メモ
Twitterの創業者であるジャック・ドーシー氏が率いる決済テクノロジー企業「Block(元Square)」について、「ユーザー数の大幅な水増し」「犯罪者による悪用」などを指摘するレポートを、空売りで知られる投資企業のヒンデンブルグ・リサーチが発表しました。レポートの発表を受けて、Blockの株価は一時22%も急落する事態となっています。
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Block—How Inflated User Metrics and “Frictionless” Fraud Facilitation Enabled Insiders To Cash Out Over $1 Billionhttps://t.co/pScGE5QMnX $SQ
(1/n)
— Hindenburg Research (@HindenburgRes)
Block: How Inflated User Metrics and “Frictionless” Fraud Facilitation Enabled Insiders To Cash Out Over $1 Billion – Hindenburg Research
https://hindenburgresearch.com/block/
2009年にドーシー氏が立ち上げた決済テクノロジー企業の「Square」は2021年に社名が「Block」へと変更されましたが、決済サービス自体の名称はSquareのまま引き継がれています。Blockは小売店が手軽にクレジットカードやモバイル決済を導入できる決済端末を提供しているほか、ユーザーが相互に送金できるP2Pモバイル決済サービス「Cash App」も展開しています。
ヒンデンブルグ・リサーチはBlockの元従業員や業界専門家に対する数十回ものインタビュー、規制および訴訟記録の広範なレビュー、情報公開法に基づいた公的記録の入手などを行い、2年間にわたりBlockについての調査してきたとのこと。レポートで取り上げられている内容は以下の通り。
◆1:Blockは「銀行口座を持たない犯罪者」を顧客に取り込んでいる
ドーシー氏はBlockのビジネスにおいて、クレジットスコアが低いために銀行を利用できなかったり、銀行への不信感を抱いていたりする人々にサービスを提供することを目的としています。2022年9月にピュー研究所が発表したレポートでも、Cash Appが低所得者やマイノリティの人々をターゲットにしていることが示されています。
Cash Appはメールアドレスや電話番号だけでアカウントを作成できる手軽さと、使いやすいプラットフォームによって高評価を得ていますが、結果として銀行口座を持たない犯罪者によって悪用される事態になっているとのこと。ヒンデンブルグ・リサーチは、Cash Appではユーザーを増やすためにコンプライアンス違反を受け入れており、簡単にアカウントを作成できるだけでなく、アカウントが閉鎖されてもすぐに別のアカウントを作成可能であり、あからさまに虚偽の身元でもアカウントを所持できると指摘しています。
実際、2021年にアメリカ・メリーランド州ボルチモアで麻薬取引の罪で検挙されたギャングは、その名の通り「Cash App」と名付けられていました。また、これ以外にもメキシコの麻薬カルテルであるシナロア・カルテルなどの犯罪集団が、取引においてCash Appを使用していることが報告されています。
また、ドーシー氏は2020年5月に開催された投資家会議の中で、「Cash App」という単語がヒップホップの歌詞に頻出していることを取り上げ、大衆文化にCash Appが浸透しているとアピールしました。しかし、これらのヒップホップミュージックのほとんどはCash Appを正当な方法で使うのではなく、詐欺や麻薬の密売、殺人依頼の支払いなどに使うことに言及しています。
ヒンデンブルグ・リサーチはCash Appを犯罪に使用する歌詞を含むヒップホップミュージックをまとめ、YouTubeで公開しています。また、BlockがPRを支援した「Cash App」という曲を歌ったラッパーの22Gzは、2022年6月にクラブ内で発砲して3人を負傷させたとして殺人未遂の罪で起訴されています。
Cash App Music Video Compilation (Hindenburg Research) – YouTube
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さらに、北米における人身売買や性的搾取と戦う非営利団体・Polaris Projectは、性的人身売買において最もよく利用されているアプリとしてCash Appを挙げています。また、アメリカ司法省も未成年者との性行に関する複数の起訴状において、Cash Appが支払いに使われたことを報告しています。
Cash Appの元コンプライアンス担当者によると、Cash Appが性的人身売買に使用されていることを示すパターンとして、「23時~5時に複数回LyftやUberに乗車する」「さまざまな場所のホテルを点々とする」といったものがあるとのこと。この人物は、「すべての犯罪者がCash Appのアカウントを持っています」と述べたほか、別の元従業員も「サインアップの入り口は広く開いています。もし私が犯罪者なら、Cash Appのアカウントを作るでしょう」とコメントしたそうです。
