Cookie 代替手段、広告主たちの関心が低下している?:GoogleのCookie廃止延期に伴って

DIGIDAY

独立系のメディアエージェンシーであるメディアストラクション(Mediastruction)の創業者で、最高経営責任者(CEO)を務めるマリールイス・スノウマン氏は、約2カ月前、GoogleがChromeブラウザでのサードパーティCookie廃止を2023年末まで延期するという情報を初めて耳にした。このとき、スノウマン氏は、廃止延期の表明により、クライアントによるCookie代替技術の試験運用が減速するのではないかと考えた。Cookie廃止に執行猶予が与えられてから2カ月あまり、脱Cookieという風船は次第に萎みつつある。

自動車ディーラーから地方銀行まで、さまざまなクライアントと仕事をするスノウマン氏は、「Cookieの無効化について、クライアントからの問い合わせがなくなった」と述べている。

一方、パブリッシャーたちも、この1年余をかけて開発してきたCookieを使わない広告商品や広告技術が、勢いを失いつつあるようだと口を揃える。英オンラインメディアのインディペンデント(The Independent)で米国担当シニアバイスプレジデントを務めるブレア・タッパー氏は、同社がファーストパーティデータから構築したコンテクスチュアルなオーディエンスセグメントについて、「Cookieレスに移行する緊急性は薄れたのだと思う」と述べている。

広告主の動きを注視するパブリッシャー

どんなWebサイトにとっても、Cookieは行動ターゲティングで広告収入を稼ぐための主要技術であり、その完全廃止が延期されると知るや、パブリッシャーたちはほぼ一様に安堵のため息をついた。実際、多くのパブリッシャーは、Cookieへの依存から完全に脱却する準備ができていなかった。また、Googleが提案する脱Cookieのターゲティング技術がパブリッシャーの広告事業に与える影響についても、少なからぬ混乱が生じている。

ただ、パブリッシャーの多くは、Cookie廃止が延期されても、コンテクスチュアルターゲティングやファーストパーティデータを用いた広告商品に対する広告主の関心に陰りはないし、自らもそのような商品の開発や提供を継続する方針だと断言する。その反面、広告主がCookieを使用しない広告への投資に二の足を踏むのではないかと危惧する声も一部にはある。フォーブス(Forbes)で、プログラマティック事業の運用と戦略を担当するシニアバイスプレジデントのレベッカ・ソロルサノ氏によると、パブリッシャーのあいだでは、「脱Cookieが減速するのか否か、広告主の今後の動向が議論の的になっている」という。

メディアストラクションのスノウマン氏は、「脱Cookieへの移行を先延ばしにするエージェンシーやブランドは増えてくるだろう。なぜなら、当然ながら移行を行うためにはコストが発生し、業績にも影響するからだ」と指摘する。なお、同エージェンシーが抱える顧客に抱えるクライアントの多くは、四半期ごとの業績に目配りせざるを得ない中堅企業だ。

「再び追い込まれるまで」機運は上向かない

プレッシャーから解放されたパブリッシャーたちによると、サードパーティCookieを使用しない広告技術の試験運用に関して、広告主はあまり積極的ではなくなったという。「試験運用から試行錯誤に後退した感じだ」と、インディペンデントのタッパー氏は述べている。

匿名で取材に応じたある大手パブリッシャーの幹部によると、GoogleがCookie廃止の延期を発表するまで、代替技術による広告ターゲティングの試験運用には、広告主からの実質的な予算が投じられていた。しかし、廃止の延期が表明されると「誰もがアクセルを踏む足を緩め」、すでに計上されている「試行錯誤のための最小限の予算」は据え置かれるとしても、それ以上の投資は下火になったという。「Cookieを使わないソリューションへの関心は、いまも多くの広告主やエージェンシーから寄せられる。テストを通じて知見を集める施策への引き合いもある。しかし、実際に投じられる予算は微々たる額だ。情報収集の域を出るものではない」。なお、具体的な金額については明らかにされなかった。

