ホリデーシーズンにおけるパブリッシャーの eコマース 戦略:

DIGIDAY

パブリッシャーのeコマースチームはその多くが、ブラックフライデーまでどのような状況が続くのかよく知っている。製品をPRするメールが何百通と届き、受信箱はメーカーの広報がギフトガイドに入れてほしいと訴えるメールで溢れかえる。セールが発表されれば、もれなくチェックしなければならないし、もちろん、ホリデーショッピングも週末も働き詰めだ。編集スタッフは皆、仕事から解放されて感謝祭を楽しんでいるというのに。

「経済状況を考えると、第4四半期は忙しくないのではないか、あるいは、例年より鈍いのではないかと思っていた。でも、第4四半期は第4四半期だ……いつもと変わりない」。そう話すのは、複数のパブリケーションを抱えるメディア企業で、ブランドコンテンツのチームを取り仕切るeコマースエディターだ。匿名を条件に話してくれた。「真面目な話、抗うつ薬の量を増やしたばかり。何せ、この数週間はあまりにも大変だったから」。

eコマース戦略の「最適化」

ストレスのたまる時期であることは疑いようがないが、2022年は経済の見通しが立たないうえ、それが消費者の予算にも影響を与えることになり、事態はさらに悪化しているようだ。その結果、メディア各社でアフィリエイトeコマース関連の収益が圧迫される可能性は否めない。

とはいえ「うちの編集戦略なら、10年を超える実績があるので、今後eコマース事業を強化できるのではないか」と希望を持つ編集者もいる。「我々ができるのは、どのコンテンツであれ、お金を払おうとしている人たちにとって最適化することだ」とファウンドリー(Foundry)のパブリケーション、PCワールド(PCWorld)とテックハイブ(TechHive)で編集長を務めるジョン・フィリップ氏は話す。

その「最適化」の基準がパブリッシャーによって違い始めている。その違いは、編集スケジュールの変更や記事の更新頻度から、製品紹介用に製品を選ぶ方法にまでおよぶ。それでは、パブリッシャーがブラックフライデー前のeコマース戦略をどのように最適化を計画しているのかチェックしてみよう。

早ければ早いほうがよい

トラステッド・メディア・ブランズ(Trusted Media Brands)でシニアショッピングエディターを担うブライス・グラバー氏によると、リーダーズ・ダイジェスト(Reader’s Digest)では、ギフトガイドとホリデーショッピングのコンテンツの制作を開始するのは8月中旬から下旬だという。多少内容を変更したり、特に好調なコンテンツに製品を追加したりすることはあるものの、「たいてい、クリスマスの準備はハロウィーンまでに完了する」と同氏は話す。

11月第1週までにコンテンツをすべて稼働させたら、第4四半期の残り約2カ月のために、極上の枕など人気の定番商品や、冬を暖かく過ごすための季節アイテムのコンテンツに戻るという。最後の追い込みの製品紹介やホリデーシーズン向けの更新は、チームの1人か2人に任せて、第4四半期を終えるのがグラバー氏のやり方だ。

フリージャーナリストのジル・シルトハウス氏はリーダーズ・ダイジェスト、トラベル+レジャー(Travel + Leisure)、ブライズ(Brides)などでeコマースコンテンツの記事を書いており、ホリデーショッピングの時期は第3四半期末が一番忙しくなるという。「私の場合、ギフトガイドの仕事に着手したのは9月で、今はもうはすべて終わっている。終了したのは1週間くらい前」とシルトハウス氏は11月22日時点で米DIGIDAYに回答している。とはいえ、2022年は通常よりホリデーシーズンの仕事が少なく、過去何年も寄稿してきたパブリケーションがいくつか廃刊になったせいだと彼女は考えている。

