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2月のとあるインスタグラム投稿は、ほとんど不可能に思えたことをやってのけた。すなわち、eコマース関係者以外の人々の関心を3PL(サードパーティー・ロジスティクス)に向けさせたことだ。
ルイジアナを拠点とするファッション新興企業のファッションブランドカンパニー(Fashion Brand Company)は、同社の事業が廃業の危機に瀕していることを投稿したのだ。その投稿では「ある大手企業が当社のフルフィルメント事業を奪った」と述べられていた。「当社側はすべて正しい行動をしたが、相手の企業は、当社の商品のサイズとSKUが多すぎるとして、当社の在庫を人質に取っている」。同社はフォローアップのコメントで「悪いのは@shipbobだ」と締めくくった。
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バレンタインデーに送信されたこの投稿は、たちまち大きな反響を巻き起こし、1万近くの「いいね!」がつき、Twitterなどのほかのソーシャルメディアプラットフォームでも共有された。あるツイートは、「私の好きなスローファッションのブランドが現在、@ShipBobによってすべての在庫を人質に取られている。私はこの問題について、このアカウントで戦争する覚悟だ」と述べたことが話題となり、200回近くもリツイートされた。
3PLを取り巻く課題
このファッションブランドの愛好家にとって、標的は見知らぬ悪党で、投稿の力を使ってタグ付けし、非難できる相手のように思われた。しかしeコマース関係の多くの人々にとっては、このニュースはまったく驚くべき話ではなかった。3PLについての苦情は、オンラインショッピングの歴史と同じくらい長く存在し続けているのだ。
ビンテージスタイルが特徴のファッションブランド、モドクロス(Modcloth)の創業者であるスーザン・グレッグ・クローガー氏は、ファッションブランドカンパニーのインスタグラム投稿についてコメントし、何年も前にフルフィルメントの問題によって同氏の会社も廃業するところだったと語った。そして、ベンチャー支援を受けた3PLとしては最大ではないにしろ、最大規模のひとつであるシップボブ(Shipbob)が、オンライン上で多くの創業者の怒りを買ってきたとしている。
俯瞰してみると、この話は多くの中小企業が直面している一般的な問題を浮かび上がらせている。ほとんどの顧客は商品の引き取り、梱包、配送を誰が行ったのかを意識していないが、フルフィルメントは間違いなく、顧客体験を左右する重要な要素だ。このため、一部の創業者にとっては、3PLとの悪い経験が何年もあとで痛手となることもあるようだ。
米モダンリテールはファッションブランドカンパニーに問い合わせを行ったが、回答は得られなかった。しかし、数人のeコマース創業者や経営者は、その会社との経験や、3PLの業界全般について語ってくれた。何人かは、明確にシップボブについて、ホラーのような体験談を語った。また、ファッションブランドカンパニーや他社が直面した問題は、ベンチャー支援を受けたモデルを採用する3PLが増え、指数的なペースで多くの顧客を増やさなければならなくなったことによる、不可避の副産物であるとする意見も出た(さらにシップボブは、同社との全体的に良好な体験の例として、10のブランドを米モダンリテールに紹介した)。
代理店タスクハスキーの創業者であるザカリー・マックラング氏は、「現在のところ3PLに関する最大の問題」は、「VC(ベンチャーキャピタル)からの資金が多く、もはや顧客と足並みが揃っていないことだ」としている。
VCへの注目度高まる
シップボブは、eコマース分野で成長しつつあるブームの一翼を担っている。同社はオンライン小売業においてもっとも困難で労働集約型な部分である、商品を受け取り、箱詰めして、いくつもの地域に配送するという作業を体系化して自動化しようと試みている。これは通常、人手に頼るタスクで、倉庫で何百人もの人が、縦横に積まれたアイテムを数千もの箱に収めなくてはならない。まるで入り組んだテトリスのような作業だ。
この分野のリーダー各社は、自社をテック企業として売り込んでいる。シップボブは特に、独自のコンピュータで構築されたさまざまなプログラムにより、梱包担当者が商品をスキャンして、最適な箱を判定できる機能を売りにしている。
このため、VCは多くの資金を投入してきた。たとえばシップボブは、クランチベース(Crunchbase)によれば3億3000万ドル(約449億円)以上を調達し、評価額は10億ドル(約1360億円)を超えたと報じられている。同社は、7000を超えるクライアントが全世界への配送に同社を使用していると述べる。一方で競合他社のシップモンク(ShipMonk)は今日までに3億6500万ドル(約496億円)を調達し、シップヒーロー(ShipHero)は6000万ドル(約81億6000万円)以上を引き入れたと報じられている。