エージェンシーのメディアストラクションでも、事情は似たり寄ったりだという。2022年のはじめというCookie廃止の当初の期限に近くなれば、実証実験や試験運用に投じられる予算は30%から50%程度にまで伸びるだろうと見込まれていたが、実際の投資は振るわない。「全般的に見ると、脱Cookieの実験に投じられる予算は、50%にはほど遠い」とスノウマン氏は述べている。

「実際の数字はせいぜい10%程度だろう。実験や分析に関心を寄せるのは、運用部門と営業担当者くらいのものだ」とスノウマン氏。同社のクライアントの多くは、実験よりも目先の業績が気になるようだ。

しかし、インディペンデントのタッパー氏は、「実験や試験運用の後退は、広告予算全体の縮小には必ずしもつながらない」と話す。現に、同社に出稿する広告主の予算の大部分に変化はない。また、一部の広告主からは、引き続きサードパーティCookieを使用しない、オーディエンスターゲティングの試験運用に割り当てる予算を調整したいという申し出があるという。脱Cookieに関する試みは、「広告商品全体を構成する、ひとつのラインアイテムになっているのだ」と同氏は説明する。

リヴストロング(Livestrong)やイーハウ(eHow)などのメディアを所有するリーフグループ(Leaf Group)で、メディア担当シニアバイスプレジデントを務めるスコット・メッサー氏は、すでに新しいターゲティング技術の実証実験を計画している企業が、実験中止に動くことはないだろうという意見に賛意を示す。「テストの準備が整っているなら、そのまま実行するだろう。違いが出るとすれば、最後まで実験を続けるか否かだ」。

スノウマン氏によると、同社のクライアントの多くは、実証実験の予算は据え置きのまま、実験自体は来年まで先延ばしにしているようだ。ただ、猶予が残されているわけではない。サードパーティCookieをベースとした従来のターゲティングに比べると、Googleが提供しようとしているような「コホートベースのターゲティングで成果(ROI)を出すには時間がかかる」と同氏は話す。「再び追い込まれるまで、広告主は実証実験に伴うコスト効率の悪さを許容しないだろう」。

データと効果測定の強化

当然のことながら、実証実験には信頼性の高い効果測定が欠かせない。サードパーティCookieからの移行を急ぐ必要がなくなったパブリッシャーたちのなかには、匿名で取材に応じてくれた前述の大手パブリッシャー幹部のように、新しい広告商品に対応する計測能力の整備に注力するものもいる。

クリック数など、標準的な測定指標で事足りるケースもあるが、この大手パブリッシャーでは、追加の猶予期間を有効に活用して、社内的な指標作りを進めるとともに、外部の計測ベンダーと連携して、ブランドリフトや売上などの数字に対応する指標を開発したいとしている。「このような指標を開発することにより、ROIの健全性を示し、データの有効性を実証したい」と、同幹部は述べている。

また、インディペンデントをはじめ、多くのパブリッシャーは、Cookie廃止の延期のおかげで、開発中の広告商品を改良したり、広告投資を促す追加機能を実装したりする時間的余裕ができたと口を揃える。たとえば、タッパー氏によると、インディペンデントでは、アドフラウド対策やブランドセーフティ対策へのテコ入れを求める米国内の広告主の声に応えるために、インテグラルアドサイエンス(Integral Ad Science:IAS)との連携強化を図っているという。タッパー氏はこう打ち明ける。「開発の優先度をより柔軟に決められるようになった。脱Cookie以外の要素にも、機動的にリソースを配分できる」。

フォーブスでは、Cookie廃止の延期で稼いだ時間を活用して、ファーストパーティから構築するオーディエンスセグメントの精緻化に取り組むという。ソロルサノ氏はこう語る。「より信頼性の高いルックアライクモデルを構築し、たとえば、『経営幹部職の読者はこんなコンテンツを読んでいる』といえるようにしたい。データを収集するだけでなく、それらを解釈し、意味づけできるようになれば、Cookie廃止を延期した甲斐もあるというものだ」。

[原文:Poof! When Google extended the cookie deadline, urgency behind testing publishers’ new ad products subsided

KATE KAYE(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)

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