しかしながら、すべてのパブリッシャーが、第4四半期が始まったばかりのこの時期に、ホリデーシーズン用コンテンツの準備をすっきり終えているわけではない。

「ブラックフライデー級のイベントが連続している」

ファウンドリーの消費者向けITパブリケーション、PCワールドとテックハイブでは、例年通り、自社スタッフは感謝祭とブラックフライデーの両日とも通常勤務で、セールが始まるときには、すべてのセール用コンテンツがパブリッシュも更新も完了した状態になる。なお、英国在住の従業員には感謝祭の休みがないスタッフもいる一方、米国チームには代休があり、スタッフは年内もしくは年が明けてから休みを取ることができると編集長のフィリップ氏は説明する。

ファウンドリーがブラックフライデーのコンテンツを本格的に始めるのは11月第1週だ。それ以降はほぼ毎日新たなリンク先や情報を追加して記事を更新していく。しかしながら、フィリップ氏によると、こうした投稿を3カ月ごとに必ず刷新することや、自社ウェブサイトが依然として、どのバーティカルマーケットプレイスでもブラックフライデーショッピングの大御所であるとGoogleにアピールすることは実に「通年の取り組み」なのである。

ニューヨーク・ポスト(New York Post)では、10月に開催されたAmazonのプライム・アーリー・アクセス・セール(Prime Early Access Sale)が加わっただけでなく、ほかにも同時期に小売店のショッピングイベントがいくつか加わり、2022年の編集スケジュールはかなり変わった。

「ブラックフライデーよりも前に別の、ブラックフライデーに匹敵するイベントが入り、それまでのモードではやっていけなくなった」。そう話すのはニューヨーク・ポストでeコマース担当バイスプレジデントを務めるジャッキー・ゴールドステイン氏だ。「ブラックフライデー級のイベントが突然出てきたので、本来ならブラックフライデー用コンテンツに割かれるはずだった時間がそのために使われたのだ」。

去年のホリデーシーズンと違う点

2022年第4四半期のパブリッシャーのeコマース戦略は、1年前のホリデーシーズンとは多少違いがある。これは、小売店がこぞって、ショッピングイベントを10月(ショッピングホリデーを支えるイベント「ブラックフライデー」と「サイバーマンデー」の1カ月以上前)に始めたことも原因のひとつだが、この経済状況で、消費者がこれまでの買い物パターンを変えるのではないかという兆しが見えたことも原因に挙げられる。

米DIGIDAYが9月に実施した調査に対し、パブリッシャーのフューチャー(Future)でCROを務めるザック・サリバン氏は、機能や質が高く、そのせいで比較的値が張る商品よりも、どのカテゴリーであれ特にお値打ち製品を多く紹介するように心がけていると回答した。

「インフレは諸刃の剣だ。誰もが物価上昇で危機感を募らせ、いい買い物をしようと躍起になっているので、ブラックフライデーは大いに盛り上がるのだろう。だが同時に、消費者が出費できる金額は減少しているのだ」とファウンドリーのフィリップ氏は話す。

製品の選別とPRの問題

とはいえ、製品のピッチ資料がメールで山ほど送られてくるのは、どの年も似たり寄ったりだ。毎年この時期になるとライターやエディターの受信箱はこの手のメールでいっぱいになる。

「私のところには毎日400通くらいPRピッチが勝手に送りつけられてくる」とフリージャーナリストのシルトハウス氏は話す。そうした大量の製品ピッチのなかからギフトガイドに掲載される場合もあることは知られているものの、すでに繁忙期が始まったタイミングで送られてきても、ほとんどはふるいにかけられておしまいになる。

シルトハウス氏もトラステッド・メディア・ブランズのシニアショッピングエディター、グラバー氏も、この大量メールの問題を何とかしようと、パブリッシングプラットフォームのサブスタック(Substack)を利用して、個人のニュースレターを始めた。ギフトガイドや製品紹介の仕事が入ったら、探している製品の条件を明記したニュースレターを送る。たとえば、「Amazon Primeで取り扱われている」「評価が500件以上で、星の平均が4つ以上ある(リーダーズ・ダイジェストの場合)」「スキムリンクス(Skimlinks)のようなアフィリエイトプラットフォームに掲載されている」といった具合だ。

