核兵器がうっかり爆発しないようにどんな対策がなされているのか?

GIGAZINE
2023年03月18日 22時00分
メモ



世界9カ国の核保有国は合計で約1万3000発分もの核弾頭を保有しており、アメリカが運用している核弾頭だけでも5425発に上ります。このような核兵器が、一体どのような仕組みで偶発的に爆発しないようになっているのかについて、科学系ニュースサイトのLive Scienceが専門家に取材した結果をまとめました。

What stops nuclear weapons from accidentally detonating? | Live Science
https://www.livescience.com/what-stops-nuclear-weapons-from-accidentally-detonating

アメリカ・ミドルベリー国際問題研究所で核不拡散の取り組みについて研究しているフィリップ・ブリーク氏によると、初期の核兵器が壊れやすく不安定なものだったのに対し、現代の核兵器は高い信頼性や安全を保つよう慎重に設計されているとのこと。ブリーク氏は「通常の保管環境であれば、アメリカの核兵器が予想外に爆発する確率は10億分の1だとされています。異常な環境でも、100万分の1です」と話しました。

ブリーク氏が言及した異常な環境とは、具体的には核兵器を保管している施設での火災や、核兵器を輸送している航空機の墜落などを指しています。実は、これらはいずれも過去に発生したことがありますが、いずれのケースでも核兵器は爆発しませんでした。


核兵器の安全性を維持するための基準は、「ワン・ポイント・セーフ」と呼ばれています。これは4キロトン以上、つまりTNT換算で4000トン分の核爆発力を超える爆発が起きる可能性は100万分の1を超えてはならないというもの。参考のために比較すると、アメリカが広島に投下した原子爆弾は15キロトンだったとされています。

核兵器が事故で爆発する確率を10億分の1に抑えるため、核兵器を管轄するアメリカのエネルギー省は、「核兵器にはストロングリンク-ウィークリンク(強い鎖と弱い鎖)が互いに入れ子になった複数の安全策を搭載し、各安全サブシステムはお互いにほぼ独立していなければならない」と定めています。

「ウィークリング」とは、高温や衝撃など核兵器を故障させかねない事故が発生した際に核兵器より先に壊れて、起爆ができなくなるように設計されている装置のことです。一方「ストロングリンク」は核兵器の他の部分とは分離された起爆システムで、妨害電波や故障で発生した無効な信号ではなく正式な起爆命令でのみ爆発するよう設計されています。このウイークリングとストロングリンクが両方とも正常に動作している場合、つまり核兵器が故障しておらず、核兵器の運用者が意図している場合にだけ核兵器が起動するというのが、このシステムの仕組みです。


そして、最も重要な安全対策は核兵器の部品を慎重に管理し、古いものを適切な時期に交換することです。ブリーク氏によると、寿命のある核兵器の部品としては核融合の燃料となる「ブーストガス」が挙げられるとのこと。ブースト型核分裂兵器と呼ばれる核兵器では、本格的な核分裂を引き起こすためにまず小さな核融合反応を発生させますが、これに使われる水素の放射性同位体のトリチウムは半減期が12.33年、つまり12年が経過する間に半分が崩壊してしまいます。

一方、核兵器の部品として最も寿命が長いのはプルトニウムのピットで、耐用年数は100年を超える場合もあります。ピットは一般的にプルトニウムでできたサッカーボールサイズの球状の殻で、前述のブーストガスにより核反応を起こし、より本格的な二次爆発を発生させる役割を担う核兵器の心臓部です。

これ以外にも、例えば核ミサイルの弾頭がサイロ内や潜水艦内で爆発しないように、一定の手順を経なければ起爆しない使用制御機能が核兵器には搭載されています。また、起動中以外は核爆発を起こす物質同士が離れているように、慣性スイッチや加速度計など、核兵器には6つの安全装置が搭載されているとのこと。


また、核兵器が爆発する仕組み自体も、不意に爆発しないような方式が採用されています。ミネソタ大学の政治学者であるマーク・ベル氏によると、核爆発を引き起こす方式は大きく分けて2つあるとのこと。1つ目は高濃縮ウランの塊を別の高濃縮ウランの塊に発射することで臨界を起こさせる「ガンバレル型」で、アメリカが広島で使用したことからヒロシマ型とも呼ばれます。この方式は構造が比較的単純ですが、安全性の問題などにより現代の核兵器の方式としてはほとんど使われていません。

2つ目は強い圧力でプルトニウムを圧縮して核分裂を起こさせる「インプロージョン型」で、現代の核兵器のほとんどはこの方式です。ベル氏は、このタイプの核兵器について「ただそこにあるだけでは材料が臨界量に達しないので、自然に爆発する危険性はあまりありません」と話しました。

核兵器が勝手に爆発するよりも重要だとベル氏が指摘しているのが、核兵器が盗まれたり不正に使用されたりする事態です。例えば、アメリカの核兵器にはパーミッシブ・アクション・リンク(核発射統制装置)が搭載されており、仮に一般人が核兵器に出くわしても、適切な権限やコードがないため作動させるのが非常に困難なようになっているとのこと。

そしてさらに危険なのは、核ミサイルを発射する権限を持つ人が軽はずみに発射ボタンを押してしまうことです。ベル氏は「核兵器が事故で爆発したり、無許可で使用されたりする確率は、軽率に核兵器が使用される確率よりはるかに低いと私は考えています。例えば、アメリカの大統領が核兵器の発射を命令するのを食い止めるためのチェック・アンド・バランス、つまり権力を分散させる原則は基本的に存在しません。事実として、システム全体が核兵器の発射を可能にするようにできているのです。これは、核兵器の事故や不意の爆発より、私を心配にさせます」と話しました。

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