シップボブから見れば、VCが支援する同社のモデルは、事業のステートメントである「競争の条件を公平にし、中小企業でも全国に倉庫を持つAmazonのような物流インフラを利用できるようにする」ことに反するものではなく、むしろ不可欠なものだ。
「VCの資金だろうと、そうでなかろうと、優れた商品を作り上げることとは関係ないと考えている」と、共同創業者のドリュフ・サクセナ氏は米モダンリテールの取材で語った。「これらのVC資金により、当社は全国にわたるフルフィルメント物流ネットワークを作り上げ、最終顧客の近くにフルフィルメントセンターを配置できるようにする」。
「難しいことではないはずだ」
米モダンリテールが取材した多くのブランドがシップボブを試すに至った理由は、まさにサクセナ氏が述べたとおり、複数の倉庫を持つフルフィルメントのソリューションであり、ブランド自体と足並みを揃えて成長できるフルフィルメントオプションを持てることだ。同社のウェブサイトによれば、同社には全米で30カ所近く、国外に8カ所の拠点がある。
CBD(カンナビジオール)飲料ブランドのバイブス(Vybes)が2021年後半にシップボブに切り替えたのも、その理由からだ。同社の売上のほとんどは店舗でのものだったが、デジタルの収益も有機的に増加しはじめていた。その時点で同社は、ラスベガスに1つの拠点を持つ3PLを使用してきたが、コストと配達時間を削減できる太平洋・大西洋両岸のオプションを探していた。
バイブスのCEOを務めるジョナサン・エパーズ氏は、「いくつかのフルフィルメントパートナーと対談した」と述べている。同社は、同業者が以前シップボブのサービスを使用していたことと、シップボブがより多くのフルフィルメントセンターを保有し、同社のコストを引き下げられると主張していたことから、シップボブを選んだ。2カ月近くにわたり、両社は共同でビジネスプランを作成し、バイブスはシップボブに対象地域すべての郵便番号を渡して、シップボブは4つのフルフィルメントセンターを使用することを同社に勧めた。エパーズ氏は「我々はシップボブへのオンボーディングに2カ月半を費やした」といい、シップボブはこの移行によってバイブスのフルフィルメントコストを従来の12%から15%削減できると語ったことを付け加えた。
しかし、事態はすぐに混乱に陥りはじめたと、エパーズ氏は語る。バイブスは配送用に複数のフレーバーを出荷しており、さらに、さまざまなフレーバーによるミックスパックも提供している。ミックスパックの場合、配送担当者がバイブスのロゴ付きの箱にさまざまなSKUを詰める必要がある。「難しいことではないはずだ」と同氏は述べている。それでも、シップボブは商品のフルフィルメントを正しく行うことができず、特にミックスパックでトラブルが続いた。箱にひとつのフレイバーしか入っていないこともあれば、6つ入っているはずの商品が2つしか箱に入っていないこともあった。しかし、何回かの試行錯誤の結果、ようやく物事がうまく回りはじめたかに見えた。
そのあとで、バイブスは1カ月間にわたって送料無料のキャンペーンを行うことにした。エパーズ氏はこれを「大きな間違い」だったとしている。同ブランドへの注文は瞬く間に急増し、4倍近くになった。「これは、シップボブのチームにとって過剰な負荷になった」と同氏は述べている。注文が伝達されなかったり、誤ったパッケージが発送されたりしたと、同氏は述べている。同氏によれば、当時のバイブスの顧客の約20〜30%は注文した商品を受け取ることはなかった。
50〜60%で発送ミス
「注文した品を受け取った顧客のなかで、おそらく50〜60%は間違った品を受け取った」と、同氏は述べる。ミックスパックを注文した顧客にいたっては、「80〜90%は商品の中身が間違っていた」。
これにより同社は膨大な数の批判的なレビューを受けはじめ、誤った注文を再送するために余分なコストを支払うことになった。「これは何万ドルもの損失になった」と、エパーズ氏は語る。わずか2週間半後に、同社はウェブサイトを完全に閉鎖することを決定した。「5日間にわたってオンライン販売を停止し、以前のフルフィルメントパートナーに戻った」と、同氏は述べている。
エパーズ氏はこの経験を、管理上の多くの失敗に加えて、シップボブのテクノロジーが期待を満たせなかったことが原因だとしている。「同社のテクノロジーはひっきりなしにクラッシュし、非常に低速だった」と、同氏は述べている。さらに、シップボブのシステムは繰り返し注文が伝達されなかったり、エパーズ氏の言葉によれば、バイブスの側では正しく入力した注文が、間違った出力を行ったりした。「基本的なことも正しく行えなかった」と、同氏は語る。
