NFT の不確実性は高まるも、タイムは1000万ドル以上の利益をあげる:「クリプトネイティブなコミュニティに価値がある」

DIGIDAY

ブロックチェーン技術というピカピカの新しいおもちゃが、時間とともにかなりの大金へと姿を変えた。

米出版社タイム(Time)のプレジデント、キース・グロスマン氏によると、同社は最初のNFT(非代替性トークン)プロジェクトを立ち上げてから14カ月で、2万以上のNFTを販売し、1000万ドル(約12億5000万円)を超える利益をあげた。NFTがセカンダリーマーケットで再販され、再販ごとに同社がロイヤリティを得ていたことがこの高い利益率の要因のひとつだ。タイムのNFTの売り上げの60%はセカンダリーマーケットで発生し、その総額は5000万ドル(約62億5000万円)にのぼるが、同社のビジネスに組み込まれたロイヤルティ構造のおかげで、自社のエコシステム外で発生した売り上げからその一部を得ているのである。

2022年4月初めに、当初290万ドル(約3億6250万円)で落札された世界初ツイートのNFTが売り出されるも、最高入札額はわずか277ドル(約3万5000円)にしか達しなかったなど、NFT分野の不確実性が高まっている中での、タイムのこの成功である。これをうけて人々は、金銭的利益を得る可能性以外の購入理由を探し始めた。

「ブロックチェーンビジネス」という新境地

過去1年間にタイムが手にしたブロックチェーン関連の収入は、NFTだけではない。オプションが2021年4月に初めて提供されて以降、2つの広告主(いずれも暗号通貨投資会社)が暗号通貨での支払いを実施している。グレイスケール(Grayscale)はビットコインで、ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)はイーサリアムで。その合計は100万ドル(約1億2500万円)を超える額だが、同社としてはこれらの取引による総収入がいくらであったかは公開しないという。

この1年余りの間に、タイムはブロックチェーンビジネスを一挙に展開した。

  • 2021年3月、タイムは最初のNFTプロジェクトとして、数十年前の雑誌の表紙をデジタル化した3部作を売り出し、最高値がついたものは約25万ドル(当時のレートで135ETH、約3125万円)で売れた。
  • 2021年9月、タイム誌はタイムピーシーズプロジェクトを立ち上げ、暗号通貨に熱心なオーディエンスをDiscordベースのひとつのクラブ(現在4万人のコミュニティメンバーを擁する)に招集し、すべてのNFTドロップを統一されたタイムピーシーズ(TIMEPieces)という見出しでラベル付けしている。

タイムピーシーズはこれまでに、タイム独自のコレクションを4つと、音楽アーティストのティンバランド氏と、Robotos NFTコレクションを手掛けるアーティストのパブロ・スタンレー氏とのコラボレーションを2つ、ドロップしている。6番目のコレクションでありティンバランド氏とのコラボレーションでは初となる音楽NFTプロジェクト「The Beatclub」は、4月28日にドロップされた。252のNFTが購入可能で、発売に先駆けて2000人が事前登録し承認された(ボットや悪質なアカウントを避けるため)。

タイムはこれらのコラボレーションを、ほかのクリプトネイティブなオーディエンスにアプローチしてタイムピーシーズを紹介するための手段として活用している。たとえばRobotosは、NFTホルダー1万人を含む7万人のコミュニティを持っている。こうしたグループにリーチするため、NFTでの連携に続いて、タイムスタジオ(Time Studios)が参加し、RobotosのコレクションであるイラストIPからテレビ番組を制作した。タイムによると、タイムスタジオはこれまでに本プロジェクトを含めて4つのNFTコミュニティと提携し、動画というかたちで彼らのIPに命を吹き込んできたという。

