小学生の時、サイコロの展開図を習った。
立方体のサイコロを展開すると、四角が6個連なる。
衣服にも展開図がある。
衣服は型紙と呼ばれる展開図を初めにつくり、それを布に写して裁断し、縫い合わせることで立体的な服に仕立てるのだ。
平面の状態の型紙は、服のどの部分になるのかまったく予想できないことがある。
この型紙でクイズを出したら楽しそうだ。
というわけで、型紙クイズ大会を開催します!
前の記事:芽出し帽をつくりたい
> 個人サイト たびっこ動物
型紙が信じられない
ライターのトルーさんが「丁シャツ」を作る記事の中で「型紙を見た時は信じられなかったが、縫ってみると袖になった。できた袖を見てからもう一枚の部品の布を見るがやはり納得いかない。過程がブラックボックスの中にある。ずっと見えてるのに。」と言っている。
一言一句めちゃくちゃわかる。
そうなのだ。自分で作っているのに、なんでこの形になっているのかわからないのだ。
今回のクイズの回答者には、編集長の林さん、ライターのほりさん、月餅さん、石井さんに集まってもらった。
ナミノリ「では早速、簡単な問題からはじめたいと思います!」
えりの問題
このイラストの丸えりができるのは、どの型紙でしょう?
3択からお選びください。
ナミノリ「これはウォーミングアップ問題です。」
ほり「やばい。」
ナミノリ「全部に半二重丸のわのマークがついているので左右対称のパーツになります。」
ここで、型紙のマークについて説明したい。
型紙によく書いてある半二重丸のマークは、「わ」というマークだ。
図で表すと、こうだ。
先ほどの、わのマークを半分に折った布のフチにおいて裁断することで左右対称のパーツができる。
それ以外の場所で裁断をすれば、反転したパーツが2枚(右左用、裏表用など)できる。スーパー効率化だ。
型紙そのものを組み合わせるのではなく、型紙から裁断されたパーツを想像して答えを導き出して欲しい。
石井「これは折ったりせずにこの状態で使うんですか?」
ナミノリ「はい!そのままの形でえりとして使えます。」
林「①は棒状過ぎないですか?」
ほり「当ててみましょうか。」
林「②はどうだろう?」
石井「かわいらしいえりだ。」
月餅「あ!これっぽい!」
林「③の可能性もあるのかな。」
月餅「あれ?これか?」
石井「これもあるなぁ。」
ほり「③だと長さが足りなくて、首の周りを一周できないんじゃないですか?」
ナミノリ「正解です!」
ナミノリ「今回の丸えりのように、えりをぺたっと寝かせたい場合は、より首に沿ってカーブした型紙になります。」
石井「へー!おもしろい!」
ナミノリ「当てるとイメージが湧きやすいですよね!」
帽子の問題
今から見せるのはすべて帽子の型紙です。
型紙から作られる帽子のイラストを描いてください。
例題)この2つのパーツを組み立てると、
第1問
この型紙からはどんな帽子ができるでしょう?
ナミノリ「×6と書いてあるので、これを6枚使って帽子ができます。枠線は縫い代で、内側の線で縫い合わせます。」
ほり「これ、全部同じ向きで縫うんですかね?」
石井「もしかして、相互にあわせるんじゃないですか?
曲線があるから、上下に合わせていかないと縫えないんじゃないかな?」
林「たしかに…」
林「昔Zくんの頭を作ったんですけど、
こんな型紙を貼り付けていったら球体になったんですよね。」
林「でも今回の型紙は下が広がってるんだよなぁ。くっつかないのかなぁ。」
ほり「くっつきますよ!たぶん!」
曲線に悩んだ全員の回答はこちら。
正解は、
全員「あー!そうだ!やっぱり!」
石井「曲線でも縫えるんですね。」
ほり「布の柔軟性すごい。」
縫い合わさり方が想像しにくい理由は、縫い方にある。
縫う時は、パーツを中表(なかおもて:表同士を内側にすること)にして縫い合わせ、広げて完成なのだ。
出来上がりを見ながら描く絵とは違って、転写するまで合ってるかどうかわからない版画みたいなものだと思う。
縫い終わって広げてから初めてミスに気づいた時は、仙台に牛タン食べに行ったのに臨時休業だったときぐらい萎える。
第2問
この型紙からはどんな帽子ができるでしょう?
石井「チューリップハットと似た×6のパーツは、同じように頭を一周しそう。キャップかな。」
ナミノリ「かまぼこのようなパーツと、三日月のようなパーツはそれぞれ裏表で貼り合わせて使います。」
林「裏表ってことはリバーシブルになるのかな?」
林「紅白帽かと思ったけど、直線のパーツが余るなぁ。」
ほり「三日月のパーツは帽子のつばだと思うんですよね。ただ直線だけ謎だ。」
月餅「直線!なんなんだ!」
全員の悩みは、直線パーツの使い方のようだ。
林「直線はもうこうするしかないなぁ。」
月餅「わかる!こうなっちゃう!」
ほり「あ!これだ!」
ナミノリ「ヒントは冬にかぶる帽子で、内側にふわふわの生地を使います。」
石井「冬にかぶる帽子?」
月餅「直線はどこと繋がるんだろう?」
月餅さんが型紙を動かしていると、パーツのガイド線にピッタリと合った。
石井・月餅「そうか!わかった!」
全員の回答はこちら。
正解は、
石井「一度これだ!と思うとそこから離れるのが難しいですね。」
第3問
この型紙からはどんな帽子ができるでしょう?
