大手メディア企業が景気悪化と広告減速の影響を受けるなか、ニュースレター発行を中心とするパブリッシャー各社はメール購読者数を伸ばし、それに伴って広告収入も拡大しているという。
一部では広告収入が予想を下回っているのも見受けられるものの、ニュースレターのパブリッシャーは既存広告主からの収入が続くだけでなく、新しい広告主も獲得していることが、パブリッシャー6社の幹部への取材で明らかになった。
ザ・ジスト(The Gist)、1440(フォーティーン・フォーティー)、インダストリー・ダイブ(Industry Dive)、ジ・アンクラー(The Ankler)の幹部たちは、自社が依然として好調であり、広告の減速による売上への影響は感じていない、と口をそろえた(パック[Puck]とフロントオフィススポーツ[Front Office Sports]は、収益に関してはコメントを控えたいとした)。実際、3月下旬の時点ではニュースレター中心のパブリッシャーの2023年広告収入は、ニュースレターの購読者数とともに、拡大を続けている。
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広告主はダイレクトレスポンス広告にシフト
米DIGIDAYの取材に応じた6社のどこも、2022年後半に始まった景気後退後のレイオフはない。ほとんどで2023年は増員を予定している。1440、ザ・ジスト、フロントオフィススポーツ、パックの幹部たちは、具体的な売上の数値は明かせないとしながら、広告収入が今四半期も伸び続けていると話した。
その理由として、ザ・ジスト、パック、ジ・アンクラーの幹部たちは2023年に入ってから新しい広告主を獲得したことを挙げ、フロントオフィススポーツとインダストリー・ダイブは既存の広告主の予算拡大が大きいと指摘した。
増収が続く背景としては、さまざまな要因が考えられる。ジ・アンクラーやパックのようなニュースレター界のスタートアップ企業はまだ成長段階にある。ブランド認知度向上を狙う広告を減らしてダイレクトレスポンス広告にシフトしたいというマーケターを取り込むことに成功したと話す幹部もいた。
「マーケターがROIやダイレクトレスポンスに重点を置くようになっている。ニュースレターが素晴らしいのは、それがプッシュ型のプラットフォームで、レスポンスを得られることにある。メールを送信すると、受け取った側は何かしらのアクションを起こすものだ。ROI重視の広告主が、本格的にニュースレターにシフトしつつあるのが見られる」とB2Bのデジタルメディア企業であるインダストリー・ダイブの共同創業者でCEOのショーン・グリフィ氏は話す。
2023年はニュースレターが広告トレンドに?
広告エージェンシーのフェレビーレーン(FerebeeLane)でメディアディレクターを務めるケイティ・ドリッグズ氏は、「ニュースレターに向かうメディア予算が増えているのは、現在の経済情勢が原因で、広告主がクッキー後の世界に備えてコンテクスチュアルターゲティングができるメールのようなチャネルを試しているからだろう」と分析する。
「メール配信のニュースレターは比較的コストがかからず、トラッキングも可能で広告主にとってかなり柔軟に使えるものだ。コンテキスト広告を記事のなかに埋め込み、ネイティブ感を出すこともできる」と同氏はメールで説明した。「2023年のように不透明な経済情勢下で年間を通して予算が幾度となく変わるのであれば、メール配信のニュースレター(加えてデジタルメディア全般も)が最も柔軟なメディアチャネルになる。シフトが見られている最大の理由はこれではないかと思う」。
とはいうものの、幹部たちは現在の経済情勢を考え、コストを強く意識し続けていると話す。ニュースレター中心のパブリッシャーがすべて無傷というわけでもなく、モーニングブリュー(Morning Brew)は2023年3月に40人のレイオフを社内発表している。2022年11月にスタッフの14%を解雇して以来、2度目のレイオフになる。
広告収入の拡大
ニュースレター専門パブリッシャーである1440の共同創業者でCEOのティム・ヒュールスカンプ氏は、「弊社は48カ月連続で増収を続けている」と話す。同社発表によると、2022年第4四半期の収益の伸び率は2021年第4四半期の2倍に上る。なお、同氏は正確な数字は明かしていない。
パックの共同創業者でCOOを務めるリズ・ゴフ氏は、同社の2023年第1四半期の収益が前年同期比で200%以上に上るといい、「2023年は通期で増収を見込んでいる」と話した。ゴフ氏も正確な数字は明かさなかった。
フロントオフィススポーツの創業者でCEOのアダム・ホワイト氏は、正確な数字は明かなかったものの、「2022年広告収入(うちニュースレターの広告が60%を占める)が前年比で50%増えている」と述べた。同社は2023年、30~50%の成長を見込んでいるようだ。今四半期には「数十万ドル(数千万円)規模の過去最大のRFPが複数あった」という。
