシュ・メレディス(Dotdash Meredith)、ハースト(Hearst)、NBCニュース(NBC News)、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)の従業員や組合員に取材したところ、在宅勤務を続けたことで懲戒処分の憂き目に遭ったという話は誰も耳にしていなかった(なお、上記のメディア企業はすべて労働組合が存在する)。

メディア企業のオフィス復帰計画の現状

  • ダッシュ・メレディス:従業員は週3日の出社を奨励されている。だが、「個人やチームで異なる取り決めを行ってもよい」と、CEOのニール・ボーゲル氏は3月に送ったメールで述べている。
  • ハースト:従業員は週に2日の出社を義務付けられている。
  • NBCニュース:従業員は9月12日から週に数日出社することが期待されている。
  • ニューヨーク・タイムズ:従業員は9月12日から週に3日の出社を求められている。
  • ウォール・ストリート・ジャーナル: 11月1日から、従業員に期待される出社日数が、現在の週2日から週3日に変更される予定。

「強硬な措置」に出ている企業はなし

「いまのところは、何も起きてない」と、ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)とウォール・ストリート・ジャーナルの労働組合IAPEで事務局長を務めるティム・マーテル氏は、電子メールの取材で述べている。

ただし、ダウ・ジョーンズの経営陣が強硬な措置に出ないのは、親会社が抱える他の事業部門の多くがオフィス復帰を始めているさなかであるか、来月から開始予定であることが理由かもしれないと、マーテル氏は付け加えた。

しかも、各社は従業員からの要望にある程度柔軟に対応しているようだ。ウォール・ストリート・ジャーナルの従業員でIAPEに所属する組合員のなかには、オフィス勤務の要件を一時的に適用しないよう要請して認められた人たちもいると、マーテル氏は話す。また、パンデミックのあいだに転居したことを理由に、オフィスへの復帰を遅らせる交渉をしようと考えている人たちもいるという。ダウ・ジョーンズの広報担当者は、本稿公開までにコメントのリクエストに応じなかった。

労働組合の反発が大きな要因に

ドットダッシュ・メレディスの従業員で組合に所属するある人物(匿名希望)は、オフィス復帰要請に対する組合の反発が、在宅勤務の継続を選んだ従業員への処分に対する「抑止力」となっている可能性を指摘した。この組合は現在、会社側が組合と合意していないオフィス復帰計画を進めているとして、全米労働関係委員会(NLRB)に不当労働行為を申し立てている。ただし、定期的な出社を拒んでいる従業員の存在に経営陣が気づいていないだけかもしれないと、この人物は話す。ドットダッシュ・メレディスの広報担当者は、本稿公開までにコメントのリクエストに応じなかった。

ニューヨーク・タイムズでは、労働組合が今月初めに不満を表明した。週3日の出社を求める会社側の要請に反発し、1000人を超える組合員が9月12日からの出社を拒否する誓約書にサインしたのだ。だが、この週以降も在宅勤務を続けている組合員が処分されたという話は一切聞いていないと、ある組合員は述べている。ニューヨーク・タイムズの広報担当者は、本稿公開までにコメントのリクエストに応じなかった。

NBCニュースでは、「いかなる形であれ、労組のNBCニュースギルド(NBC Newsguild)に所属する従業員のなかで、地理的な場所を理由に解雇を言い渡された者はいない」と、広報担当者が述べている。そのうえで、「安全で柔軟なオフィス復帰計画について組合側と活発に議論している」と付け加えた。

オフィス復帰の方針が徹底されていないのは、労働組合側の反発も一因だが、多くの企業がオフィス復帰計画への対応を依然として管理職に任せていることも影響しているようだ。このようなチームごとの対応では、チームのリーダーが部下に最適なハイブリッド勤務のスケジュールを柔軟に設定できるが、リーダーによってオフィス復帰の徹底度に差が出ることになる。

在宅勤務継続が与える影響は

企業がオフィス復帰計画についてあいまいな物言いをするのは、労働組合や従業員から、あるいはソーシャルメディア上で「悪評が立つことを恐れている」ためかもしれない。そう指摘するのは、コンサルティング企業のPwCで人材および組織担当グローバル責任者を務めるブーチャン・セティ氏だ。「彼らは厳しすぎると思われたくないのだ。この問題に関して、企業は今も極めて慎重に対応している」と、同氏は語った。

また、企業の復帰要請に関する表現は、「希望する」から「奨励する」や「お願いする」へと変わり、「強く求める」になったのは最近のことだと、セティ氏は話す。

「企業は人材を失いたくないため、極めて協調的だ」とセティ氏は述べ、人材獲得競争が厳しい雇用市場の現状を指摘した。実際、会社のオフィス復帰要請に従わない従業員のあいだで「大きな影響はいまのところ見られない」という。

ただし、企業の要請を無視する態度が、従業員の業績評価や給与にどのような影響をもたらすことになるのかはまだわからない。たとえば、定期的な出社を拒む従業員は「出世が遅くなる」かもしれないと、セティ氏はいう。そのため、従業員は在宅勤務が社内での昇進にどのような影響を与えるのかについて、上司から明確な説明を受ける必要があると、セティ氏は主張した。

[原文:Media employees face no consequences for ignoring return-to-office requests — yet

Sara Guaglione(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)

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