暗号資産についての学習曲線

だが成長には犠牲も伴う。2021年9月のTIMEPiecesは発売後45秒で完売したが、その後ボットやガス戦争にさらされた、とグロスマン氏は話している。ボットやバイヤーの急増によってミント(mint、mintingから転じてNFTの作成・発行の意)の優先順位付けに関する需要の変化が生じたため、NFT購入に伴う手数料が上昇したのだという。

新しいテクノロジーの導入には学習曲線がつきものだが、タイムのデジタル担当プレジデントのバラット・クリシュ氏によると、彼のチームがその後ドロップの独占性と安全性を優先させるようになったのは、この出来事が原因だったそうだ。

「開始当初はすべての人に開放することで包括的なやり方をめざしたが、それは甘かった。ガス戦争を招く結果になって、そこから多くのことを学んだ」とクリシュ氏。「今は登録手続き(を必須としたこと)のおかげで、我々の製品ははるかに安全になった」という。また同氏のチームは、抽選オプションを追加したり、ドロップに関するタイムラインを数日ほど遅らせるなどして、人々が世界中のどこにいても参加できるようにした。

ブロックチェーン事業と出版事業の分離

「タイムピーシーズコミュニティは、タイムのWeb3ビジネスの成長における最大の立役者だが、グループの成長のためには手段を選ばないというのは、我々の目指すところではない。とりわけ、現在のタイム誌の読者をコミュニティのメンバーに取り込むことは、目標としていない」と、グロスマン氏は語る。クリプトネイティブではない読者がグループに参加しても得るところはさほど大きくはないので、「タイムピーシーズをより大きなタイムというブランドに取り込んで価値が薄まりでもしたら、それこそタイムピーシーズの成功が台無しになってしまう」のだという。

実際のところ、タイム誌およびそのオンライン版の読者と、TIMEPiecesコミュニティに参加する人々との間にクロスオーバーはほとんどなく、推定1%以下だとグロスマン氏は考えている。したがって、NFTを所有する特典としてタイム誌の無料購読を与えたとしても、彼らはWeb3を通じて新たにタイムのビジネス生態系に参加するのであって、タイム誌の有料購読ビジネスを共喰いするような結果にはならないのだ。

タイムによれば、現在までに、同社のNFT(平均販売価格1100ドル[約13万7500円])を所有する1万2000人のうち6000人が、自身の仮想通貨ウォレットをTime.comに接続し、無料のデジタル購読(購読料は平均で月額24ドル[約3000円])にアクセスしたという。

メンバー限定のイベントや抽選への参加や、グロスマン氏および彼のチームとの定期的な交流などを通じてTIMEPiecesコミュニティを育てることは、NFTプロジェクトのパフォーマンス向上にも役立っている。

コミュニティの「規模」に固執しない

メディア企業アドバンス・ローカル(Advance Local)内のテック&メディアインキュベーターであるアルファ・グループ(The Alpha Group)でシニアディレクターを務め、テキストサブスクリプションプラットフォーム、サブテキスト(Subtext)の共同設立者でもあるデビッド・コーン氏によると、限定版や希少な一点もののNFTが数千ドルもの価格で販売されるのと同じように、オーディエンスの規模が小さいほど、メンバーであることの価値は高まるという。それは、特別ゲストスピーカーに質問することができたり、抽選でタイムのイベントのチケットを入手できるなどの特典をめぐる競争が緩くなるからだ。

ビジネスの観点からいえば、より小規模で精選されたグループのほうが、そのブランドのファンではあるが個別の交流などは一切ない大規模グループよりも、定着率ははるかに高いと、コーン氏は指摘している。

「このグループの規模の調整は、自然発生的に成しえるもので、消費者の意思決定プロセスの対応スピードを超えて、無理に推し進めることはしない。我々の世界におけるWeb2.5とはそういうものだ。両方のコミュニティを無理やり成長させるのではなく、双方の資産を利用してコミュニティの持つ価値を創造することなのだ」。そうグロスマン氏は語っている。

[原文:One year after embracing the blockchain, Time has earned more than $10M in profit

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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