TikTok に渦巻くあらゆる不安、マーケターにとっての例外は「ピクセル」か?

DIGIDAY

噂される中国政府とのつながりをめぐる地政学的緊張から、 TikTok上のコンテンツに投資すべきかどうかまで、ここ最近のTikTokはさまざまな心配の種をマーケターに与えている。

ひとつ例外があるとすれば、それは「TikTokピクセル」だ。ピクセルとは、マーケターが自社サイトに設置するコードで、これを利用することでTikTokから来た訪問者はいるか、訪問者はサイトに来て何をしたのかが追跡できる。

マーケターは現状を受け入れている

ティヌイティ(Tinuiti)でペイドソーシャル担当バイスプレジデントを務めるアビ・ベン=ズビ氏によれば、いまのところ、ピクセルのことを心配しているマーケターはあまりいないという。「プライバシーの観点からいえば、広告主はTikTokが販売しているものを受け入れているのが現状だ」と同氏は語る。「それ以上に彼らが懸念しているのは、TikTokが禁止になった際の対応計画が、きちんと用意されているのかということだ。TikTokはいまや、彼らのペイドメディアにとって何よりも重要な存在になっているのだ」。

通常時なら、こうしたコメントが逆張りに聞こえることはまずない。だが、いまはTikTokにとって「通常時」ではない。セキュリティをめぐる懸念により、各国政府が政府のデバイスなどからTikTokを排除しようとする動きを見せており、これを受けて、TikTokのデータセキュリティプロセスが注目の的になっている。先日、米議会の公聴会に出席したTikTok CEOの周受資(ショウ・ジ・チュウ)氏も、同アプリには将来の問題の発生を防ぐのに必要なセーフガードが用意されていることを明言できなかった。

にもかかわらず、マーケターたちはTikTokのことでパニックになってはいない。むしろ、この現状を現実的に捉えている。プライバシーとピクセルのようなツールの価値とのトレードオフをどう考えるかについて、賢明な判断を下す役割を担っていることを思い知らされたからだ。マーケターの多くは、この現状を受け入れている。いまのところ、ピクセルはいわれている通りの働きをしている。不正行為を示す証拠は何も目撃されていない。

不満はないも、疑問は残る

ベイシス・テクノロジーズ(Basis Technologies)でペイドソーシャル担当バイスプレジデントを務めるカエラ・グリーン氏は次のように語る。「たいていのものがそうであるように、これも誇張されていると思う。ピクセルのことを本気で心配しているブランドなど見たことがない」。

別のマーケター(匿名を希望)も「我々の側でピクセルをめぐる懸念について話し合ったことは、過去一度もない」と、同じようなことを言っている。

ティヌイティのソーシャル担当者は大多数がTikTokを利用しているが、ベン=ズビ氏もピクセル利用の是非について誰も議論していないと述べている。同氏はピクセルの実装を心配する声も聞いたことがないという。

とはいえ、マーケターたちがピクセルに対して甘いというわけではない。正しく管理されないかぎり、ピクセルの使用は重大なプライバシー侵害を媒介するおそれがある。そのおそれを認識する彼らは、ピクセルの使用に疑問を投げかけてもいる。しかし、2019年当初からTikTokから届くのは、たいていは自信に満ちた言葉だった。

「ピクセルをめぐる懸念は、消費者(データプライバシー)の観点からのものが一般的だがiOS 14などの影響で、状況はすでに大きく変わり始めている。収集できるデータのタイプは、2019年当時のレベルとはかけ離れたものになっている」と、ベン=ズビ氏は語る。「ピクセルによって保管されている消費者データのレベルは、実際に低くなっている」。

ピクセルにプライバシーリスクはあるのか?

ピクセルに対して冷静なマーケターたちがいる一方で、必ずしもそうではないマーケターたちもいる。彼らにとって、ピクセルに何か問題が起きる可能性とその気配までもが、無視できるものではない。こうしたマーケターには、TikTokに出稿するのは構わないが、ピクセルとは距離を置こうとする傾向が見られる。そんな彼らにこの決定を考え直してもらうために、TikTokにできることは何かあるのだろうか?  どう納得させるかはわからないが、米議会の公聴会ではダメだったことは確かだ。

ニュー・エンゲン(New Engen)でメディアサービス担当バイスプレジデントを務めるアダム・テリアン氏は、「当社が関わってきた新規クライアントはここ数カ月、TikTokに実際に予算を割くか、予算を割こうとしているかのいずれかだったが、自社サイトにはいまもピクセルを設置していない」と語る。「やはりピクセルは心配の種ということだ」。

「ピクセルは力だ。力である以上、武器と同じように悪の手に渡れば脅威となる恐れがある」と、ペリオン(Perion)のCEOであるドロン・ガーステル氏は話す。「(たとえ実際にはなくても)プライバシーリスクがあると思われるプラットフォームを利用している企業は、自社のプライバシーポリシーの正当化に苦心しており、これからもそうだろう。この後者の点が鍵を握っている」。

こうしたマーケターにとっては「ピクセルは個人データが危険にさらされるメカニズムの代表格である」という、重大かつ潜在的なマイナス材料だということだ。

その一例として挙げられるのが、ベイシス・テクノロジーズだ。同社は製薬会社や金融企業のほかに、政府および政治キャンペーンや非営利団体とも提携しているが、これらはどこも規制が厳しい業界だ。「彼らは今後いっそうピクセルに慎重になっていくに違いない」と、グリーン氏は語る。「何か問題が起これば、ビジネスへの影響が出る可能性があるため、言動への注意が必要だ」。

少なくともいまのところは、ピクセルを利用すればこうなるという紛れもない証拠は存在していない。TikTokの広報担当者は、こう説明する。「ほかのプラットフォームと同じく、当社が広告主から受け取るデータは、当社広告サービスの有用性の改善に使われる。広告主には、特定のデータを当社と共有しないように、サービスの利用規約で伝えてある。こうしたデータを誤って送信することがないように、今後もパートナーと協力していく」。

気がかりな出来事は起きている

それにもかかわらず、マーケターには慎重になって然るべき理由がある。

彼らマーケターに人気のトラッキングピクセルだが、それには確実にリスクが伴う。第一に、ピクセルはデータを秘密裏に収集するように設計されている。これがプライバシー規制の違反につながり、正しく管理されていない場合は、プライバシー規制当局との衝突を生むおそれがある。ピクセルの設定を間違うと、データが未承認のサードパーティに送られてしまうことも考えられる。顧客との信頼関係を築き、信頼できるデータの管理人としてその役目を果たそうとしているマーケターにとっては、恐ろしい話だ。

これを浮き彫にする出来事が実際に何件か起きている。昨年11月、メタ(Meta)のピクセルが病院のサイトから健康データを収集していることがわかった。ピクセルの監視を担当していた各チームは、この事態にまったく気づいていなかったという。

ウォール・ストリート・ジャーナル(the Wall Street Journal)の3月の報道によれば、20以上の州政府が公式サイトにTikTokピクセルを設置していたが、そのなかのいくつかの州では、TikTokの利用が州政府によって禁止されていたという。これらの州ではTikTokの利用が禁止されていたにもかかわらず、公式サイトに用いられていたピクセルによって、不注意からデータがTikTokと共有されていたおそれがある。何とも気がかりな話、ということだ。

[原文:Of all the concerns marketers may (or may not) have about TikTok right now, the pixel isn’t one of them

Seb Joseph and Krystal Scanlon(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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