不況がブランドの メタバース 支出に及ぼす影響:「メタバースプラットフォーム」のトラフィックは下降線

DIGIDAY

過去2年間、メタバースはマーケターお気に入りのお試しの場であり、ブランド勢はROIをほぼ気にすることなく、バーチャルイベントやNFTドロップに数百万ドルを注ぎ込んでいた。だが、不景気の波が高まるなか、メタバースから目に見える利益を創出する必要性が日を追うごとに喫緊の課題となっている。

この不景気が同スペースでの支出にどんな影響を及ぼすのか。4人のメタバース専門家が、米DIGIDAYに語ってくれた。以下が、押さえておくべき重要点の一部だ。

「メタバースプラットフォーム」はアウト、ユーザー生成コンテンツはイン

「仮想通貨の冬」真っ盛りのなか、ディセントラランド(Decentraland)やザ・サンドボックス(The Sandbox)といったブロックチェーンテクノロジーを基盤とするメタバースプラットフォームは、トラフィック数が激減している

その一方で、ロブロックス(Roblox)やフォートナイト(Fortnite)といったゲーム中心のバーチャルワールドのプレーヤー数は伸び続けている。2021年および2022年、ブランド勢は我先にと、メタバース内における権利の確保に努めており、ユーザー数のことは気に留めていなかったのかもしれない――だが2023年は、人々が実際に使っているプラットフォーム内でマーケティング費を使う公算が大きい。

近年、Web3スペースの盛衰により、「メタバース」という言葉の意味がやや曖昧になっている。一部専門家は、ブランド勢がこの先、実験的メタバースマーケティング予算を減らし、ゲーミング予算を増やすのは間違いないが、その結果自体――ブランデッドスペース、プロダクト、イベント――は基本的に変わらないだろうと、断言する。

「一応、呼び名こそメタバーススペースだが、いま現在はUGCゲーミングだと、我々は受け止めている」と、フォートナイトクリエイティブ(Fortnite Creative)のスタジオ、クリエーターズ・コープ(Creators Corp)の創業者マーゴット・ロッド氏は話す。「間違いなく、全体の支出額は減るだろうが、UGCゲーミングにおいては、その限りではない。同スペースには巨大なオーディエンスが付いており、他のゲーミング企業が作る新たなプラットフォームが登場してくる可能性も大いに秘めている」。

目に見える収益機会の創造が鍵

現在、メタバースプラットフォーム内における大半のブランドアクティベーションには、eコマースおよびバーチャルグッズ販売の直接的機会がない。ブランド勢はいまのところ、メタバースをむしろマーケティングチャネルとして見ている――つまり、ブランドロイヤルティやアウェアネスを高め、未来のテクノロジーに対するコミットメントを示す手段として。

だが、不景気の波が高まるにつれて、ブランド勢は今後、自身のメタバースアクティベーションに直接的コマース機会を含めないことで、目の前にある大金をみすみす取り逃がしていることに、気づき始めるはずだ。フォーエバー21(Forever 21)といった企業はすでに、ロブロックスのクリエーター勢と製品のデジタル化を望む企業勢とを繋げる橋渡しに特化した、バーチャル・ブランド・グループ(Virtual Brand Group)といった企業と組み、数百万ドル(数億円)相当のバーチャルグッズを販売している。

「下り坂の市場では、『私はいま、なぜこれをしているんだ?』と、自問する必要がある。その答えが、『持続可能な、収益創出事業を確立するため』ならば、素晴らしい」と、バーチャル・ブランド・グループのCEOジャスティン・ホックバーグ氏は話す。「しかし、もしもそれ以外ならば、その人はおそらく時間を無駄にしている」。

ブランド側の専門家らは、近い将来、バーチャルコマーシャルの直接的機会が確実に必要になると、断言する。

「こうしたスペースにおける最大の収益機会は、私が思うに、デジタル版コレクションアイテムの販売だ」と、ロブロックスに最近ローンチしたある大手ブランドの幹部は、匿名を条件にDIGIDAYに語った。「無論、各種チケットはそうだが、バーチャルマーチャンダイズも大きな部分を占めることになる」。

エンターテイメントブランド勢は消費財ブランド勢よりも支出増を継続

メタバースプラットフォームでアクティベートするブランドのタイプは、不況の風が強まるにつれて――そして、ブランド勢がメタバースの利益について徐々にだが確実に知識を深めるにつれて――変わることになる。

現在、インビザライン(Invisalign)からウォルマート(Walmart)に至るまで、あらゆる類のブランドがカスタムメタバースエクスペリエンスに投資している。だが、「ウォルマートランド(Walmart Land)」は2022年9月のローンチ以来、がらんとして、中身がすかすかで、アクティビティが明らかに不足していると、インターネット上で広く中傷されている。実際の話、多くのカスタマーブランドには単純に、バーチャル世界に人々を居住させ、そこを真に価値ある場にするために必要なIPが欠けている。

不況到来の可能性が高まるなか、エンターテイメントブランド勢は一方、今後もメタバースへの投資を続け、自社開発の豊かなIP資源を存分に活用するだろうと、一部専門家は予想する。ワーナー・ミュージック・グループ(以下WMG)はたとえば、最近、ロブロックス内に新たなエクスペリエンス「リズム・シティ(Rhythm City)」をローンチしており、そこを足がかりにして今後、デジタルマーチャンダイズの販売や、WMG所属アーティストを擁するバーチャルコンサートの開催を考えている――これらは「ウォルマートランド」といったエクスペリエンスに欠けている、目に見える収益機会の類に他ならない。

「パナソニックの電池でも何でもいいが、とにかく、彼らはエンターテイメントブランドではない。それなのに、どうしてわざわざ、自社だけの独立したエクスペリエンスを築く? という話だ」と、メタバース開発スタジオ、デュービット(Dubit)のCEOマシュー・ワーンフォード氏は話す。「いや、彼らがそうしたスペース内でアウェアネスの獲得を目指したり、自社の電池がどれほど素晴らしいのかを伝えるストーリーを語ったりするべきではない、とは言っていない。ただ、そのために何十万ドル(何千万円)もの大金を動かして、わざわざ何かを築き、それを維持するのは、得策ではない」。

[原文:How the recession could impact brands’ metaverse spending

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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