メタバース での持続可能性を推進するH&Mの狙い

DIGIDAY

オンラインで4番目に人気のあるブランド、H&Mはこの6年間、仮想衣服とゲームに進出している。コア製造の一部をバーチャルに移行する計画はないというが、メタバースでのコンテンツの主なフォーカスは持続可能性である。

H&Mはインディテックス(Inditex)の成長に追いつくのに苦労しており、デジタル製品の範囲を拡大している。第4四半期である9月〜11月のH&Mの純売上高は、1年前の568億スウェーデンクローネ(約7203億円)から10%増加し、625億スウェーデンクローネ(約7683億円)であった。それと比較して、インディテックスは2022会計年度の最初の9カ月間で33億ドル(約4220億円)の純売上高を記録し、昨年の28億ドル(約3581億円)から24%の成長を見せている。

Robloxのゲーム体験やフィジタルコレクションを展開

H&Mは、1月4日、Roblox(ロブロックス)で没入型の「循環型」ゲーム体験であるループトピア(Loooptopia)をローンチした。このゲームではプレイヤーはコインを集めて、さまざまな色や素材や質感などの生地が詰め込まれたルートボックスを開けることができる。そして生地を機械に入れると異なるゲーム内デジタル服を1000点以上作れる。これは持続可能性にフォーカスしたH&Mの最新デジタルファッションのローンチだ。また、H&Mは12月にインスティテュート・オブ・デジタルファッション(The Institute of Digital Fashion)と協働して、拡張現実で試着できるデジタルファッションと店頭で販売する実際の衣服を含む3部構成のフィジタルコレクションを作成している。

H&Mのメタバースブランドエクスペリエンス担当グローバル責任者、マックス・ヘアバウト氏は次のように述べている。「Robloxでの(新しい)体験を通じて、楽しい方法でプレイヤーに生地と模様を試してアバター用の仮装ガーメントとワードローブを作成してもらえる。今後数年間、H&Mはこの急速に拡大している仮想現実と拡張現実の大空間を探求し続ける」。ヘアバウト氏はゲーム会社のトカボカ(Toca Boca)での勤務経験があり、その後ゲーム戦略についてブランドに助言するようになった。

「若い世代に見られるアイデンティティの二重性にファッションのカルチャー全体で次に起こることを垣間見ることができる」とへアバウト氏。同氏によると、循環性はH&MのRobloxゲームの重要な要素だという。ゲーム体験のおかげでプレイヤーは服をリミックスしたりリサイクルしたりして、超レアなアイテムを獲得し、唯一無二の作品を作ることが可能になる。

持続可能性とメタバースを結びつける試みの紆余曲折

しかし、H&Mの持続可能性とメタバースをつなげる取り組みは混乱の軌跡をたどっており、最新のゲーミング事業はその延長のようである。当初、H&Mのメタバースとデジタルファッションの実験は無難なものだった。スウェーデンの小売業者であるH&Mは、2007年にゲーム会社のエレクトロニックアーツ(Electronic Arts)とのコラボレーションによりザ・シムズ(The Sims)の仮想衣服を初めて発売した。H&Mは、2020年のパンデミックの最盛期にそれが流行るまでデジタルファッションの構想を棚上げしていた。

H&Mがメタバースアクティベーションと持続可能性関連の表現を組み合わせ始めたのは2021年のことだった。2021年に女優のメイジー・ウィリアムズ氏をデジタルアバター付きの持続可能性アンバサダーに任命したが、その分野での実績のないウィリアムズ氏の起用にサステナブルファッションの専門家から抗議の声が上がった。また、同年、H&MはPETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)承認のデジタルファッションコレクションと、任天堂のゲーム「どうぶつの森」向けの同社初の「ループ(Looop)」デジタルファッションアイランドのコンセプトを発表した。これは、2023年のRobloxでのローンチと同様にゲーマーコミュニティでの循環性を促進する狙いがあったが、その概念が物理的な製品範囲に拡大することはなかった。

しかし、H&Mは同社の循環性の取り組みが物理的な範囲にまで及ぶと断固主張している。へアバウト氏は次のように語っている。「テクノロジーは顧客と関与する新しい方法を可能にするだけではなく、より循環的なファッション業界への移行のツールでもある。たとえば、当社は、製品のデザイン段階を、スケッチや実際のサンプルを使うという従来の方法から仮想デザイン製作を使う方向に移行した」。

12月にH&Mと協力してこのコラボレーションを行ったインスティテュート・オブ・デジタルファッションの創設者、リアン・エリオット・ヤング氏は、H&Mは持続可能性にフォーカスしたWeb3企業と提携する取り組みを行っていると述べている。「H&Mのようなブランドがメタバースのような新しい分野に参入するとき、特に持続可能性が原動力である場合にはその理由に対して常に厳しい批判が生じる。Web3のファンダメンタルズはファッションの持続可能性問題に対する解決策であるため、H&Mのローンチが段階的かつ総合的であり、同時にオーディエンスにすぐに理解されるナラティブに基づいていることが重要だった」。

H&Mのグリーンウォッシュに関する問題

グリーンウォッシング疑惑と大量の売れ残り商品に直面して、H&Mはサプライチェーンの文書化に注力したため、持続可能性に関するマーケティングと表現は2020年頃に増加した。ニューヨーク・タイムズ紙によると、H&Mは年間推定30億点の衣服を販売している。2019年には40億ドル(約5115億円)相当の売れ残りの衣服を保持していた。ノルウェー消費者保護局がヒグ・インデックス(Higg Index)を用いたグリーンウォッシングについて初めてH&Mの調査に乗り出したのも2019年だった。

それから4年が経過、H&Mはノルウェー消費者保護局とオランダ消費者局から2件のグリーンウォッシングで調査されている。2022年7月、米国の消費者は同社のコンシャスコレクション(Conscious Collection)に関するグリーンウォッシングでH&Mに対して訴訟を起こした。現在、H&Mはノルウェー市場にどれだけの売れ残り在庫があるかを巡ってノルウェー当局と激しい争いを繰り広げている最中だ。

このような調査や訴訟への対応に合わせてH&Mは持続可能性に結びつけられたデジタルファッションコレクションを発表した。2022年1月には仮想ファッションマーケットプレイスであるドレスX(DressX)と提携して、デバイデッドバーチャルコンペティション(Divided Virtual Competition)をローンチ。ドレスXは持続可能性に基づいて構築されており、デジタルファッションを二酸化炭素排出の影響のない代替ファッションの選択肢として推進している。「物理的なアイテムの製造と比較してデジタルアイテムの製造は二酸化炭素排出量を平均97%削減できる」と、ドレスXの最高持続可能性責任者、オルガ・シェルニシェヴァ氏は同社の内部計算を引用して述べている。

売れ残り在庫と過剰製造の問題に引き続き取り組んでいるH&Mにとって、デジタルファッションはデジタルクリエイティビティの実習といったところだ。現時点では同社には既存の製造を仮想オンリーの商品に移行する計画はないという。

「拡大しつつあるファッションの仮想次元はH&Mにとってエキサイティングな将来の機会を生み出すものであり、物理的なコレクションに対して活気あふれるバーチャル版を作成することが可能になる」とヘアバウト氏は語った。

[原文:H&M is promoting sustainability in the metaverse

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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