シップボブは個別のクライアントの体験に対して特定のコメントを行っていないが、サクセナ氏は、シップボブのシステムが正しく実施されていれば、商品を誤って梱包することはないはずだと述べる。同社はバーコードシステムを採用しており、加盟企業に対して商品それぞれにバーコードを貼付するよう求めている。これが正しく行われれば、商品が間違って梱包されることは「可能性としてゼロ、または非常に少ない」と、同氏は述べる。「このシステムは、ピッキング作業員や梱包担当者が誤ったバーコードをスキャンした場合、次の作業に進むことを許可しない」と、サクセナ氏は述べる。
「規模の問題」
次の事例はこれほど破滅的ではないが、同様な問題を示している。玩具ブランドのヘルシールーツドールズ(Healthy Roots Dolls)の創業者でCEOを務めるエリスタ・ジーン・チャールズ氏も、シップボブが多くのフルフィルメント拠点を保有していることから選択した。同社はシップボブが2018年に創業されたときに使用したが、料金が高すぎると感じた。それからは別の小規模3PLに移行したが、そのベンダーでは同社の注文数の増加に対応できないことがわかった。ヘルシールーツは2022年初期にシップボブに復帰することを決め、SKUをシステムに再入力し、商品バンドル用の新しいシステムを作成した。
全体として注文は正しく発送されたが、ヘルシールーツのチームは何か別の不都合があることに気づいた。「当社は複数の注文について、注文ごとに約30%以上の額を請求されていた」と、チャールズ氏は語る。これは「数千とは言わないまでも、数百の注文」に対して発生していた。ほどなくして同氏は原因に気づいた。シップボブは同社の商品に誤った箱を使用していたのだ。
同氏は次のように述べている。「誰もが知っているとおり、配送コストは箱の容量に基づいて決められている。シップボブは1つの人形用のサイズの箱を使用する代わりに、1つの注文について2つの人形用のサイズの箱を使用していた」。同社は注文を確認し、誤った箱を使用したことについてシップボブに弁償を請求するために数カ月を費やした。そして、問題のいくつかは解決したものの、今でも問題は発生していると同氏は述べている。
エパーズ氏と同様に、チャールズ氏も約束されたテクノロジーに問題の可能性があると考えている。同氏は次のように述べている。「システムの問題かもしれない。または、規模の問題かもしれないと考えている。一部の企業は非常に急速に成長しようとし、制約があることや、いろいろな面での修正が必要であることを理解していない」。
シップボブが中小企業向けであることを特にアピールしていたことから、同社を選択した企業もいる。たとえば最近のFacebook広告では、箱をぎっしりと積み込んだ車が登場し、「3PLを雇うべきか?」というキャプションが付いている。この広告は、シップボブが探し求める企業のステージを表してている。つまり、創業者が事業を立ち上げたばかりで、はじめて3PLを雇おうとしている段階のものであることを示している。
スポーツバッグの新興企業であるヘイブンアスレチック(Haven Athletics)の共同創業者でCEOを務めるカレブ・ウルファーズ氏が2020年にシップボブと契約したのも、それが理由だ。当時、同氏のブランドは今よりはるかに小さく、先行販売キャンペーンに取り組んでいて、フルフィルメントパートナーを探していた。ヘイブン氏は創業1年目にシップボブを利用していたが、採算をとるのに困難を感じていた。シップボブは同氏のブランドに対して1箱あたり60ドル(約8160円)から80ドル(約1万900円)を請求した。「要するに、普通の人が店舗に入って何かを個別で配送しようとしたときに請求される金額だ」と、同氏は述べる。
同氏は、今後ヘイブンが成長すれば、シップボブとのあいだでより良い条件を交渉できると期待して、この価格を受け入れたことを認めている。「その後、当社はシップボブに、この条件はいつまでも続けられない、と伝えた」と、同氏は述べている。
シップボブが料率を下げる唯一の条件は、ヘイブンが最低3カ月にわたって毎月400ユニット以上を販売することだった。ウルファーズ氏は、「当社はまだ、月に400ユニットは売れていない」というが、昨年は100万ドル(約1億3600万円)近くを売り上げたという。
その結果、ウルファーズ氏は料金が1箱あたり13ドル(約1770円)の小規模専門3PLに事業を移行した。
3PLはもっとも不安定なベンダ
シップボブは、このモデルには隠れたコストがないと主張する。すべての価格は両社が提携を開始する前に決定されており、すべての箱のサイズとコストは両社によって承認される。同社は各ブランドのニーズ、すなわち商品のサイズや、必要な口数や保管量を分析し、各商品の保管および配送にかかる料金を決定し、双方で合意する。
さらに、コストのなかには、ほかのサービスや、個人が個別に配送する商品と比較すべきでないものもあると、サクセナ氏は語る。「当社のソフトウェアは、記録システムとして機能しており、注文管理だけでなく、在庫管理、顧客とのコミュニケーション、返品、受け取りと梱包、注文のフルフィルメントに必要な労働力、配送にも活用されている」。