ザ・ジストの共同創業者であるジェイシー・デフープ氏は第4四半期に撤退した広告主もあったとしながら、「同じ広告主が第1四半期には戻ってきた」と話す。第1四半期の受注は「マーチ・マッドネス:3月の熱狂」と呼ばれる全米大学バスケットボール選手権の影響もあり第4四半期より多く、第1四半期に計上された収益は第4四半期とほぼ同等であるという。ただし、具体的な数字は明かしていない。なお、匿名を条件に取材協力したあるニュースレター会社の幹部は、「自社でも同様のパターンが見られる」と述べた。
エンターテインメント中心の購読ニュースレターを発行するジ・アンクラーのCEO兼編集長であるジャニス・ミン氏は、「スポンサー広告については余裕で7桁台」と話す。具体的な数字は明かさなかったが、2023年の最初の3カ月でジ・アンクラーは2022年の通期売上収益を超えたという。同氏は、2023年はセールス責任者を雇い、広告と購読が半々を占める現在の収益を「スポンサーよりに66%にする計画」だと語った。
開封率と購読者数
これらのニュースレターでは、開封率も約40%から60%超と安定している。グリフィ氏によれば、インダストリー・ダイブのクリックスルー率は2022年2月から2023年2月の間に38%増えた。
購読者数も伸び続けている。ザ・ジストのデフープ氏は、前年同期の40万人から今四半期末には約70万人と倍近くになったと話す。1440のヒュールスカンプ氏は、現在の購読者数が240万人近くで、夏には300万人に達する見込みだという。
また、インダストリー・ダイブのグリフィ氏は、同社が2022年9月にインフォーマ(Informa)に買収されて以来、40万人の新規購読者を獲得したと語った。パックのニュースレター購読者数は無料と有料を合わせて約24万人に上るとアクシオス(Axios)が2023年3月第二週に報道している。フロントオフィススポーツのニュースレター購読者数については、本記事の公開までにホワイト氏から返答はなかった。
ジ・アンクラーは2023年1月から2月のあいだに有料購読者数が約6%増え、ミン氏は「当社としては絶好調の月だった」と話す。ただし、具体的な購読者数は明かしていない。同氏は、「ジ・アンクラー発刊1周年時点での伸びはもっと緩やかなものになると予想していた」と認める。解約率は約3.5%だったようだ。
1440では月額10ドル(約1300円)の広告なしのプレミアム購読を用意しているが、「その収益は全体の1%に満たない」とヒュールスカンプ氏はいう。同氏によれば、パックの有料購読者数が約3万人であることをニューヨーカー(The New Yorker)が12月に報じている。
一部で垣間見られる時代の潮流
ニュースレター各社の幹部が描いてみせた明るいイメージとは裏腹に、広告市場のすべてが順調ではない兆候も見られる。ヒュールスカンプ氏は最近CPMが低くなってきていることに気付いている。
「CPMに関しては確実に広告主からの圧力の高まりを感じる」と同氏は述べ、次のように付け加えた。「予算が少し縮小し始めているのではないかと思う。数社で明らかにそれを少し感じている」。なお、1440の広告主はモトリー・フール(Motley Fool)やブッチャーボックス(ButcherBox)などの金融サービスや一般消費財が主だ。
メールマーケティングプラットフォームのライブインテント(LiveIntent)で広報部長補佐兼企業渉外シニアバイスプレジデントを務めるアダム・バーコウィッツ氏は、「CPMが業界トレンドに追随はしているが、それほど過激な動きは見せていない。変動はあるが、とくに大きなものではない」と語る。
インダストリー・ダイブのグリフィ氏によると、販売サイクルが短くなっているそうだ。マーケターたちは、この不透明な時代において「あまりに先まで広告を確約することを控えている」という。
同氏は次のように語った。「年頭にクライアントは予算をどうするかと検討するが、2023年はいつもより時間がかかっていた。クライアントの買い付けの期間が短くなっている。以前であれば通年で買い付けていたところが、今は四半期、下手をするとひと月単位だ。彼らの予算はまだありそうだが、それを獲得するためにこちらはもっと努力しなければならない。以前は年に1回売ればよかったのが、年間を通して数回売らなければならなくなっているからだ」。
[原文:Newsletter publishers say they continue to see uptick in revenue despite advertising slowdown]
Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)