運動嫌いでも腸内環境を整えるだけでやる気が自然と湧いてくるという研究結果

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「運動は体にいい」ということは分かっていても、なかなかやる気が起きないという経験は誰しもあるはず。Natureに掲載された新しい研究により、腸内の環境を整えるだけで運動への「やる気」が湧いてくる可能性が指摘されました。

A microbiome-dependent gut–brain pathway regulates motivation for exercise | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05525-z

To Hack Your Motivation to Exercise, You May Just Need to Tweak Your Gut Microbiome
https://singularityhub.com/2022/12/20/to-hack-your-motivation-to-exercise-you-may-just-need-to-tweak-your-gut-microbiome/

ペンシルバニア大学のレンカ・ドナロヴァ氏らが着目したのは、腸内に生息するさまざまな細菌「腸内細菌叢(そう)」です。これまでの研究で腸内細菌叢の特定の微生物が食物を消化する際に化学物質を排出し、腸から脳へとつながる主要な神経を活性化させてうつ病などを改善することが分かっているなど、「腸と脳の関係」は切っても切れないものとして多くの研究で取り上げられています。

ドナロヴァ氏らは腸内細菌叢が体に及ぼす影響について探るべく、200匹以上のマウスを使って調査を行いました。ドナロヴァ氏らはまずマウスの身体を調べ、遺伝子配列や腸内細菌叢の状態、走るのが好きなのか嫌いなのかといったさまざまなデータを収集しました。

次に、マウスを車輪の中で走らせるという実験も行いました。マウスは基本的によく動くので多くのマウスがたくさん走ったそうですが、ほとんど車輪に触れない怠け者のマウスもいたそうです。

このような個体の違いを遺伝子の観点から調べたところ、驚いたことに遺伝的特性は走るか走らないかにほとんど影響を与えていませんでした。そのため、ドナロヴァ氏らはマウスの血液中の分子や腸内細菌を機械学習を用いて分析し、個体差とランニングのパフォーマンスとの関係を調べることにしました。


その結果、マウスの走る意欲を刺激する唯一の要因がマウスの腸内細菌にあることが判明します。この結果をもう少し掘り下げて因果関係を探るべく、ドナロヴァ氏らが運動能力の高いマウスの腸内細菌を抗生物質で一掃してみたところ、そのマウスは以前とは打って変わって怠け者になってしまったとのこと。一方で無菌室の中で育てたマウスに元気なマウスの腸内細菌を移植したところ、そのマウスは積極的に運動するようになったそうです。

ドナロヴァ氏らはマウスにこうした変化が見られたことについて、腸内細菌叢の働きにより生じるドーパミンが原因ではないかと推測。ドーパミンは運動による脳内神経化学物質の変化によって分泌されることがあり、ドーパミンによってもたらされる快感が運動意欲を高める要因であることが分かっていることから、腸内細菌叢の働きによってドーパミンが放出された可能性があったのです。

ドナロヴァ氏らがマウスの腸内細菌叢を調べたところ、運動能力の高いマウスには「脂肪酸アミド」と呼ばれる物質の分泌に特に優れた腸内細菌集団がいることを発見しました。この化学物質は「鍵」の役割を果たして「錠」となる受容体を作動させるもので、脂肪酸アミドがCB1受容体と呼ばれる受容体に働きかけると、電気信号が脳に送られてドーパミンが大量に放出されるといいます。

一方で上記の腸内細菌を持たないマウスではドーパミンの急上昇は見られず、おまけにドーパミンを急速に分解する酵素が多く存在するせいで「ランナーズハイ」の効果が失われていることが判明したとのこと。


ドナロヴァ氏らは「これらの知見は、運動意欲の個人差に腸内細菌叢が影響している可能性を指摘するものです」と述べています。また、研究に関与しなかった神経学者のギュリスタン・アギルマン氏は「もしこの研究結果が人間に通用するならば、腸内細菌をターゲットにすることで、エリートアスリートであろうとなかろうと、運動するという意思決定を改善できるのではないかという疑問が生じます。この研究の人間への影響を考えたくなりますが、これらの調査結果の関連性を測るには、より広範な評価が必要です」と述べました。

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