シルトハウス氏は2021年10月に「Jill Schildhouse’s Call for Pitches」を、また、グラバー氏は2021年初頭に「Bryce Gruber’s Sharing Opps」をそれぞれ開始し、何千人というPR担当者からフォローされている。

ニューヨーク・ポストのeコマースチームでは通常、セレブのトレンドをチェックし、インスピレーションを大切にしながら、どの商品がこのシーズンにバズるのかを捉えるが、今年の戦略では、データが指し示すトレンドが大半を占める。ゴールドステイン氏は、eコマースチームが注目するのは前年の投稿でコンバージョン率が特に高かった製品やブランドであり、今年再びどのアイテムを目玉にするのかを決める際にはコンバージョン率を考慮するという。

価格設定モデルの検討

ニューヨーク・ポストの調査チームが推奨する方法を見てみよう。「当社は10月に最初のギフトガイドを出すが、10月の時点で取引がさほど伸びるとは考えていない」とゴールドステイン氏は話す。ただし、いざ客が購入ボタンを押すタイミングで、検索結果の上位に位置するためには、こうして事前に記事をアップすることが不可欠なのだ。

アフィリエイトコミッションの収益がいつも低いコンテンツは、10月中に収益化の方法を見つけておくことも重要だ。そのため、ゴールドステイン氏のチームでは、eコマースの価格設定モデルを修正し、適用可能な製品に関してはクリック単価(CPC)制に変更する。ニューヨーク・ポストは通常、年間の金額をほぼ予め設定する定額制と顧客獲得単価(CPA)制のハイブリットだが、取引が増加する11月になると、CPC制からハイブリッドを優先させるパターンに戻すという。

「10月に買い物をする人たちもいるが、たいていウィンドウショッピング・モードだ。だから、10月のギフトガイドではCPC制をより戦略的に取り入れるようにする」とゴールドステイン氏。「必ずしも『マスト』な選択ではない――ただ、CPC制の導入がプラスに働くのは間違いない」。

一方、グラバー氏によると、トラステッド・メディア・ブランズでは手数料収益を念頭に製品を探そうとはしていないという。「パブリッシャーとしては編集チームに対し編集者としての真の声を持ってもらいたいと考えている。編集の現場で、10セント(約14円)や1%のコミッションをくれる業者に恩義を感じる必要は決してない」とグラバー氏。さらに、CPC制のコスト構造は、コンテンツ制作のコストをカバーできるような価格設定になっていないのが一般的だと付け加えた。

「CPCの収益ははした金」

複数の情報源によると、CPC制の価格設定はクリックあたり0.10ドル(約14円)から2ドル(約280円)が相場だが、グラバー氏は、CPC制の収益はそのほとんどがはした金で、1クリックあたり4セント(約5.6円)から6セント(約8.4円)にすぎないと話す。

ファウンドリーのフィリップ氏は、社内のアフィリエイトチームと組み、価格設定モデルの理解を深めて最適化を実践する一方で、編集チームにはある特定の価格設定モデルや手数料に固執して製品を選ぶことのないように伝えていると話す。とはいえ、アフィリエイトチームが収益の状況や時期を考慮して、製品の価格設定を変更することはある。

「第4四半期のeコマースの収益は増加を見込んでいるが、これが収益を押し上げる市場全体の傾向だとは考えていない。というのも、ファウンドリーはブラックフライデー関連コンテンツの制作に関して、他社よりも経験が豊富だからだ」とフィリップ氏は持論を展開する。なお同氏は、2022年のeコマースの収益や、その収益がブランド全体の収益に占める割合について、具体的な数字の提示を差し控えてた。

[原文:‘Halloween is when Christmas ends’: A look at publishers’ pre-Black Friday commerce content playbooks

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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