メタ株暴落で市場が恐れること – PRESIDENT Online

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リスクオフに動く投資家が増えている

2月3日、株式市場の急落を受けて、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック、メタ)の株価が前日比26%安と暴落した。この1日で吹き飛んだ時価総額は、2370億ドル(約27兆2000億円)と米国の株式史上で最大だ。昨年10月から12月期の同社の業績発表が市場の事前予想を下回ったことに加えて、米国の金融政策変更の予想により市場緩急の悪化が重なった結果だった。

フェイスブックからメタへの社名変更を発表するマーク・ザッカーバーグ搀高経営責任者(CEO)[同社の動画より]フェイスブックからメタへの社名変更を発表するマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)[同社の動画より] – 写真=Sipa USA/時事通信フォト

これまで同社株価の上昇を支えた大きな要因は、これからも金融緩和が続くとの楽観だった。2020年3月中旬以降、コロナの再感染対策として金融緩和策が継続し“カネ余り”が続くと考える投資家が急増した。彼らは成長への期待が高いIT先端企業の株を好んで買った。“買うから上がる、上がるから買う”という動きが強まった。一時はSNS上で個人投資家が結託して特定の銘柄をゲーム感覚で買う“マネーゲーム”も起きた。メタはそうした銘柄の代表格の一つだった。

ところが、今年1月の連邦公開市場委員会(FOMC)の後、3月以降に連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を転換する可能性が急速に高まっている。特に、利上げとバランスシート縮小による流動性の吸収が同時に進むインパクトは大きい。その展開を警戒して、リスクオフに動く投資家が増えている。

余った資金がIT先端銘柄に集中

3日のメタ株の急落は、緩和的な状況が続いた世界の金融環境が大きく変化し始めたことを示唆する。メタのように、期待先行で買い上げられた銘柄への売り圧力は高まるだろう。2020年2月以降、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界の経済と金融市場は大混乱に陥った。

それを落ち着かせたのが、米FRBによる強力な金融緩和だ。ドル資金供給、利下げ、および量的金融緩和策の実施が投資家心理の悪化を食い止めた。3月中旬に米国などの株式市場は底を打った。その後は、ナスダック市場に上場するIT先端銘柄などが急速に上昇した。感染再拡大によるサプライチェーンの寸断などによって世界的に物価は上昇し始めた。その状況下、FRBは“物価上昇は一時的”との認識を維持した。その結果、超低金利と過剰流動性が続くという主要投資家の楽観が膨張した。

個人投資家の間でマネーゲームの様相に

それに加えて、感染再拡大によって世界全体で動線の寸断が長期化するとの見方が増えた。動線が寸断された中での経済活動にIT先端企業が果たす役割は多い。成長への期待は大きく高まり、メタなどの株価上昇が勢いづいた。先行きへの期待が幻想のように大きく膨らみ、市場の阻害要因をコントロールできるという“コントロール・イリュージョン”の心理に浸る投資家が増えた。

特に、米国政府の失業保険の特例措置によって一時的に収入が増えた個人は、“ステイホーム”の時間を使ってゲーム感覚でメタなどの身近な銘柄を買い始めた。財務内容や事業戦略などを精査することなく株を買い、たまたま大きく上昇したことに自信を深めた人は多かった。彼らはSNSに自分の投資手法を投稿し、周囲の行動をまねる個人投資家が急増した。

そうした投資家の存在が町を練り歩く“チンドン屋”のようなにぎやかな雰囲気を醸し出し、米国の株式市場に“バンドワゴン効果(本当は関心がなかったが音楽隊のにぎやかな雰囲気につられてしまう心理)”が広がった。その結果、ゲーム感覚で株を買う個人が増えてマネーゲームが鮮明化した。2020年3月中旬から2021年11月中旬までの間にメタの株価は2.3倍上昇した。

FRBの金融政策転換のインパクト

しかし、いつまでも資産の価格が上昇し続けることはあり得ない。歴史を振り返ると、米国の金融政策の転換が株価上昇トレンドを終わらせたことが多い。2021年11月下旬、FRBのパウエル議長が物価上昇は一時的との認識が誤りだったと認めた。それを境に、米国の利上げと量的金融緩和の縮小への警戒が急速に高まった。米金利は上昇した。