この問題が1番難問だと思っていたが、みんなスイスイと組み立てていく。
で、
みんな正解みたいな顔をしている。
ナミノリ「違いますよ。」
石井「羽みたいだからナポレオンの帽子かな。」
林「流線型になりそうだなぁ。」
ほり「三日月パーツは×2あるってことは、つばじゃないですか?」
何回も組み立てていると、
月餅「誰か!つばをどこかにつけてください!」
ほり「めっちゃいいぞ!」
林「わかった!ここだ!」
月餅「見えた!!!」
全員の回答はこちら。
正解は、
ほり「うしろとよこはそういうことか!すげー!」
月餅「これすごい!!わかった時めっちゃ楽しい!」
ナミノリ「正解を組み立ててみましょう。
ハンチングはつばの上にぼうしのでっぱりが乗っているんです。」
林「名古屋にこういう建物ある。」
シャツの問題
ナミノリ「このBはどこに使うパーツでしょう?ヨークというパーツです。」
石井「わかるやつから当てはめていきますか。」
ほり「Gは袖ですよね。」
林「そうか!袖は丸まるのか!」
ほり「袖の型紙に剣ボロ、タック、タックと書いてありますね。」
林「あ!これ、剣ボロだ!タックもついてる!」
月餅「てことは、Bのパーツも林さんの中にあるってことですよね?」
石井「当ててみましょう!」
月餅「あ!ここじゃない?」
で、これがここで、これはこう!と全部当てていく。
ナミノリ「正解です!」
ナミノリ「Bのヨークはシャツの肩から背中にかけての切り替わっている部分です。」
石井「なるほど〜!」
ほり「Eのパーツがわからないなぁ。」
林「Eはえり?」
ほり「いや、えりはAじゃないですかね?」
石井「もしかしてえりは二部構成なんじゃないですか!?」
ナミノリ「そうなんです!」
ナミノリ「シャツのえりは、EのえりとAの台えりの2パーツで作られていることが多いです。」
ほり「おもれー!」
月餅「服すげー!」
林「このシャツとかが980円とかで買えちゃうのすごいですね?」
ナミノリ「そうなんですよ!シャツってこんなに複雑なのに。」
石井「服を縫うのって、機械縫製でできるんですか?」
ナミノリ「服はたくさん流通してますが、今でも手作業でミシンで縫ってます。」
月餅「これはもっと払うべきだよ!」
石井「絶対よくないことが起きている気がする。」
石井「安くなるとパーツ数が減るんですか?」
ナミノリ「そうですね、基本的に複雑なほど手間賃として値段が高くなります。
服を作る時は、ここの縫い目を減らせばあといくら安くできる!などの交渉がありますね。」
ジャケットの問題
ナミノリ「このaはどこに使うパーツでしょう?」
林「ジャケットってこれだけでできるんですか?」
ナミノリ「できます!ただし今回はツルツルした裏地のパーツはなしです。」
林「dとeは前と後ろだよなぁ。」
林「bは袖?」
石井「bとcで袖なのかな?」
ほり「長さを測ってみよう。」
ナミノリ「ジャケットの形をよく思い出してみてください。」
石井「えりですよ!胸のところにでてるえりの部分!」
月餅「あれ?このaとeの角がすごい似てませんか?」
ナミノリ「皆さん正解です!これは前のえりの裏側のパーツです。」
林「前のえりって本体と別なの?」
石井「ジャケットのえりってどうなってたっけ?」
ナミノリ「ほりさんのジャケットに当ててみましょう!」
ナミノリ「aはほぼ見えない裏の布ですが、えりの部分だけ表に折り返して見えているので、ツルツルの裏地ではなく表の布で必要なんです。」
月餅「ここに布があったのか!」
石井「裏まで表ってことだ!」
林「こんなに複雑とは全然知らなかったです。
服の形に切ってそれを2枚縫い合わせたら服ができるのかと思ってました。」
ナミノリ「毎日着てても縫い目まで細かく見ないですよね。」
服はすごい
見たことない形の型紙が「君はえりだったのか!袖だったのか!」と、実は身近なパーツだと知ったとき、服とぐっと仲良くなれた感じがする。
しかしそれも束の間、縫ってみると思いもよらない形になってまた理解できなくなる。
わかるようでわからない。
なかなか手玉に取らせてくれない。
もはや崇高さを感じてくる。
そんなミステリアスさが型紙の魅力だと思う。
ぜひ時間のある時に、いつも着ている服がどんなパーツから成り立っているのか、じっくり観察してみてほしい。
服のすごさに気づくはずだ。
記念の糸切り
それは、ほりさんのジャケットを借りて説明していた時のこと。
月餅「あれ?ほりさん、背中のスリット部分のしつけ、切ってないんですか?」
ほり「え?ここって切るんですか?」
ナミノリ「ここ、切りますね。」
ほり「はずい。このまま10年くらい着てました。」