D2C 新興ブランド、規模拡大に伴い「成熟した」マーケティングチームを構築:多様なチャネルに対応できる人材を重視

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D2Cブランドが、従来型の小売ブランドに近い存在になりつつあり、それに伴い自社のマーケティングチームも刷新しようとしている。

過去数年間にわたり、D2Cブランドが成長の各段階で求める人材の種類は大きく変化してきた。これにはいくつかの理由がある。まず、iOS 14のアップデートを理由に、一部のブランドはメタ(Meta)への依存を減らし、数年前よりも早期の段階でより多くの種類のマーケティングチャネルをテストするようになった。2番目に、オンライン専業のD2Cモデルを捨て、卸売や自社独自の実店舗によって売上の増加をめざす新興企業が増加してきた。

これらの理由から、D2C新興企業、特に実店舗への展開を積極的に進めている企業は、いくつもの場所で自社のブランドボイスを確実に一貫させられるようなマーケティング人材の雇用を優先しつつある。男性用下着のマックウェルドン(Mack Weldon)、ウエスタンブーツを主力とするテコバス(Tecovas)、下着ブランドのパレード(Parade)など、成長中のD2Cブランドが出している最近の求人情報からは、マーケティングリーダーに対する需要の変化がわかる。現在雇用が増えつつある役割に、これは、新店舗への来店促進や、店舗内で独自イベントの企画を担当する小売マーケティングマネージャーがある。さらに、適切なインフルエンサーや新興企業を見つけ出し、共同ブランディングのイベントを企画するパートナーシップ担当ディレクターも求められている。また、ブランドボイスをチャネル間で定義するためのさまざまな補助的な役割にも需要がある。

ローファネルでの競合激化

マックウェルドンのCEOを務めるブライアン・バーガー氏は、紳士服ブランドである同社には、数年前までマーケティングチームがあったが、これは若いD2Cブランドが一般的に考えるマーケティングを反映したものだったと筆者に語った。「当社にとってマーケティングは成長のためのマーケティング、つまり、ローファネルの顧客獲得と維持、具体的にはメールによるリテンション(顧客維持)やロイヤルティプログラムを意味していた。それに加えて、本質的にはこれら2つのチャネルの需要を満たすためのクリエイティブチームや、一連のクリエイティブリソースを活用していた」。

しかしこの2年間、同社は、自社のマーケティングチームを、「成長したブランドがマーケティングについて考える方法、つまり、より統合された方法」に合わせて刷新することを使命としてきたと、同氏は述べている。同氏によると、その背景には、AppleのiOS 14のアップデートがあり、その結果、「全体的に、そして確実に、ローファネルのマーケティングチャネルにおいて、競合が激化した」と、同氏は述べる。

ブランドへの注力の高まり

これらの課題の結果として、マックウェルドンがどのようなブランドなのかをより的確に定義する必要に迫られたと、バーガー氏は語る。

そこで同社は、2022年の初めにマーケティングチームに2つの役職を追加した。最初の役職はブランドストラテジストで、「マーケティングのタッチポイントにかかわらず、我々が世の中からどう見えているかを、ブランドレベルで達成しようとしているレベルにする」ことを担当する。

2番目の役職はマーケティングオペレーション担当ディレクターで、同社が新しい種類の広告に進出し、より多くのクリエイティブアセットを必要とするなかで、キャンペーンレベルで物事がロジスティックに予定通り進んでいることを保証するのが役割だ。

「写真撮影を行う場合、誰かが突然、目的のものを制作するためにこんな種類のアセットが必要だった、などと言い出す状況が起こらないようにする必要がある」と、バーガー氏は述べる。

顧客体験を推進するための役割

マックウェルドンはこの1カ月で、マーケティングチームに新しく追加された2つの役割の求人を掲示した。その1つはカスタマーインサイトマネージャーで、職務内容の説明によれば「データと優れたストーリーテリングによってカスタマーインサイトを活性化し、マックウェルドンで消費者の声を代表する」。この役割は本質的に、同社の顧客層を調査し、マーケティング戦略や商品開発パイプラインなど、同社の戦略に必要な情報を得ることを担当する。

同社はさらに、リテールマーケティングマネージャーも雇用する。この役割は、「店舗内での顧客体験を推進し、革新することで、訪問者数の増加、ブランドへのエンゲージメント、顧客の獲得、顧客のロイヤルティなど、測定できる結果を生み出す」ために従事する。

同社がパンデミック前に保有していた店舗は、ニューヨーク市のハドソンヤードにある1店舗だけだった。現在は、6店舗を保有している。バーガー氏が認めるように、「人々が自然に我々の店舗を訪れるのが理想ではあるが」、同社は実店舗に人々を引き寄せるために、依然として店舗での独自イベントや体験、クリエイティブアセットを積極的に生み出さなければならない。

