2022年秋アニメで放送され、アニメ好きの心を掴んだ『ぼっち・ざ・ろっく』。個人的には、ただ可愛いで終わらなかった成功の要因はバンドマンも共感できるくらいリアルだったことだと思う。事実、バンドマンである私(中澤)も「あるあるだなー」と思うシーンがいっぱいあった。
そんな本作の影響で「ギターが爆売れしている」というニュースを見かけた。記事によってはこれを機にバンドブームが訪れるとするものまである。マジで? そこでこれについて楽器屋に話を聞いてみたところ、「逆に今は売れてません」との回答が返ってきた。えええ!? どういうこと!?
・楽器屋に聞いた「今は売れない」理由
話を伺ったのは都内の大手楽器屋に勤務する喜多莉豆夢(きたりずむ)さん。部外者から見たら、今、楽器屋にはバブルが来ている気もするのだが、喜多さんは特に “キターン” としていない。一体なぜなのか?
喜多莉豆夢「確かに、主人公のぼっちちゃんが最後に手にするギターであるYAMAHAのパシフィカは、アニメ終了直後に爆売れしました」
──売れてるじゃないですか。
喜多莉豆夢「そして、一瞬で全カラーの在庫が壊滅しました。店舗の在庫ではなく、YAMAHA側の在庫が壊滅状態で供給がないので、予約が入っても出荷できない状態です。つまり、現状、1本も売れてません」
──作れば売れるんじゃないですか?
・売れてるのはパシフィカだけ
喜多莉豆夢「ギターを作るのってそこそこ時間がかかるので、すぐに出荷にならないことは確かです。一方で、ギターって大きな買い物だから、買ったらすぐ手元に欲しいじゃないですか? 瞬発力が大事というか。なので、いざギターが供給される頃には、アニメ熱が冷めて予約がキャンセルになっている可能性もあると見ています」
──他のギターの売り上げは上がってないんですか?
喜多莉豆夢「普段より売り上げが上がったのはパシフィカだけですね。それも今後が怖くなる原因の1つです。楽器を弾くことに興味を持ってくれればいいのですが……だからギターブームとかバンドブームとかはどうですかね」
──ぼっちちゃんはアニメの大半でGibsonのレスポールカスタムを使ってるのに不思議ですね。
喜多莉豆夢「まあ、Gibsonのレスポールカスタムは高いですからね。30万はさすがに出せないのかも。ただ、エピフォンだったらレスポールカスタムのモデルが10万円以内でもあるので、エピフォンがもう少し売れてもいいのでは? と思わなくもないです」
──ぼっちちゃんが自分のギターとしてパシフィカを選んだというのも大きいのかもしれないですね。
喜多莉豆夢「そうですね。パシフィカは良いギターですので、購入したら是非音楽を奏でることにもチャレンジしてみて欲しいです」
・『ぼっち・ざ・ろっく』の良さ
とのこと。ギタリストの私が言うのもなんだけどギターって難しい。何度弾けなくて悔しい想いをしたことか。しかし、それゆえに、ギターがウマイ人を見ると言葉以上のものが伝わってくる。その積み上げた時間に感動せずにはいられないのだ。
つまるところ、『ぼっち・ざ・ろっく』の感動とはそういうところにあるのではないかと思う。大きく世界が変わることはない。性格が変わることもない。しかし、「変わろう」として積み上げた時間は、ライブハウスや学祭のステージで少しずつ認められる。その意志はひょっとしたら持って生まれた明るさよりも尊いかもしれない。
はたして、何人がギターを弾き続けるだろうか? このブームでパシフィカを手にした人の中から、ぼっちちゃんが生まれることを願わずにはいられない。ギターソロをスキップしてる場合じゃないのだ。
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
画像:©はまじあき/芳文社・アニプレックス