無リスクの資産である国債の流通利回り上昇によって、投資家はリスクのある株式に資金を投じることに慎重になる。さらに1月のFOMCにてFRBは金融政策を転換する意思を表明した。3月以降は、超低金利と過剰流動性の維持から、利上げと流動性吸収へ金融政策が変わる。期待先行で株価が上昇したメタなどが売られ、米国の主要株式インデックスの中でも先端銘柄が多く組み入れられているナスダック総合指数の下げ幅が大きい。

タイミング悪く重なったメタの決算

その状況下、メタの決算が投資家を失望させた。過度に先行きに強気になった多くの投資家が、米金利の上昇とメタの事業内容が想定よりも悪かったことに慌てふためいた。“コントロールの欠如”というにふさわしい事態が起きた。自信を失った投資家がわれ先にメタ株を売った。それが、さらなる売りを誘った。その結果として1日で27兆円もの時価総額が吹き飛んだ。逆に言えば、1月のFOMCの後も先行きを楽観する投資家はかなり多かったといえる。メタ株急落の意味は重い。

データ分析グラフ※写真はイメージです – 写真=iStock.com/MicroStockHub

FRBの金融政策の転換の詳細が明らかになるにつれて、メタへの期待、楽観はさらに剥落するだろう。特に、流動性吸収のインパクトは大きい。前回2017年10月のバランスシート縮小が始まる前、FRBの保有資産残高はピークで約4.5兆ドルだった。足許、資産残高は倍増し約9兆ドルだ。

パウエル議長は流動性吸収が前回よりも早期かつ急速に進む可能性を示した。世界のサプライチェーン寸断やエネルギー、穀物などコモディティー価格の上昇などによって世界的に物価が一段と上昇するリスクは高まっている。米国以外の中央銀行も利上げに着手している。

メタが再浮上する可能性はあるのか

巨額のマネー供給が膨張させた投資家の過度な楽観は崩れる可能性が高まっている。それによって、メタへの売り圧力は強まるだろう。特に、ユーザー減少は深刻だ。メタはSNSのフェイスブックを運営する。ユーザーは静止画などを投稿し、他人とつながる。メタはデータ(ビッグデータ)を獲得し、それを活用することで広告収入を得る。ユーザー増加が、メタの成長に不可欠だ。

しかし、動画をシェアするTikTokの急成長などSNS業界の競争は激化している。メタの個人情報保護体制にも不安がある。依然として、フェイクニュースやヘイトスピーチ摘発への取り組みは十分ではない。米欧では個人情報への保護が強化されIT先端企業への規制が強まる。

世界的に、メタバース分野の成長を目指して拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などの専門家人材の争奪戦も起きている。メタが技術開発を加速させつつ規制にしっかりと対応できるか不確定な要素は多い。どのような成長戦略を提示して多様なステークホルダーからの信頼を獲得するか、メタの実力が試される。

期待先行型の銘柄の下落リスクは高まる

米金融政策の転換が、メタの事業運営体制への不安を一気にあぶりだし始めた。事業運営面に不備や懸念があるにもかかわらず期待先行で株価が上昇した銘柄は多い。

例えば、個人投資家によるマネーゲームの対象となったゲームストップなどの“ミーム銘柄”がそうだ。その一つであるAMCエンターテインメント・ホールディングスの株価は、2020年末の2ドル台から2021年6月には60ドル台まで急騰した。2月9日の引け値は18ドル台と高い。特別買収目的会社(SPAC)に買収されて新規株式公開(IPO)を果たしたスタートアップ企業の中にも、同じことが当てはまるものがある。

事業内容を精査するよりも、“乗り遅れるな”という焦りの心理に影響されてリスクの高い(ハイ・ベータ)銘柄を選好した投資家は多い。2月3日の急落によってメタ株の割高感が解消されたとの見方はある。しかし、そう論じるのは早計だ。金利が上昇すれば、期待先行で株価が上昇した銘柄の下落リスクは一段と高まるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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