「今年の最重要課題は メタバース で、空間的広がりのある体験の構築に注力する」:スマートメディアテクノロジーズ CEO タイラー・メビウス 氏

DIGIDAY

マーケティングやメディアの世界におけるNFTは総じて空振りというのが大方の評価で、暗号マニアがどれも似たようなバーチャルアートに多額の暗号通貨をつぎ込む領域と見られている。

そのような時代、すなわちタイラー・メビウス氏がNFT1.0と呼ぶ時代は急速に終わりを迎えつつある。そして2.0時代の到来により、マーケターやエージェンシーはWeb3テクノロジーを次世代型ツールとして自在に使いこなし、ロイヤルティを高めたり、あるいはデータを集めたりするようになる。ここ数ヶ月で、すでに多くの事例現れている

メビウス氏は5年前にスマートメディアテクノロジーズ(SmartMedia Technologies)を創業し、CEOに就任して現在に至る。従業員は約100人。アドテクとブロックチェーン技術を融合させる、まぎれもないWeb3企業だ。

同氏はインターネットの黎明期からこの業界に身を置き、アクアンティブ(aQuantive)の立ち上げにも携わった。この社名を覚えているだろうか。当時、ネット広告をいち早く扱いはじめた最初のエージェンシーのひとつである。メビウス氏は、後にアモビー(Amobee)に買収されるアドテク企業のアドコニオン(Adconion)の創業者でもある。そんな同氏に、NFTの開発や活用法についてきいた。

なお、インタビューの内容は、紙面の制約と読みやすさを考慮して編集されている。

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――御社のNFT開発は現在どの段階にあるのか? 取引のあるクライアントは?

この5年をかけて、エージェンシー、ブランド、クリエイター向けに、エンタープライズ仕様のWeb3プラットフォームを構築してきた。彼らにはもっと手軽にWeb3を活用してほしい。さらにいえば、ブランドやエージェンシーだけでなく、一般のユーザーにも容易に手の届く技術にしたい。

弊社はわずか2タップで作成できる管理委託型ウォレットを提供している。スマートフォンさえあれば、誰でも人生初のWeb3ウォレットを保有し、人生初のNFTを取得できる。また、デジタルクーポンや実店舗を訪れた際に獲得できるロイヤルティトークンなどの形で、そのNFTを実際に利用することもできる。これまでに、アクセンチュア(Accenture)やユニリーバ(Unilever)などと連携してきた。つい最近では、ヴォーダフォン(Vodafone)が欧州全域でおこなったウォレットの実装を支援した。このアクティベーションで、25万件のウォレットが作成された。現時点で、弊社プラットフォーム上のウォレットは600万を超えている。

――このような形式のマーケティング施策にブランドを勧誘する際、課題となるのは何か? 今後もさらに啓発活動が必要だと考えるか?

この20年、マーケターたちは消費者の受信箱に電子メールを送るため、その同意の取りつけに多くの時間を費やしてきた。そしていま、彼らはNFTを新たなCRMチャネルと認識している。Web3を新しいチャネルと見なし、ユーザーのウォレットにプロモーション目的のデジタルトークンやクーポン、さまざまな特典、あるいはロイヤルティコインなどを送れるよう、今度はその同意を取りつけることが必要だと考えている。電子メールのデータベースに格納したアドレサブルなメールアドレスと同じように、それはアドレサブルなウォレットなのだ。ユーザーの説得は昔ほど難しくはない。1.0時代にはNFTドロップ(NFTコレクションの公開)というひとつの活用法に集中したが、マーケターたちも今度はもっと広範なテクノロジーや機能に目を向けている。

――Web3について、ブランドはどのような活用法を考えているのか?

活用例はいくらでも思いつく。たとえば、デルタ航空やユナイテッド航空を利用して、生涯続くライフタイム資格を取得したとする。もしこのステータスをNFT化して、自分の息子や娘に引き継ぐことができたらどうだろう。会員権やロイヤルティクラブの特典なども、その来歴と所有権を証明することができる。

ふたつ目として思いつくのはNFT発券だ。これはWeb3を大きく解放する活用法かもしれない。たとえば、ローリングストーンズのコンサート会場で、スマートフォンを取り出し、QRコード付きのNFTをスキャンして入場する。NFTをスキャンしてチケットと交換する際、同時にデジタル形式のチケットが作成されれば、記念品として永久に保有できるだろう。

それだけではない。NFTは状態を変え、デジタルグッズや売店でコーラが2ドル引きになるクーポンにもなりうる。あるいは、ミック・ジャガーがステージ上で歌を歌い、「この曲は君たちのための曲だ」といい、その瞬間自体をミントして、その楽曲を3万8000枚のNFTチケットに埋め込むといったことも可能だろう。その夜、その会場にいた3万8000人の観客だけがその楽曲を手に入れ、永遠に保有し、愛でることができるのだ。ストーンズにしても、NFTであればこそ、その真正性を疑わない。二次流通を許可することもできるし、その売上の一部を任意の慈善団体に寄付することもできる。

――Web3では、ほかにどのようなことに取り組んでいるか?

弊社プラットフォームのプロダクトロードマップだが、今年の最重要課題はメタバースで、空間的広がりのあるウェブエクスペリエンスの構築に注力する。メタバースの未来は、購入体験の強化と小売の拡大にあると思う。ブランドは、オーディエンスを集めるために、ディセントラランド(Decentraland)やロブロックス(Roblox)などのユーザー基盤に依存する必要は必ずしもない。広告や自社のソーシャルチャネルを活用すれば済む話だ。自社のブランドエクスペリエンスでメタバースを埋めることもできる。我々はむしろカスタム環境の構築に重点を置いている。鍵となるのはウォレットの相互運用性を確保することだ。たとえば、物理世界のウォルマートで取得したバーチャルクーポンをメタバース環境に持ち込み、そこで換金したり商品と交換したりできるようにすることだ。こうした物理世界と仮想世界の橋渡しにも力を入れたいと考えている。

[原文:How NFTs could evolve for brands — now that marketers know what they actually are

Michael Bürgi(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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