高級時計業界は激動の時代を迎えている。市場に出回る時計の数が大幅に増加して、投資家のあいだでは時計マーケットプレイスへの新たな関心が高まっているにもかかわらず、何もかもが順調に進んでいるわけではない。
ドイツのクロノ24、従業員を解雇
市場の変化が垣間見られるのは、中古時計販売リーダーの1社であるドイツのマーケットプレイス、クロノ24(Chrono24)の動向だ。1年半前にはシードで1億800万ドル(約142億円)を調達して新規で100人を追加採用したが、現在、時計の価格の下落と不安定な市場を理由に主にドイツで65人の社員を解雇した。
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クロノの共同CEO、ティム・ストラッケ氏は解雇に関するプレス発表で、この業界は「不安定な」時期にあると述べている。しかし、この発言はわずか数カ月前に同氏が述べたこととは対照的である。ストラッケ氏は、2022年11月、時計の売上が好調だった1年を経て、この業界は「非常に安定しており、不安定なアセットクラスではない」とGlossyに語っていた。また、2022年に株式よりも時計のほうが優れたパフォーマンスを出したポートフォリオを持っていた人々を知っているとも述べていた。
好調だった2022年からの変化
ストラッケ氏の発言は、2021年と、クロノ24が販売したすべての時計の総額が前年比で62%増加した2022年の大部分においては妥当だったかもしれない。しかし、先月、高級時計の価値が大きく変動した。ロレックス(Rolex)やパテック フィリップ(Patek Philipp)などの主要な時計ブランドの人気モデルの価格は流通市場で25~35%下がっている。また、同時に新品の高級時計の需要が高まり、全体的な中古市場規模が拡大して様々な中古市場に商品が殺到するようになった。リュクスコンサルト(Luxe Consult)によると、中古時計市場は今後10年間で850億ドル(約11兆円)の市場になると予想されている。
この需要の増加は、セラーがクロノ24のようなマーケットプレイスに群がり、最大の支払額を得ようと在庫を放出したことに対応して供給の増加につながった。2021年にはディーラーはロレックスやパテックの入手困難な時計に最高額を提示していたが、彼らは供給を過度に修正し過ぎた。かつては希少だったこれらの時計が2022年末までに中古市場にかなり多く出回るようになり、インフレが進むにつれて超高級時計を購入できる買い手は少なくなった。
言い換えれば、8000ドル(約105万円)のロレックスの新品を購入できる買い手は、2倍の価格で同じ時計の中古品を購入することはできないということだ。中古市場の時計の価格は最高値を払える顧客の数が少ないときには下落する。また、ディーラーが昨年プレミアム価格で購入した時計は現在でははるかに低いマージンで販売されている。
市場の新品と中古品の供給状況
香港の時計マーケットプレイス、リストチェック(Wristcheck)のCEO、オーステン・チュー氏は、トップブランドが毎年製造する限られた数の時計と比較して、市場に殺到する中古時計の量が中古時計の価格に予測可能な影響を及ぼしていると語っている。
「市場はかなり大幅に修正された」とチュー氏。「中古時計の価格は50%ほど下落している。年間の製造量はオーデマ ピゲが5万個、パテックは7.5万個だ。これらの企業が新品の時計の需要に対応して十分な数を製造することは物理的に無理だ」。
自社製品の再販に参入したロレックスの影響
ロレックスが自社の中古時計販売を開始するなどのほかの要因も時計再販市場の売上に影響を及ぼす可能性がある。ロレックスが最初にそのプログラムを発表したとき、ストラッケ氏は中古品を購入する場所が増えるのはより広範な時計市場にとって良いことだとGlossyに語った。しかし、ロレックスはクロノ24の売上の44%を占めており、ロレックスからロレックス製の中古時計を入手するという正規の方法の存在は再販市場の弱点のひとつである。
ストラッケ氏はGlossyに次のように述べた。「2022年は興味深い年だった。高級時計市場がこれまで以上に一般的な会話で注目されたのを目撃したからだ」。
[原文:Layoffs at Chrono24 show the volatile nature of the luxury watch market]
DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)