スキンフルエンサー と遠隔診療によって、トレチノインが熱狂的なトレンドに

DIGIDAY

半世紀以上もの間、トレチノインはニキビの治療薬として広く使用されている。しかし、処方薬のパッケージや、ニキビが恥ずかしいものとして捉えられてきたことから、長らく薬箱の中に隠されてきたものだった。時代は変わって、ソーシャルメディアでスキンケアについてオープンに議論されるようになり、いまではステータスシンボルになっている。

「トレチノインのレベルに一段階上がる、というのが人々の感覚だ」と語るのは、スキンケア・インフルエンサー(TikTokのフォロワー数336,000名、インスタグラムのフォロワー数226,000名)であり、デュー(Dieux)の共同創業者であるシャーロット・パレルミノ氏だ。「Tret(トレチノイン)はクール。トレチノインを使用していれば、合法であるという印象」。

同氏はインスタグラム、TikTok、Twitterで活躍するスキンフルエンサーのひとりで、いま話題のレチノイン酸(米国では処方箋が必要)のベネフィットについて広く訴求している。有効な成分について消費者が熱心に研究するようになり、トレチノインのグーグル検索は過去1年間で12.7%増え、来年には25%増加すると、トレンド予測を手掛けるスペート社(Spate)はみている。このトレンドに寄与しているのは、科学にフォーカスを当てたインフルエンサーの人気の高まり、遠隔診療のブーム、そしてニキビ以外の面でのトレチノインへの関心だ。

パレルミノ氏がトレチノインを初めて使うようになったのは2019年で、その頃からトレチノインに関する情報をTikTokやインスタグラムに投稿するようになった。スキンテレクチュアルな(スキンケアに精通した)オンラインコミュニティーでトレチノインが支持されるのは、しわの改善、細胞のターンオーバー、肌のきめなど、ニキビ以外のベネフィットだが、同氏も30代に入ってからこのような話題を投稿し始めた。トレチノインの話題を取り上げるインフルエンサーは、医師やエステティシャンなど専門家から、製品の使用感をシェアする個人まで幅が広い。

「インスタグラムには、多くの皮膚科医や科学者が増えた。そして、よく研究された成分で話題に上るのは、トレチノインであることが多い」。

ソーシャルメディア上でニキビについてオープンに話すスキンフルエンサーが増えたことも、この製品の知名度を高めている。

TikTokやインスタグラムでニキビ治療について投稿するスキンフルエンサー、マリア・ナルテ氏によると、トレチノインは「もっともポピュラーなトピック」だ。トレチノインは「扱い方が非常にむずかしい製品」であるため、オーディエンスが興味を持っているという。スキンケアのルーティンにどのように組み込むか、そして炎症や他の成分との化学反応を防ぐにはどうすればいいか、人々は関心を寄せている。

パレルミノ氏などのインフルエンサーは、トレチノイン開発にまつわる暗い歴史について指摘している。トレチノインを開発した皮膚科医師のアルバート・クリグマン氏はかつて受刑者を対象に臨床実験を行っていたことがあり、最近では同氏との関係を断つよう大学側に呼びかける声も上がった。

以前であれば、医師のもとを訪ねる必要があったトレチノインを入手しやすくしたのは、ナークス(Nurx)、アポストロフィー(Apostrophe)、かつてロリー(Rory)の名で親しまれたロー・ダ-ム(Ro Derm)、ハーズ(Hers)、ヒムズ(Hims)、キュロロジー(Curology)、エージェンシー(Agency)など、遠隔診療のスタートアップ企業だ。これらの企業はスキンフルエンサーを活用したり、広告に投資するなど、製品情報を広く伝えることにも寄与している。パレルミノ氏はアポストロフィーのスポンサードコンテンツ、ナルテ氏はナークスのスポンサードキャンペーンに協力し、トレチノインを宣伝してきた。

「遠隔診療ブランドが大幅に増加していることは間違いない」とパレルミノ氏は語る。「これらのブランドは、消費者への啓発方法を完全に塗り替えている」。

キュロロジーとエージェンシーのアソシエイト・メディカル・ディレクターを務めるホイットニー・トルピンルド氏は、このように語る。「最近はスキンケアの教育プログラムに、インスタグラムやTikTok、ユーチューブなどのプラットフォームから簡単にアクセスできるようになった。人々はトレチノインのような処方薬の成分の効果について学び、参加したいと考えている」。

「誰もがトレチノインを、ニキビ製品の聖杯のようなものとして語っている」と指摘するのはナークスで遠隔診療に携わる医師、ジル・ボロニエク氏だ。ソーシャルメディアが人々の関心をかき立てるのを目の当たりにしてきたという。「処方薬と同等の有効成分を配合したレチノイドを求める人がよく来る。彼らの多くは、ソーシャルメディアを見て来るのだろう」。

避妊薬の処方で遠隔診療に参入したナークスは、2021年春にスキンケアも手掛けるようになった。ニキビとアンチエイジングの両方で、処方薬を提供している。

遠隔診療を提供することで、通常であれば皮膚科医には行かないような消費者にも裾野が広がっていった。

「住んでいる地域にもよるが、皮膚科医にかかると数カ月を要したり、出会えない場合もある。製品を入手しやすくなることで、患者は興味を持つようになる」とボロニエック氏は語る。

トレチノインの価格は、手が出ないほど高くなり過ぎることもある。保険も控除も適用されないと、チューブ1本で最大200ドル(約24,000円)に上るのだ。より安価で買い求めるためにメキシコまで旅したことを投稿した米国在住のスキンケア・インフルエンサーもいた。

パンデミックのあいだ、科学的な裏付けのあるスキンケアがますます重視されるようになった。とくに科学にフォーカスしたインフルエンサーが関心を寄せ、誤った説を暴いていった。

「パンデミック後に、人々は科学的な裏付けのあるものを探すようになった。そして多くの化粧品会社が、訴求内容を必ずしも徹底的な調査によって裏付けてはいないことも、極めて明白な事実だ」とパレルミノ氏は語る。

「多くの一般人が科学に興味を持ち始めているため、ブランドは製品にまつわる科学を消費者に啓発することに、もっと投資しなくてはならなくなるだろう。しかもそれが誤解を招かないよう、薄い内容にならない伝え方で」とナルテ氏。

すべてのOTC(一般用医薬品)ブランドが、スキンケア処方薬を競合としてとらえているわけではない。デューのインスタグラムアカウントでは、同ブランドのセラム(美容液)とトレチノインの処方薬の両方を使うスキンケア・ルーティンを薦めており、これらを併用できることを強調している。

「結果を期待する人に、訴求できるのは処方薬だ。多くの化粧品は、ソフトな主張しかできない」とパレルミノ氏は話す。

[原文:Tretinoin emerges as trendy cult product thanks to skinfluencers and telemedicine

LIZ FLORA(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)

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