より多くのチャネルに関わるマーケティング戦略

マックウェルドンが雇用をめざしている役割は、ほかの主要なD2Cブランドでも同じように求められている。たとえば下着ブランドのパレードは、カスタマーインサイトの責任者を雇用しようとしており、ウエスタンウェア新興企業のテコバスは、はじめての小売およびイベントマーケティングマネージャーを雇用しようとしている。

多くのD2Cブランドは早期段階において、マーケティング活動の多くでGoogleおよびFacebookという2つのチャネルに依存する。iOS 14のアップデートのあとでこの傾向は変わりはじめ、D2Cブランドは、TikTokやインフルエンサーマーケティングのパートナーシップなど、より多くの種類の顧客獲得方法を早期段階でテストすることが多くなった。

すなわち、多くのD2Cブランド、特にiOS 14のアップデートの前に創設されたものは、マーケティングについて非常に二元論的な思考で考えていた。グロースマーケターは主に有料のソーシャルに注力してきた。そしてブランドが成長するにつれ、もっとも対応しやすい部分に対処することで、自社のマーケティング能力を拡大しようと考えることが多かった。

たとえば、リテンションマーケティングとは何よりも、メールによるブランドのマーケティングを意味していた。しかし現在では、自社のリテンション戦略により多くの方法を組み入れることを模索するブランドが増えてきている。その方法として、メールとSMSマーケティング、およびより堅牢なロイヤルティプログラムの構築などがある。たとえばインクルーシブファッションブランドのユニバーサルスタンダード(Universal Standard)は、シニアリテンションマーケティングリーダーの雇用を求めており、同社の職務内容説明によれば、この職はロイヤルティプログラムの見直しを担当するという。

実店舗の開設を重視

多くのD2Cブランドにおいて、自社のマーケティングチームを刷新するもう1つの要因は、より多くの店舗を開設することを重視するようになったことだ。特に、D2Cブランドの店舗数がわずか数店舗である段階を超えると、マックウェルドンと同様、イベントやパートナーシップによって来店を促進する方法をより戦略的に考えられるような、小売マーケティングマネージャーが必要だということに気づくようになる。

テコバスの最高マーケティング責任者を務めるジリアン・ケネディ氏は、5月に同社に入社してからマーケティングチームに2つの役割を追加したと語る。最初の役割は、パートナーシップおよびPR担当のディレクターだ。ケネディ氏によると、テコバスのソーシャルチャネルには、インフルエンサーや中小企業、そのほかの新興企業など、同社との協業を希望する依頼が殺到することが多いという。

「チームのリソースを増強することで、こうした問い合わせに対応できるだけでなく、より戦略的な活動が可能になる」と、同氏は述べている。

2番目の役割は、同社が依然として募集中のもので、イベントおよび小売マーケティングマネージャーだ。「当社の小売店舗は、当社のもっとも刺激的で自社を表現できるブランドのタッチポイントのひとつだ。しかし、当社が行えることはまだまだある」と、同氏は述べる。たとえば、さらに多くの店舗内イベントの主催だ。同社は現在25店舗以上を構えており、今年中に6〜8店舗を新設する計画がある。

デジタルが中心であることに変わりはない

全体としていえるのは、ケネディ氏は自身が入社したとき、テコバスには「確実な基盤」があったが、同氏は、「あらゆる消費者とのタッチポイントを有意義なブランド体験に変えられるような、エコシステムを構築する」ことを最優先に考えてきたという。

これは、今日のD2Cブランドが直面する課題を示唆するものだ。若いデジタルネイティブの新興企業にとって、自社ブランドをオンラインのみで構築することは困難だと証明されたことから、これらの企業は多くの見込み顧客とつながるため、より多くの場所に進出する必要があると考えるようになった。そして、これらの企業はその要求に対応できるマーケティングの人材を求めている。

しかしマックウェルドンのバーガー氏は、それが、D2Cブランドが従来型の小売ブランドになるということを意味するわけではないとしている。

同氏は次のように述べている。「当社にはビジネスとブランドの目的を戦略的にサポートする店舗があるが、これは単にできるだけ多くの店舗を設立すればいいというものではない。デジタルファーストのブランドは、すべてのものをeコマースのレンズを通してい見ているし、デジタル関連は、ブランドと消費者とのあいだの中心にある。店舗や卸売、そのほかあらゆるものがそれを支えている」。

[原文:DTC Briefing: How startups are building ‘grown-up’ marketing teams as they scale]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Mack Weldon

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