3PLはある意味で、顧客からの苦情に対してもっとも不安定なベンダーだ。倉庫のピッキング作業員のせいで注文のひとつが間違って処理された場合、怒りのレビューや払い戻し要求が舞い込むことで、問題が連鎖的に拡大していくことがある。そして、悪い体験を引き起こした中間者によってブランドが害を受けることになる。
一部の関係者は、シップボブで経験した問題は、一過性のものではなく、システム全体によるものだと感じている。また、独立した問題はすべてのパートナーで発生するものだが、特に中小企業にとっては、予測しないコストを背負い、問題の解決を待つのは困難なことなのだ。
シップボブはカスタマーサービスがあるが、一部の情報筋によると、システム全体による問題、たとえばアイテムが継続的に誤って梱包されるなどを、適切な担当者に知らせるのは困難だったと語る。たとえばヘルシールーツは、問題が十分に対応されるようになるまでに1年以上を費やしたと述べている。しかし、シップボブは、自社のカスタマーサービスに自信を持っている。「当社のサポートチケットの大部分は48時間以内に解決され、最初の応答時間は2時間だ」と、サクセナ氏は語っている。
「総合的な問題点」
多くのブランドは、フルフィルメントの苦悩を、使用している特定のベンダーに押し付けているが、このような問題はある意味で、より大きな視野で考えることができる。たとえば、タスクハスキー(TaskHusky)のマクラング氏は、特にシップボブと仕事をしたわけではないが、シップヒーロー(ShipHero)のような競合他社で同じような経験をしている。「小売業者は、1つの箱に収まる注文が2つ分の箱に入れられることに不満を抱いていた」と、同氏は述べている。
同氏の考えでは、問題はこれらのベンダーの成長を支援しているシステムにある。焦点となるのは、「加盟小売店の資金をどのように節約するかとか、どうすれば最速で配送できるかといったことではなく、自社の利益をどのように最大化するかが焦点になった。これは、3PL分野の総合的な問題点だ」と、同氏は述べる。この食い違いは、小規模のブランドにとっては特に有害となり得る。
しかしシップボブは、顧客の大部分は満足しており、同社は小規模なブランドに対応するとともに、いかなる小規模専門サービスでも提供できないグローバルなインフラにアクセスしやすい独自のサービスを提供していると主張する。
また同社は、アドベンチャーブック企業のジ・アドベンチャー・チャレンジ(The Adventure Challenge)のCOOを務めるティム・マリネージョ氏が、シップボブとの経験が全体的に良好だったと説明していることを、米モダンリテールに語った。マリネージョ氏は、自社が多くの3PLと提携し、さらに数十の他社と対談してきたが、シップボブはもっともコミュニケーションを取りやすく助けになったと述べている。「シップボブは当社とともに困難を乗り越えてきた。ほかの多くの3PLは、そこまでしてくれなかった」と、同氏は述べている。
このことから、サクセナ氏は顧客からのフィードバックに耳を傾けることに自信を持っている。「当社が成功するためには、当社のプラットフォームを使用するブランドが成功する必要がある。もちろん、当社には改善すべき部分もある。どの企業も失敗から学び、努力し続けることができる。我々は、ブランドがビジネスを成長させ続けるための大きな機会があり、我々はその成長を実現するための支援ができると考えているためだ」。
「シップボブは、D2C企業の隆興に対応し、そしてよくやったと私は思っている」と、サプリメントブランドのブルームヌートリション(Bloom Nutrition)のCOOを務めるレオ・ウォルター氏は付け加えている。
「もっとも困難なのは、3PLを切り替えること」
どの3PLが最良なのかという疑問は、多くのブランドを悩ませている。多くは、1対1のサポートを行ってくれる小規模な業者と提携することを好む。しかし、一部の小規模専門3PLは、シップボブのようにブランドが規模を拡大する時にそれを支援する能力があるとは限らない。
これは、ヘルシールーツが最終的にシップボブを使い続けることを選択した理由でもある。「もっとも困難なのは、3PLを切り替えることだ」と、チャールズ氏は語る。また、ブランドに対する誤った料金の請求は困りものではあるが、その問題は全体として「シップボブ固有の問題ではなく、大規模な3PLに共通した問題点だ」と、同氏は見ている。
しかし、バイブスのエパーズ氏はこの意見に同意していない。シップボブとの短い経験は、同氏に悪夢を見せるには十分なものだった。「あの頃を思い出すだけで頭がおかしくなりそうだ。あの頃のことは頭から締め出すように努めている」と、同氏は述べている。
[原文:‘Holding our inventory hostage’: For growing brands, VC-backed 3PLs have become a sore spot]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Ivy Liu