◆2:不正なアカウントの水増し
Blockは、Cash Appの年間アクティブユーザー数は8000万人におよび、月間アクティブユーザーも5100万人に達していると報告しています。しかし、ヒンデンブルグ・リサーチは、Cash Appに関与した10人以上の元従業員にインタビューした結論として、「Blockの経営陣からの圧力により、マネーロンダリング防止法や顧客情報保護法を無視するパターンが発生しました。その結果、詐欺を助長する偽アカウントが急増し、Blockはユーザー指標を膨らませると共に、取引ベースの収益増加の恩恵を受けることとなりました」と述べています。
Cash Appの元カスタマーサービス従業員によると、時には1人のユーザーが数百件ものアカウントを運用するケースもあったそうで、多くの場合はそれらのアカウントの中に「詐欺やその他のポリシー違反」でブラックリストに登録されたものが含まれていたとのこと。複数のアカウントは相互に資金を移動し、資金の追跡を困難にするために用いられた可能性があるほか、ポリシー違反で締め出された後に何度もプラットフォームに戻ってきたことを示唆しています。
Cash Appでは「アカウントの閉鎖」は行われるものの、ユーザー自体のキックオフは行われないため、犯罪者は繰り返しアカウントを作成することができます。社会保障番号に基づいたアカウント認証はなく、メールアドレスや電話番号さえあれば新しいアカウントを作成できるほか、アカウント作成後に名前を変更することも可能です。
実際にCash Appでは、「Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)」という名前の偽アカウントがいくつも存在しています。
「Elon Musk(イーロン・マスク)」だとこの通り。
ヒンデンブルグ・リサーチはCash Appのシステムがいかにずさんなのかを調べるため、実際に2つのアカウントを作成した後に片方を「イーロン・マスク」、もう片方を「ドナルド・トランプ」という名前に変更し、資金のやり取りを行いました。また、「ドナルド・トランプ」という名前でCash Appのキャッシュカードを作成することにも成功したと報告しています。
◆3:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の給付金詐欺での悪用
COVID-19のパンデミックが起きた際、Cash Appは銀行口座を持たない人々が失業給付金を受け取るための窓口になることをアピールし、多くのユーザーを獲得して成長を遂げました。しかし、給付金を不正に詐取しようとする犯罪者にとってCash Appは格好のプラットフォームであり、多くの給付金詐欺がCash App経由で行われたとヒンデンブルグ・リサーチは報告しています。
アメリカ労働省の監察総監局は2022年3月、すべての州において1630億ドル(約21兆円)もの不適切なパンデミック失業給付金が支払われたと証言しており、さまざまな州で給付金詐欺の調査が行われています。ヒンデンブルグ・リサーチがオハイオ州の公的記録を入手したところ、Cash Appのパートナー銀行である「サットン銀行」が、給付金の受け取りにおいて全体で5番目に多く利用された銀行であることがわかりました。
サットン銀行では9億5600万ドル(約1240億ドル)の給付金を処理しましたが、後に3万2120人の請求者は詐欺を含む「不適格な受給者」だったと指摘されています。一方、オハイオ州で最も多く利用されたハンティントン銀行は、サットン銀行と比較して2倍近い給付金を処理しましたが、不適格な受給者は3884人と大幅に少なかったとのこと。
また、マサチューセッツ州やワシントン州の公的記録からも、Cash Appのパートナー銀行が処理した不適格な受給者の数が、JPモルガンなどの大銀行を上回る数だったことが判明しています。
さらに、給付金詐欺に言及した曲「EDD」をリリースし、その2週間後に給付金詐欺の罪で逮捕されたラッパーのNuke Bizzleの(PDFファイル)起訴状では、BizzleがCash Appを使用していたと言及されています。
Fat Wizza & Nuke Bizzle “EDD” (Official Music Video) – YouTube
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レポートの発表を受けてBlockの株価は急落し、一時的に22%安を記録する事態となりました。
ヒンデンブルグ・リサーチは2023年1月にも、インドの財閥であるアダニ・グループを「企業史上最大の詐欺」で告発するレポートを公開しています。これでアダニ・グループの傘下企業の株価が急落し、2週間で約14兆円もの損失が生じたとのことです。
世界第3位の富豪が所有するインドのアダニ・グループが「企業史上最大の詐欺」の告発で株価急落、1兆5000億円が1日で吹き飛ぶ – GIGAZINE
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